いつかの年の<俺> 藤の蔓 その5
「ああ・・・」
住職はゆるゆると目を瞬かせた。
「そう、そうですね。今時の人はもうこんなことはご存じないかも知れませんな」
今時っても、俺だってそれなりの年なんだんだけどなぁ。
心の中でそんなことを思いつつ、さらに訊ねてみる。
「えーと、よく分かりませんけど、昔は珍しくはなかったようなことですか?」
俺の問いに、住職は首を振った。
「いえ。昔でもそう頻繁にあるようなことではなかったです。ただ、たまに──ごくごくたまにあったのですよ、火葬にした御遺体がなかなか燃えきらないということが」
「も、燃えきらないって・・・」
「昔は今と違って、旧式の窯を使って、人が火加減を見ながら焼いておりました。それはやっぱり時間がかかりましてな、専門の人がつききりで、今のように簡単にはいかないものでした」
「はぁ・・・」
「それでもさすがその道のプロフェッショナルですから、荼毘に付された御遺体は無事お骨になるわけですが、中にはうまくいかない御遺体もあったのですよ」
「それは、その・・・薪が足りなかったとかでは?」
「いえいえ、それはありません。いつ御遺体が運ばれてくるか分かりませんので、普段から薪は充分用意されていました。専門の人が窯の様子を見ながら薪をくべ、丁寧に焼いていくのですがな、ごくたまに、どれだけ薪を足して火力を強めても、お骨にならない御遺体があるんです」
「お骨にならないって・・・その、原形を留めて、それ以上変化がないということですか?」
言葉をぼかしつつ(だって怖いじゃないか)、恐る恐る聞いてみると、住職は頷いた。うっ・・・ここは否定して欲しかったです。
「じゃあ、そういう場合はどう・・・?」
どう、するんでしょうね。
ダメだ! 想像したくない!
心の裡でぐるぐる苦悩する俺に、さらりと住職は言った。
「ここで藤の蔓を使うんですよ」