その年の<俺>のお盆 5
「うー」
幼いなりに葛藤しているのが窺える。はぁ、娘のののかもこれくらいの頃があったんだよな。根気良く言って聞かせれば、子供なりに納得してくれるんだが。
「ほら。パパが待ってるよ。買い物の帰りだろう? 今日の晩御飯は何かな?」
「かれー! パパがつくるの。」
「そっか。パパがつくるのか。楽しみだね」
「うん!」
こんなふうに話題をそらすと、幼い子は疑いもなく誘導されてくれる。素直さって美徳だな。俺は改めて感動した。で、こんな時間に娘と買い物に出て夕食作りとは、ヨリコ・パパは多分勤め先が盆休みなんだろうな。
「じゃあ、早く帰らなきゃね。でないと、パパがカレー作れなくなっちゃうよ?」
「やー! パパのカレー!」
ヨリコちゃんはべそをかきつつ、それでもお座りした伝さんの背中を撫でたり抱きついてすりすりしたりしている。パパのカレーは食べたし、されども伝さんとも離れがたし、というところか。しかし、幼女に「二兎を追うものは一兎をも得ず」などと説いてもなぁ。
さて、とりあえず抱っこしてパパのところまで連れていこうか、と思った時だった。ふと見ると、伝さんが何やら耳を欹てるような仕草をしている。
「伝さん?」
呼びかけるも、明後日の方を向いた伝さん、ゆったりと機嫌よく尻尾まで振っている。おいおい。誰に愛想してるんだ? そのふんふん鼻声は何だ?
「おん!」
俺が話しかけた時みたいに返事したかと思うと、伝さんはヨリコちゃんの手をするりと離れ、急に駆け出した。あれ? リードがいつの間にか外れてる?
「伝さん!」
俺は叫んだ。伝さんは何故かヨリコ・パパの方に向かって弾丸のように疾走していく。
「ひ、ひぃぃぃ~!」
ヨリコ・パパの怯えきった悲鳴が聞こえた。
「ケルベロス、フェンリル、流れ星銀・・・!」
いや、三つめのは何か違う、と思いつつ、俺はヨリコちゃんを抱えて伝さんに向かって叫んだ。
「伝輔号! ストップ! ストップ・アンド・ステイ! こら~っ!」
それでも伝さんは止まらない。
「ああっ!」
伝さんが、ヨリコ・パパに飛び掛った・・・!
魂切る悲鳴と、そして・・・
短いですが、キリがいいのでここまで。




