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別の年の<俺>  男の料理教室 3

和風麻婆豆腐丼と簡単澄まし汁を平らげた野間さんは、満足そうだった。

俺もご相伴にあずかったが、我ながらそこそこ美味い。ま、見かけは悪いんだけど。


食後のお茶を飲んで、ほうっと満足の溜息をついた野間さん。表情が明るい。


「ありがとうございます。これで何とか単身赴任を乗り切れそうです」


そう、今回のお料理教室(?)は、野間さんからの依頼だった。地元に妻子を残してこっち方面の子会社に出向してきたものの、料理なんてしたことなくて毎日毎日コンビニ弁当やホカ弁を食べていたら、あの独特の味がだんだん受け付けなくなり、そのうち匂いを嗅いだだけで吐き気に見舞われるようになってしまったんだそうだ。


毎日外食するほどの余裕があるわけでもなく、晩飯用のコンビニ弁当を買いに出てきたものの、あの味を思い出してやっぱり嫌になって公園のベンチで項垂れていたところに、犬の散歩で通りかかった俺が声を掛けたのがきっかけ。──だってさ、あの時の野間さん、今にも死にそうな顔色してたんだよ。


俺だって別に料理が得意というわけじゃないけど、簡単なものなら作れるから、良かったら教えましょうか、という流れになったわけだ。身につまされた、というのもある。──離婚してから、俺も食には苦労したからな。


「お役に立ててよかったですよ。澄まし汁なんかもね、本当は昆布と鰹節で出汁を取ったほうが美味しいんですが、合成調味料だって上手に使えば、コンビニ弁当なんかよりずっと美味いもんが作れます。野菜なんかも取りやすくなりますしね。応用が効くんですよ」


「野菜か・・・どうしても不足しがちになってしまうんですよ」


「たとえば、この和風麻婆豆腐。今回はひき肉と豆腐しか入れてませんけど、椎茸やネギ、ニラなんかを入れてもいいんですよ」


ま、入れすぎると失敗しますけどね、と一応釘を刺しておく。


「まあね、食べるのはどうせ自分だけなんだから、色々試してみたらいいですよ。なんていうんでしたっけ、トライ・アンド・エラー? その料理に合う野菜、合わない野菜、そういうのがそのうち分かってきますよ」


「トライ・アンド・エラー・・・そうですね。いわゆる試行錯誤ってやつですね」


「そうそう」


野間さんの言葉に、俺は頷き、ヒ○シ○ルうどんスープを使ったレシピをあと二つ教えてメモしてもらった。


ひとつは、モヤシを使った中華風スープ。


1.モヤシは洗って笊に取り、水を切っておく。

2.水気の切れたモヤシを、まな板にのせて適当に短く切る。

3.中華鍋にごま油をたっぷり熱し、薄く煙が出てきたらモヤシを投入、炒める。

4.しゃきしゃきに炒まったら、水を投入。俺はいつも目分量だけど、だいたい五百ccくらい。

5.入れた水が沸騰するまでの間に、片栗粉を水で溶いておく。

6.沸騰してきたらアクを掬い、火を引いてヒ○シ○ルうどんスープを一袋入れる。それから水溶き片栗粉を少しずつ入れて、トロミを出す。

7.トロミが出たら、とき卵を回しかけ、火を止める。

8.風味付けにごま油を入れて軽く混ぜる。


「あの、ヒ○シ○ルうどんスープって、和風の出汁なんですよね?」


野間さんが問う。ちょっと不思議そうだ。


「それなのに、中華風になっちゃうんですか?」


「なります。ポイントはごま油です。あと、食材も影響しますね。さっきの中華風スープは、モヤシを使うのが一番いいです。キャベツだとちょっと違うし、うーん、モヤシでなければニラでもいいかもしれません。そうそう、最後に胡椒を振ってもいいと思いますよ」


「野菜選びがなんだか難しそうな気がします・・・」


「それなら、自信が付くまではレシピ通りの材料を使えばいいと思いますよ」


「そうか・・・そうですよね」


「あと、味が薄いな、と思ったときは、塩や醤油をごく少量足して味を調えてみてください。そうですねぇ、塩なら耳掻きに半分弱くらいからかな。うっかり入れすぎるとしょっぱくなってしまうので要注意です」


それから俺は、二つめのレシピを教えた。


1.ヒ○シ○ルうどんスープとスーパーで売ってる安いギョーザを用意する。

2.鍋に水を入れて沸騰させ、ヒ○シ○ルうどんスープをを溶かす。

3.沸騰させたままのスープに、ギョーザを投入(五個くらいが目安)。

4.ギョウザに火が通れば火を止める。

5.風味付けのごま油を少々(目安は小さじ一杯くらい)入れて混ぜ、胡椒を振る。


「いわゆる、水餃子ってやつでしょうか。普通に焼いたら不味いギョーザでも、こんなふうにすると美味しくいただくことが出来るんです」


「それは簡単そうで、いいですね! ギョウザは好きなんですよ」


明日、さっそく試してみようかな、と野間さんはうれしそうだ。


「スープを若干濃い目に溶いて、シイタケやニラを入れるとまた美味しい一品になりますよ。けっこう食べでのある一品です」


野間さん、ご飯は炊けるっていうし、目玉焼きなら作れるらしいし、今回俺が教えてレシピを繋ぎにしてレパートリーを増やしていけば、あとは何とかなると思う。


「最後に、味噌汁ですけど・・・これはヒ○シ○ルうどんスープで作るとしょっぱくなってしまうんです。だからシ○ヤかつお出汁や昆布出汁を組み合わせるといいですよ」


「そ、それはちょっと難しそうですね・・・」


あー、やっぱりそんな感じになっちゃうか。分かる分かる。俺もそうだったもんな。


「ヒ○シ○ルうどんスープでも作れないことはないんですよ。味噌を少なめにすればなんとかなります。具は、乾燥ワカメがあれば便利ですよ。あとは好みでいろいろ試してみるといいと思います」


豆腐とか、たまねぎとか、麩とかね、と、使いやすそうな具剤を上げておく。


「あんまり気負わないことですよ。ご飯炊いて、味噌汁作って、目玉焼き焼いて。あと、漬物でもあればそれだけで一食いけるでしょう? 目玉焼きだけだと物足りないと思うなら、ベーコンエッグとかハムエッグにすればいい。フライパンに蓋をして、弱火でじりじり焼けば失敗しないですよ」


ふっ、俺だって慣れるまでの間、何度もベーコンエッグを焦がしたもんだぜ。焦げた臭いがして、慌ててフライ返しでひっくり返したら、時既に遅く裏側が真っ黒に・・・。焦げの比較的少ないところを取って食べたけど、あれは不味かったなぁ・・・

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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