その年の<俺>のお盆 2
お、俺の趣味じゃないぞ? 別れた妻の許にいる、俺の最愛の娘・ののかからのプレゼントなんだ。
他に、ビビッド・グリーンとショッキング・ピンク、エメラルド・グリーンの色違いがあるらしいが、頼むから薄い色にしてくれとお願いしたら、シュガーピンクになった。不本意だが、アウターにひびきそうな濃い色よりマシだ。ちなみに、ののかはおそろいの柄のパジャマを買ったそうだ。
ののかは、叔父であり俺の元義弟の智晴からデイトレーディングの手ほどきを受けているらしい。儲け幅は小さいものの、それなりに稼いでいるそうだ。まだ五歳なのに・・・ そんな子供に、株と通販の利用の仕方を教えてしまった智晴を、いつかシメてやろうと俺は考えている。
いや、今はそれよりも、突風に飛ばされそうなトランクスだ。早く拾いに行かなければ。あんなものが人目に触れたら恥ずかしい。たとえ、俺のものだと知られないとしても。
俺は簡易フェンスから身を乗り出し、足場に引っかかったキティちゃんトランクスに手を伸ばした。
あと少し、というところで、ものすごい突風が俺の背中を押した。
うわあ、眼下に真っ黒なアスファルト道路が見える! 太陽に灼かれて、陽炎が立ってそうだ。あんなところに落ちたら、死ぬ。
アスファルトが冷えて固まった溶岩のように見えて、慄いた時。
「うわっ!」
俺はたまらず尻餅をついた。ビルの真下から、突然上昇気流のように風が駆け上がってきたのだ。
背中をどつかれ、アッパーカットを喰らってダウン。スリーカウント、ワン、ツー、スリー・・・ って、違う! ここはリングじゃないし! それ以前に、俺はボクサーじゃない。
いや、レスラーでもないけどもさ。
「はー・・・」
俺は思わず安堵の溜息をついていた。いや、今のは怖かった。マジで不本意なスカイダイビングをかますところだったよ、屋上から。
いつも忌々しく思っていたビル風だけど、今回は助けられた。時々、予想もつかない方角から風速何メートルだよ、みたいな風が吹くからな。
「ん?」
ふと足元を見ると、俺が掴もうとしていたキティちゃんのトランクスが落ちていた。さっきの垂直上昇型(?)ビル風で、引っかかっていたところから吹き飛ばされたんだろう。やれやれだ。また風にさらわれたてはたまらないので、俺は急いでそれを拾った。
広げてみると、プリントされたキティちゃんが、とぼけた顔してすましている。
オヤジの穿く下着でコレは恥ずかしいが、先日ネット通販で見かけた七福神トランクスとどっちが恥ずかしいだろう、とボケたことを考えながら、俺は仕事に出かけるべく、屋上から一旦事務所(兼、自宅)に戻ることにした。
グレートデンの伝さんが待っている。