その年の<俺>のお盆 15
「おじさーん!」
子供の声に振り返れば、やや! ビル玄関から顔をのぞかせている、あれは高田さんちの祐介くん。
ん? 他の子供たちも一緒になって恐々とこちらをうかがっているではないか。職員らしき大人たちもいるぞ。おいこら、職員。ダメじゃないか。こういう時は子供たちをどこか安全な部屋にでもまとめて入れておかなくちゃ。
警官その壱とその弐がまだ失神している男をパトカーに積み込むと、子供たちがわっと飛び出してきた。
「おじさんすごい!」
「かめんらいだーがいむ!」
「ちがうもん! ごれんじゃーだよ!」
「きょうりゅうじゃーだよー!」
子供たちにもみくちゃにされる俺。見てたのか、きみたち。でも、おじさん何にも覚えてないんだよ。
とほほな気分でふと目を上げると、職員に付き添われて女の子が立っていた。
「おじさん。ありがとう」
「あ、きみ・・・」
男に拉致されそうになったあの女の子だ。小学校三年生くらいだろうか。健康的に日焼けしているけれど、これくらいの子供はまだまだ壊れそうに小さい。
この子が、もしあのまま連れ去られていたら・・・
うわああああ、嫌だ、想像したくない。別れて暮らしている俺の娘が、もしそんな目にあったら。そう思うととても他人事に思えない。俺は慌ててその子に近づき、怖がらせないようにしゃがみ込んだ。
「どこか怪我したりしなかった? 悪いやつはお巡りさんが捕まえてくれたからね。もう大丈夫だよ」
そっと頭を撫でる。女の子は小さく頷いた。まだ恐怖の余韻の消えない瞳は、涙で濡れている。かわいそうに、怖かっただろう。
「おじさん」
「ん? どうかした? どっか痛い?」
心配する俺に、だいじょうぶよ、と女の子は首を振る。それから、あのね、と続けた。
「おじさん、ほんとうに強くてすごかった。悪のそしきにさらわれて改造された人造人間みたい。おじさんの名前、ほんごうたけし? ショッカーと戦ってるの?」
・・・この子の親は、仮面ライダーのDVDでも見せてるのか?