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いつかの年の<俺> 藤の蔓 その5

「ああ・・・」


住職はゆるゆると目を瞬かせた。


「そう、そうですね。今時の人はもうこんなことはご存じないかも知れませんな」


今時っても、俺だってそれなりの年なんだんだけどなぁ。

心の中でそんなことを思いつつ、さらに訊ねてみる。


「えーと、よく分かりませんけど、昔は珍しくはなかったようなことですか?」


俺の問いに、住職は首を振った。


「いえ。昔でもそう頻繁にあるようなことではなかったです。ただ、たまに──ごくごくたまにあったのですよ、火葬にした御遺体がなかなか燃えきらないということが」


「も、燃えきらないって・・・」


「昔は今と違って、旧式の窯を使って、人が火加減を見ながら焼いておりました。それはやっぱり時間がかかりましてな、専門の人がつききりで、今のように簡単にはいかないものでした」


「はぁ・・・」


「それでもさすがその道のプロフェッショナルですから、荼毘に付された御遺体は無事お骨になるわけですが、中にはうまくいかない御遺体もあったのですよ」


「それは、その・・・薪が足りなかったとかでは?」


「いえいえ、それはありません。いつ御遺体が運ばれてくるか分かりませんので、普段から薪は充分用意されていました。専門の人が窯の様子を見ながら薪をくべ、丁寧に焼いていくのですがな、ごくたまに、どれだけ薪を足して火力を強めても、お骨にならない御遺体があるんです」


「お骨にならないって・・・その、原形を留めて、それ以上変化がないということですか?」


言葉をぼかしつつ(だって怖いじゃないか)、恐る恐る聞いてみると、住職は頷いた。うっ・・・ここは否定して欲しかったです。


「じゃあ、そういう場合はどう・・・?」


どう、するんでしょうね。

ダメだ! 想像したくない!


心の裡でぐるぐる苦悩する俺に、さらりと住職は言った。


「ここで藤の蔓を使うんですよ」


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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