かの年の<俺> 寒い年末 おいもの唄はローレライ
遠くから、オカリナのような音が聞こえてくる。
ぽ~・・・
あ、石焼きいも屋だ。
い~しやぁき~いも~ おいもっ い~しやぁき~いも~
おいし~ おいも~だよっ い~しやぁき~いも~
うう、腹が減った。石焼きいも美味そう。家庭ではなかなか出せないあの味。ほっくりぽっくり、割るとあっつあつの黄色いおイモが、甘い匂いのする湯気をほわっと立ちのぼらせて・・・
思わず、ごくり、と喉を鳴らす俺。
こたつに置いた古いノートパソコンで、顧客データ管理と今週のスケジュール再調整をしていたんだが、石焼きいも屋独特のあの節回しが、抗い難いセイレーンの歌声のように俺を誘惑する。
作業をほっぽり出して外に買いに走るべきか、それともこのままキリのいいところまで続けるか・・・
おいもっ い~しやぁき~いも~ おいし~ おいし~ おいも~だよっ
い~しやぁき~いも~
ぽ~・・・
・・・
・・・
葛藤している間に、行ってしまった。そうなるとよけい食べたい石焼きいも。明日も来たら、買う。買いに行く。ちょっとお高いから、今夜のなんちゃって鍋焼きうどん用のカマボコは、明日に持ち越して節約しよう。そうしよう。
くっ、いも! 石焼きいも!
おいもの唄の、なんという魔力。
奇しき魔が歌 歌うローレライ・・・じゃなくて、石焼きいも屋のオヤジ!
20131220