別の年の<俺> 柏餅の妖精さん 4 終
本日三度目の投稿です。
青年たちはくるくる回っている間に正気に戻ったのか、誰からともなく回るのを止めて手を離し、そそくさと帰って行った。
これに懲りず、また来てね! の気持ちをこめながら、俺は彼らの背中に向かって手を振り、その場で飛び跳ね、今まで以上に踊りまくったのだった。
身体が重い。もう動けない。体力の限界だ。
青年たちのもたらした険悪な雰囲気を、何とか好転させるため、限度を越えて頑張ってしまった俺は、只今控え室でトドになっている。
柏餅着ぐるみは一番に脱ぎ捨てた。内側は汗でびしょびしょだ。長手袋も外したけど、白タイツは穿いたまま。このままじゃヘンタイだ。早く脱ごう。そう思うのに動けない。
「何でも屋さん」
羽田さんが控え室の入り口から顔を出した。手には盆を持っている。
「ありがとう、本当に助かったよ。<柏餅の妖精さん>の渾身の踊りは素晴らしかった。お陰でせっかくのイベントがおかしなことにならずに済んだんだから」
「あー・・・まあ・・・」
口をを開くのも億劫だ。このまま眠ってしまいそう・・・
「水分採ってもらってるけど、熱中症は怖いからね。無理しないで休んでね。良かったら、柏餅も食べて。糖分の補給も大切だと思うんだ」
「あー・・・ありがとうございます・・・」
羽田さんの言うことももっともだと思って、俺は上半身を起き上がらせた。羽田さんが持ってきてくれたお盆には、きれいな色の水出し緑茶の入った硝子ポットとコップ、それに柏餅が三つ盛られた皿がのっている。
「こし餡、つぶ餡、味噌餡です。ゆっくり食べてくださいね」
俺が頷くと、これから閉店作業してきます! と羽田さんは去って行った。
「・・・」
こし餡、つぶ餡、味噌餡。たかが柏餅、されど柏餅。俺を窮地に追い込んでくれた菓子だけど、こいつらには罪は無い。有り難くいただくことにする。
「・・・美味い」
無意識に、そう呟いていた。戎橋心斎堂の柏餅は、本当に美味い。ああ、和菓子にはやっぱり緑茶が合うなぁ。
え? 俺はどの餡が一番好きかって?
内緒。
それから一週間と数日後のこと。
例の三人組が再び戎橋心斎堂を訪れ、五月の和菓子・柏餅を買いに来たという。三人仲良く全種類の餡入りを買っていったというから、これからはもう二度と、彼らの間でこし餡・つぶ餡・味噌餡争いは起きないだろう。やれやれ。
──あの後、しばらく筋肉痛に苦しんだ俺は思った。
妙な拘りと喰わず嫌いは人生の損。他人に迷惑。
四の五の言わず、まずは味わってみるべし。
この時、何考えてこれを書いたのかな・・・と遠い目になってしまいました。
20140505~20150516