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別の年の<俺>  男の料理教室 2

動揺する野間さん。うーん、説明するのが難しいな。濃そうな匂いがする、って分かる人には分かるけど、彼にはまだ難しそうだ。


「だいたいのカンみたいなものなので・・・あ、もちろんこのままでも大丈夫なんですよ。ただ、このままだとちょっと濃そうなので」


濃い味のほうが好きですか? と訊ねてみると、薄いのも嫌だけど濃いのも嫌だという。


「じゃあ、やっぱり水を足しましょう。ほんの少し・・・そうですね、これくらい」


そう言って、おれはだいたい五十CCくらいの水を少しずつ鍋の中に足していった。


「こういう場合、一気に水を入れてしまってはいけません。中身と馴染ませるように、ゆっくり混ぜながら足していきます」


豆腐が潰れまくっているが、問題ない。肝心なのは、美味いものを作ることだ。見掛けは二の次。


後から足した水も馴染んだようで、再びくつくつと煮え出す。完成だ。


俺は小皿に鍋の中身を少し取り分け、スプーンを添えて野間さんに差し出した。


「どうぞ。試食してみてください」


小皿を受け取った野間さんは、ごくり、と喉を鳴らした。空腹から、というより、緊張してるからだろうな。


しばらく手に持った小皿を睨んでいた野間さんは、スプーンを手に取った。意を決したように中身を掬い、口に入れる。


もぐもぐと顎を動かすうちに、眉間の皺が徐々に薄くなる。次いで、驚いたような目を俺に向けてきた。


「どうですか?」


ごくり、と口の中のものを飲み込んで、野間さんはぽつり、呟いた。


「美味しいです・・・」


それは良かったです、と、俺は微笑んでみせた。


「見かけは悪いけど、味は上々でしょう? ご飯に合うと思いませんか?」


「思います! これだけでも美味しいけど、丼にしたいなぁ」


「そうでしょう、そうでしょう。ま、味見では合格点が頂けたようなので、最後の仕上げです」


そう告げて、俺は再びごま油を取り出した。


「え? またごま油ですか?」


「はい。これを、こんなふうに──」


だいたい、小さじ一杯分くらいを鍋の中に入れ、ざっと混ぜた。


「はい、これで和風麻婆豆腐の完成です」


「和風麻婆豆腐・・・」


感動したように野間さんは中華鍋を見つめる。


「こんなに簡単に作れるものなんですね」


その言葉に、思わず俺は苦笑してしまった。


「まあ、麻婆豆腐、と呼ぶのはおかしいかもしれませんけどね。なんちゃって麻婆豆腐ということで」


「それでも、すごいです・・・」


「普通の辛い麻婆豆腐は、豆板醤というのを使うんですよ。そっちも簡単にできるんですが、野間さんは胃が弱い、とお聞きしたので、和風のほうをご紹介してみました」


気遣いに恐縮する野間さんに、残りご飯があるなら、どんぶりに入れてレンジで暖めてください、とお願いする。


追加で簡単に汁物を作りつつ横目で見ていると、野間さんは「玄関開けたら二分でご飯」で有名なサ○ウのご飯を出してきた。慣れた手つきでレンジに入れるところを見るに、よく利用しているようだ。


俺の方は、小鍋に湯を煮立たせ、ヒ○シ○ルうどんスープを投入。火を止める直前に刻んでおいた青ねぎを散らした。


「それは?」


「スープ代わりのすまし汁です。お湯を沸かしてヒ○シ○ルうどんスープを入れて、刻みネギを散らしただけの簡単なものです。ネギの代わりに乾燥ワカメを入れてもいいですよ」


「すごい! あっという間に二品ですね」


「いやいや、お湯を注ぐだけのインスタントのスープと同じですよ。具を工夫できる、というのが強みかな。とき卵を入れてもいいし、それはお好みで」


レンジでチンされたご飯を受け取り、適当な入れ物が無かったのでカレーを盛るような深皿に移し変えた。湯気を上げる白飯の上にまだ熱い和風麻婆豆腐をたっぷりかける。汁椀に簡単すまし汁をよそい、レンゲを添えた。いろいろちぐはぐだけど、これで昼飯の完成。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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