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その年の<俺>のお盆 18 完

八月十六日。


伝さんの夕方の散歩を済ませ、高田さんちの祐介くんを塾までお迎えに行く前に、三日前に迎え火を焚いた屋上で、俺は送り火を焚いた。


来年、また帰って来いよ。


薄く立ち上る煙の行方を目で追いながら、俺は心で呟いた。


十四日、十五日には、もう何も事件は起こらなかった。十三日のあれは、きっと特別だったんだろう。この三日間、ごく平穏に何でも屋としての一日を過ごせた。いつもの通りに。


今日も・・・もう何も起こらないだろう。あんなこと、そうそうあるもんじゃない。ちなみに、あの少女拉致未遂犯はやはりドラッグの常用者だったそうだ。


それにしても、最近の塾は盆も正月も無いんだな。十四、十五日はさすがにあの事件の煽りを受けて臨時の休みになったが、変質者対策強化に警備会社を入れたとかで、今日から夏期講習再開だ。小学生から夏期講習・・・世も末のような気がする。


ま、いいか。

あの塾では、学年を超えた子供遊びを教えているそうだし。


夏休み限定の、ほんの三十分ほどの時間だそうだが、年上の子が年下の子の面倒を見ることを覚えるというのは、良いことだと俺は思う。学年が上のお兄ちゃんお姉ちゃんに遊んでもらった子は、自分がその学年になった時、自然と下の子の面倒を見るだろう。


そういえば、ヨリコ・パパもヨリコちゃんが小学生になったらあの塾に入れたいとか言ってたな。小学一年生で塾なんて早すぎると思うけど・・・


ヨリコ・パパといえば。

すっかり伝さんに懐いてしまって・・・


あれから連日伝さんの夕方の散歩を待つようになった。娘と一緒に。彼らが待っているのは公園の中だから、俺と伝さんが来るまでの間、ブランコとかシーソーとかしててそれなりに父子の有意義な時間を過ごしているようだ。


今日も胸をぴん、と張った伝さんが俺を従えて(?)現れると、もう大興奮状態。抱きつくわ、頬擦りするわ、撫でるわ。そりゃもう、娘が呆れるくらいに。


それほどに超大型犬種・グレートデンの伝さんに慣れたヨリコ・パパだが、他の犬は相変わらずダメらしい。それがたとえ掌に乗りそうなほど小さなチワワでも、愛らしいトイ・プードルでも。立ち竦むくらい怖いのだそうだ。


理由を問うと、「No reason!」という答が返ってきた・・・ あんたはコカ・コーラの回しものか、ヨリコ・パパ。


ま、伝さんは彼の命の恩人だし。会社が盆休みの間は来るだろう。もうすぐ旅行から帰ってくる吉井さんに「伝さんのファンが出来ました」って伝えよう。吉井さんも喜ぶだろうな。


吉井さん、あの家のブロック塀が崩れた話には驚くだろうなぁ。後から交番に顔を出して聞いてみたら、やはり土台の老朽化が原因だったらしい。


・・・今日はビル風が穏やかだ。たまに突風は吹くけれど、この前キティちゃん柄のパンツを飛ばされた時ほどではない。送り火の煙に乗っていく弟たちも、道中が楽だろう。


「さて、お迎え行くか」


よっこいしょと俺は立ち上がった。祐介くんが待っている。





あの日。色んなことがあって、疲れて、晩飯の幕の内弁当を食べてビールを飲み干して・・・気がついたら朝だったあの日。


弟の分のビールが減っていたかどうかは、誰にも教えない。





<俺>のお盆 完


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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