その年の<俺>のお盆 14
「ですから・・・」
警官その壱とその弐は顔を見合わせ、その壱が口を開いた。
「あなたが、その男を、確保したんです」
誰が、誰を、どうしたって?
何だか、頭の中が洗濯機ストームぐるぐるど真ん中、って何言ってるんだ、俺。
「え・・・?」
「あの、本当に覚えていないんですか? 冗談ですよね?」
「・・・冗談?」
マイケル・ジョーダン、ってそれは違うよな。あれ、あれ、あれれ。何か身体のあちこちが軋んでるような気がする。あれ?
「自分より体格的に勝る相手を、あなたは華麗な逮捕術で制圧したんですよ。我々が手を出すヒマもなかったです」
その男、あんなごついナイフまで持ってたようじゃないですか。
警官その弐が落ちているサバイバルナイフを目で示した。
「わ! 何ですか、あれ。あんなもん、持ち歩いていいんですか?!」
恐怖に引き攣った声を上げる俺を、不審そうに見つめる警官たち。
もちろん、ああいうものを持ち歩いてるのを見つけたら、銃刀法違反で現行犯逮捕です、と声を揃えて言う。
「まだ距離は離れてましたが、あなたがこの男の手からナイフを放させるのを見ましたよ。それを蹴って遠くにやるのも。なあ?」
その壱がその弐に同意を求める。
「自分も目がいいので。ええ、確かに見ました、あなたが男の手の届かない場所にナイフを蹴るのを」
「本当に? 本当に俺がそんなことをやったっていうんですか?」
俺の問いに、警官たちは頷く。
「・・・」
俺はどうしても信じられなかった。暴漢から逃げるなら分かる。それなのに、暴漢を取り押さえるなんて、そんな。死んだ弟ならともかく・・・
・・・弟?
「──・・・」
俺は自分の手をじっと見つめ、弟の名前を呟いた。
もしかして、お前か? お前が助けてくれたのか? ・・・俺の身体を使って?
「手取り足取り、ってやつかな・・・」
「は?」
「いや、何でもないです・・・」
霊って実体がないもんな。昔見た映画であったなぁ。恋人の身に危険が迫っていることを伝えようと、ゴーストになった男が頑張るんだけど、ものを掴むことさえ出来ないから、どうしても彼女に伝える術がなくて。結局、霊媒師の身体に乗り移ってしゃべるんだったっけ?
俺の場合は、霊というか弟が直接俺に乗り移って、俺の身体を動かした、ということになるんだろうな、やっぱり。
・・・信じがたいけど。