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いつかの年の<俺> 藤の蔓 その3
わけが分からなくてぼんやりしているうちに、住職から藤の蔓を切ってもらった男性が、韋駄天のように境内を駆け抜けて行った。すぐに車のエンジン音が聞こえる。
ヴォン、ヴォン、ヴォー、ヴロロロロ
キュキュッ!
ヴ、ヴォーン、ヴォー・・・・・・・
遠ざかるF1みたいなエンジン音。何をあんなに慌ててるんだろう。事故らなきゃいいけど・・・
「大丈夫でしょう。日頃は安全運転をなさる方です」
俺の心の声が聞こえたかのように、住職は言った。
日頃は、って。今日はあんまり安全じゃないように思うんだけど。
そんな俺の思いをよそに、住職は園芸用の枝切り鋏を布で丁寧に拭っている。
「この鋏は、こういう時のために縁側の床下に置いてあるんですが、久しぶりの出番でした」
「はぁ・・・」
やたら慌ててる男性と、藤の蔓と、住職。
──ダメだ。俺にはやっぱりわけが分からない。
「あの・・・さっきのあの方は、一体どういう・・・?」
恐る恐る訊ねた俺に、住職は事もなげに答えた。
「葬儀社の社員さんなんですよ」
何ですか、それ。
あああ、さらにワケワカメに!




