157/308
いつかの年の<俺>小話 雨の七夕
ずっとどんよりした空模様だったけど、昼過ぎから降りだした。
滝のような雨。
見る間に、道路が冠水状態。突然の豪雨に、排水が間に合わないんだな。時間が経つにつれて、降り始めの時よりはましになってきたけれど。
今日は七夕。ここ一週間くらい、あちこちで笹が乱立してて、短冊も満員御礼状態。あんまり願い事が多すぎて、天の川が氾濫起こしたのかな。
今年も織姫と彦星は会えないのか・・・
「だいじょうぶだよ、おじさん。雨のときは、かささぎが天の川に橋をかけてくれるんだよ」
小原さんちの健一くんが教えてくれる。こんな雨だけど、塾は休みにならないからな。いつも通り俺が送り迎えすることになってる。
「そっか。ありがとう、健一くん」
お礼を言うと、えへへ、と笑う。えくぼが可愛い。
「ねえ、おじさん」
急に真剣な顔になって訊ねてくる。何だ?
「かささぎ、って、何?」
かささぎっていうのはねぇ・・・そんなことを話しながら歩いた、雨の七夕。