翌年の師走頃の<俺> 轢き逃げ 6
今日は色んなことがありすぎて、疲れた。
朝から犬の散歩や引越しの手伝いや、飛び込みで入った買い物代行なんかをこなした後、とどめが事故。
「はぁ・・・」
本当にクタクタだ。今夜はもう寝よう。夕飯は三人に説教されながら食べたし。お見舞い代わりだと、智晴の取ってくれた出前の寿司は美味かったな。
「ふふ・・・」
思い出し笑い。赤ちゃん返りしたみたいに、俺にぴったりはりついていたののか。元妻に、パパは足が痛いのよ? と窘められても、ただ首を振るばかりで、俺から離れなかった。可愛くて、思わず久しぶりに「あーん」なんてやっちゃったよ。甘い伊達巻が好きなんだよな、ののかは。
口いっぱいに頬張って一所懸命もぐもぐしながらも、絶対に俺の膝から降りなかったののか。
あー、やっぱり娘は可愛い。
・・・アキコちゃんも無事で良かった。あの子も、あのご両親の可愛い娘だ。怪我させなくて、本当に良かった。
その夜、俺はいつの間にか元妻か智晴がベッドに入れておいてくれたらしい湯たんぽを抱えながら眠った。何だか、とても幸せな夢を見たような気がする。
その日からしばらく湿布のニオイをプンプンさせることになった俺だが・・・
まともに歩けないので、先に請けていた依頼をキャンセルしてもらうことになった。お得意様には申しわけないが、しょうがない。この足で犬の散歩は無理だ。ミニチュアダックスフントのリリちゃんみたいない小さな子でさえ無理なんだから、グレートデンの伝さんなんか言うまでもない。
もっとも、伝さんだったら杖代わりになってくれるかもしれないが。
そんなわけで、しばらくは歩かなくても出来る仕事しか請けられなくなってしまった。ああ、何でも屋のはずなのに、これでは看板に偽りが・・・
溜息。
収入減を覚悟していた俺だが、何故かちょこちょことそういう依頼ばかりが入ってきて、正直助かった。常にないことなので、不思議に思って話を聞いてみると、どうやら、お得意様たちのご紹介があったらしい。ありがたいことだ。
この時期、配達の多い酒屋さんの店番+表計算ソフトを使った経理やら、寺の古い文書の整理、通販カタログの文字校正(商品のスペックに間違いがないか確認する仕事。文字が細かいんで、根気がいる)、お年寄りの話し相手、etc,etc。
無理をせずに済んでいるので、腕の打ち身も足の捻挫も毎日少しずつ良くなってきているのが分かる。この分だと、治るのも早いんじゃないかな。
よし。正月に向けてがんばるぞ! ののかにお年玉あげたいし。
──日々の仕事に精一杯の俺は知らなかった。身を挺して(ってことになるんだろうなぁ)ひき逃げ車からアキコちゃんを守った俺は、お得意様ばかりではなく、地域の皆様からも一目置かれる「何でも屋さん」になったということを。
そして、今までにもまして、「我が子の送り迎えを依頼するなら、絶対にあの何でも屋さん!」と考える親御さんが増えたということを。
そういう親御さんたちが、俺をめぐり、水面下(?)で熾烈な争い(つまり、俺の取り合いだな)をしているなんて、全然知らなかったのだった。
『轢キ逃ゲニモ負ケズ、な、何でも屋さん』完