表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/308

翌年の<俺>の七夕 5

「なあ、洋一くん。アメリカで、天の川を<天の川>って言っても通じないだろう?」


「うん・・・たぶん、通じないと思う。milky way って言わないと」


下を向いたまま答える洋一くん。おおう、さすが帰国子女。発音がチガウ。


「だからさ、君の叔父さんは、日本の七夕の歌をアメリカ風にアレンジしたんだと思うよ」

「アレンジ?」

「そう。ゴールドを金銀砂子にかけてさ。砂金が出るのは確かだし」


「・・・叔父さん、僕に嘘ついたんじゃないの?」


「嘘じゃないよ。叔父さんのアレンジだ。で、今日、君はオリジナルの意味を知ったというわけだ」


ヒヤヒヤしながら言葉を重ねる俺。

何か、詐欺師にでもなったような気分。


「洋一くんはこのお祭に来るの、今年が初めて?」


頷く彼に、俺はにっこり笑ってみせた。あー、我ながら胡散臭い笑顔。油断すると口元がひくひくしそう。


「じゃあさ、短冊に願い事を書いて、一番乗りで笹の葉につるしておいで」


出来立てほやほやだよ、と俺は薄いブルーの短冊を差し出した。おそるおそる受け取る洋一くん。健太くんには薄いクリーム色の短冊を渡し、お願い調子で言ってみる。


「健太くん、今日は洋一兄ちゃんに一番をゆずってあげてくれるかな? 兄ちゃんにとっては、記念すべきオリジナル七夕だから」


うん、いいよ! と元気の良い返事が返ってくる。


「いい子だね。じゃ、おじさんが抱き上げてあげるから、高いところにつるそうね。ほら、君も」


俺は先ほど助け舟(?)を出してくれた男の子にも短冊を渡した。着ている浴衣の色に合わせて、薄いグリーンを選ぶ。


「三人とも、そこのテーブルで願い事を書いて。色んな色のペンがあるから、すきなのを選んでいいよ」


子供たちはうれしそうに、楽しそうに、願い事を書きにいった。いざ書く段になるとちょっと恥ずかしそうになるのが微笑ましい。ああ、俺もついでに書いておくか。


今年も毎月ののかと会えますように。


ののかは俺の一人娘だ。離婚後、親権は元妻にあるから、俺は月に一度の面会日にしか彼女に会えない。元妻は約束を守って毎月きちんとののかに会わせてくれるけど、たまに何かの都合で会えないことがある。そういう時はがっくり来るんだ。贅沢は望まない。ただ、娘には会いたい。


ああ、俺って何ていじらしい父親なんだろう・・・

こんなこと言ってると、元妻の弟の智晴にバカにされそうだけど。いいんだ。父親ってのは、娘には弱いものなんだよ。ふん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ