その年の<俺>のお盆 8
「あれ、そういえば・・・」
ふと呟いて、ヨリコ・パパが周囲を見回した。何かを探しているようだ。
「どうかしましたか?」
「お連れの方は?」
「連れ?」
俺は相当変な顔をしていたんだろう。ヨリコ・パパは何だか申しわけなさそうにぼそぼそと続けた。
「だって、あなたと伝ちゃんと、三人、じゃなかった。二人と一匹で歩いてたじゃないですか。頼子が伝ちゃんに抱きついているのを、その人もにこにこしながら見てましたよ」
「え?」
二人と一匹って。俺はずっと伝さんと歩いてたけど、他に連れなんていないぞ。
どういうことだ?
何をどう考えていいのやら放心している俺に、ヨリコ・パパは追い討ちをかけた。
「あなたとよく似た、というか、そっくりな顔で・・・ もしかして、双子のご兄弟ですか?」
「・・・え?」
俺は勢いよくヨリコ・パパを振り返った。そんな俺の反応に、彼はびっくりしているようだ。
「あれ、違うのかな? 双子でなくてもそっくりな兄弟もいますよね。もしかして、親戚の人とか? 僕の親戚にも、見た目良く似た従兄弟がいますよ」
「・・・」
俺はどう答えていいのか分からなかった。我ながらうろうろと定まらない視点が、ふとヨリコちゃんを捉える。
「・・・ヨリコちゃんも見たの?」
「みたって、なに?」
小鳥のように、幼女が首をかしげる。
「このおじさんとそっくりの、もうひとりのおじさん」
俺の言葉に、彼女は首を振った。
「しらないの。よりちゃん、でんちゃんしかみてないもん」
何故か自慢げに答えるヨリコちゃん。あー、そうだろうな。俺なんか、彼女からしたらオマケみたいなもんだ。俺は思わず苦笑していた。
「あれ、頼子。そのおじちゃん、頼子の頭を撫でてくれてたのに。どうして知らないの?」
ヨリコ・パパは納得出来ないようだ。
が、親の心子知らず(?)。しらないったらしらないもん。ヨリコちゃんはそう言って、また伝さんにしがみついている。
「おかしいな。その人が伝ちゃんのリードを外したんですよ。何でこんな道のど真ん中で超大型犬を放すのか分からなくて、それでよけいに僕、怖かったんですが」
その人が伝ちゃんを解き放ってくれたお陰で、僕、伝ちゃんに助けられたんです。ヨリコ・パパはそう言った。
「──その人は、そんなに俺に似ていましたか?」
俺は、静かに訊ねていた。
「ええ。背格好もそっくりでしたよ」
ヨリコ・パパは答える。
俺は大きく息をついた。ふと気づくと、伝さんがつぶらな瞳でじっと俺の顔を見つめている。
俺はそんな彼の、発達した筋肉に覆われたしなやかな背中をゆるゆると撫でながら、ぼんやりと呟いていた。
「それ、多分、俺の弟だと思います」
「あ、やっぱり?」
ヨリコ・パパはうれしそうに微笑んだが、次の言葉を聞いた瞬間、その笑顔は凍りついた。
「俺の弟、もうこの世にいませんけどね」