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別の年の<俺>  柏餅の妖精さん 2

「妖精さん、ちーす!」


三人のうち一人が軽~く声を掛けてきた。ゾンビのような骨々ボディ。きっと太れない体質なんだろうなぁ。


「ふ○っしーよりチープで面白い!」


がっちりした体格の二人目が、こちらの了承も得ずにバシバシ写メりまくる。別にいいけど。俺の顔が出るわけじゃないし。


「すみません、こいつ、ご当地ゆるキャラを見ると見境がなくて・・・」


すまなそうに謝るのは、一番常識がありそうな中肉中背の青年。トシのわりに老けて見えるのは、先の二人の保護者的存在だからだろうか。三人とも同じゼミに所属しているらしい・・・苦労してるんだな。


三人は、それぞれのレシートをひとつにまとめ、確認役の羽田さんに渡した。羽田さんは「全部で柏餅九個のプレゼントになります」と告げる。


と・・・


「柏餅といえば、つぶ餡!」


ホネホネが叫ぶ。


「いーや! 柏餅といえばこし餡。俺はこし餡しか認めない!」


写メるのを止め、声高に宣言するゆるキャラ好き。


そんなんどっちでもいいじゃん、と<柏餅の妖精さんの踊り>を踊りつつ考えてた俺は、二人の保護者的な三人目が場を収めるのだと思っていたのだが・・・


「何言ってるんだよ。柏餅といえば味噌餡だろ! 二人とも何考えてるんだよ。つぶ餡もこし餡も邪道! 味噌味こそ究極にして至高!」


何か変なスイッチが入ったらしい三人目が、目を座らせて残りの二人を睥睨する。


たかが柏餅で、友情が壊れそうになるのを俺は初めて見た。


「こし餡の滑らかな食感が、柔らかな餅の控え目な弾力とマッチし!」

「つぶ餡のつぶつぶが、噛めば噛むほどえもいわれぬ食感を舌に残し、弾力のある餅とのコラボが!」

「味噌餡の風味が、餅を包んだかしわの葉の香りと絶妙に溶け合って、その味はまさに天上の音楽!」


侃々諤々。ギャースギャース。グルメレポーターも及ばぬほどの豊富な語彙を駆使し、いかに己の支持する餡が最高にして至高であるかを主張し、互いに一歩も譲らない。


「こし餡の素晴らしさが分からないとは・・・」

「つぶ餡のぷちぷち感の良さが理解出来ない、だと・・・」

「味噌餡を頬張った時の、あの鼻に抜ける至福の香りが感じられないとは・・・」


睨みあう三人。おい、お前ら一緒に飲み会の買出しに来るほど仲が良かったんじゃないのかよ? 何でたかがオマケのプレゼントごときでそんなにいがみ合うんだ?


ワタシのために、争わないで!


それが<柏餅の妖精さん>である俺の、偽らざる気持ちだった。頼むよー、止めてくれよー。お前らのせいで、客たちがそそくさと逃げていってしまったじゃないか!


「・・・なんか、オレたち意見が合わないみたいだな」


低い声で、こし餡派のホネホネ男。


「そうだな」


吐き捨てるように、つぶ餡派のご当地ゆるキャラ好きガッチリ体格男。


「せっかく同じゼミに入ったというのに・・・残念だよ」


三人の中で一番の常識人に見えたのに、ただの頑固な味噌餡派だった男が不穏な方向にまとめてしまう。


おいおいおい、ホントにどうすりゃいいんだよ。せっかく商店街の店主たちが知恵を絞って楽しいイベントを企画したってのに・・・原因(?)になった柏餅だって可哀想じゃないか。柏餅に罪は無いんだぞ?


ん? 柏餅。

俺、<柏餅の妖精さん>。


青年たちの口論のあいだも、なんとか頑張ってゆるゆる踊っていた俺は、そこでぱったりと動きを止めた。動いていたものが静止すると、嫌でも目に付く。


「え? 何? どうしたんだ?」


注目を集めたのを確認した俺は、そのままゆっくりと崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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