いつかの年の<俺> 藤の蔓 その6
ここ、って、どこですか? 住職!
ドキドキドキ。何か怖い。聞くのが怖い。でも、聞かなければ聞かないで、それはそれでまた怖い。
「いつ、誰が始めたことなのか、それは知りません」
相反する思いに引き裂かれ(大袈裟だな)、内心で身悶える俺のムンクな精神状態に気づくこともなく、住職は続ける。
「ただ、昔から言い伝えられているのですよ。『どうしても亡骸が燃えない時は、藤の蔓を一緒に燃やせ。そうすれば、亡骸は燃えて無事お骨になることが出来る』とね」
「何でですか?」
何ゆえ、藤の蔓?
「分かりません」
住職は首を振る。
「分かりませんが、ご遺体がどうしても燃えきらない時、言い伝えの通りにすると、本当にそれまでが嘘であったかのように、無事に燃えてきれいにお骨になるのです」
「えっと・・・」
俺は回らない頭で考えた。ともすればフリーズしそうになる頭で考えた。
「さっきの葬儀社の方が、わざわざこちらに藤の蔓をもらいに来たっていうことは・・・」
「久しぶりに、どうしても燃えないご遺体が出たということでしょう。あんなに慌てていたところを見ると、よほど時間が押していたんでしょうな。火葬場も、日によってはかなりな過密スケジュールになるようですから」
そういえば、この暑いのにあの人、真っ青な顔してたなぁ・・・
「その、無事に燃えるんでしょうか」
住職は頷く。
「燃えるでしょう。藤の蔓が効かなかったという話は、これまで聞いたことがありませんから」
最終兵器ってか、リーサルウェポンみたいなもんなんだろうか。
・・・藤の蔓が?