別の年の<俺> 四月 寒の戻り余波 1
翌日。
朝、グレートデンの伝さんの散歩に続き、タロの散歩を終えてから、病院まで石田さんの様子を見に行った。昨日に比べたらかなり回復していて、ホッとした。
念の為、あと二日ほどは入院しているらしい。石田さんからは改めて愛犬タロの世話を頼まれたので、快く了承した。
それにしても、昨日の混乱の中、保険証を忘れなくて本当に良かった。あれがないと、後から色々面倒だからなぁ。
買い物代行したり、雨で痛んだ古い板塀を簡単に修理したり、小学生の算盤塾送迎なんかをやってるうちに今日も一日が終わる。夕方の散歩では、タロに「明後日にはじーちゃんが帰ってくるからな」と話しかけたりもしたんだが、タロはやっぱり元気が無かった。可哀想だけど、こればっかりはなぁ。じーちゃんはちゃんと帰って来るんだから、堪えろ、タロ。
そんなこんなで、遅くなった夕飯。疲れたせいか酸っぱ甘いものが食べたくなった俺は、イワシの南蛮漬けに挑戦してみた。スライサーで薄く切って水に晒したタマネギと、同じく薄く棒状に切った人参を一緒に漬け込んでみると、けっこういい感じ。これで後、残ったたまねぎのヘタと乾燥ワカメで味噌汁でも作るかな、というところで、古道具屋の慈恩堂さんから明日のヘルプ依頼が来た。
なんと、店主真久部さんも、この寒の戻りに油断して風邪を引いてしまったんだそうだ。
寝込んでいる間、店を閉めておくことが出来ればいいのだが、明日はどうしても開けないといけないのだという。何でも、断れない来客が来るのだとか。
慈恩堂の店番か・・・気が進まないなぁ・・・
そんな俺の気持ちは百も承知の真久部さんは、ここぞとばかりに高い報酬を約束して来る。そうなると、万年ふところが寒い俺としては、断るという選択なんか出来ないわけだ。もったいなくて。
くぅっ! 策士め!