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いつかの年の<俺> 藤の蔓 その8
「えーと、もしかして、こういうことかと思うんですけど」
俺は考え考え、住職に訊ねてみた。
「なんて言うのかな、例えば、樹齢何百年の大木を切り出して運ぼうとしたら、押しても引いても動かなかったのに、酒を供えて手を合わせてお願いしたら、それまでのことが嘘みたいに簡単に運び出すことが出来たとか、霊柩車のエンジンが急にかからなくなって困った時、故人と親しかった人がお棺を撫でたら普通に動き出したとか、そういう話ありますよね」
「はい、ありますね」
「藤の蔓もそういうことなんでしょうか、つまり、その、うまく言えないんですけど、納得してもらうっていうか、諦めてもらうっていうか、そのままでいてもしょうがないですよ、っていうメッセージっていうか」
だんだん自分でも何を言ってるのか分からなくなってきたけど、住職は頷いてくれた。
「そうですね、そうかもしれません。蔓は先だけ切り取るわけですから、それが<断ち切る>という呪になるのかもしれませんね。俗世の未練から」