翌年の<俺>の七夕 5
「なあ、洋一くん。アメリカで、天の川を<天の川>って言っても通じないだろう?」
「うん・・・たぶん、通じないと思う。milky way って言わないと」
下を向いたまま答える洋一くん。おおう、さすが帰国子女。発音がチガウ。
「だからさ、君の叔父さんは、日本の七夕の歌をアメリカ風にアレンジしたんだと思うよ」
「アレンジ?」
「そう。ゴールドを金銀砂子にかけてさ。砂金が出るのは確かだし」
「・・・叔父さん、僕に嘘ついたんじゃないの?」
「嘘じゃないよ。叔父さんのアレンジだ。で、今日、君はオリジナルの意味を知ったというわけだ」
ヒヤヒヤしながら言葉を重ねる俺。
何か、詐欺師にでもなったような気分。
「洋一くんはこのお祭に来るの、今年が初めて?」
頷く彼に、俺はにっこり笑ってみせた。あー、我ながら胡散臭い笑顔。油断すると口元がひくひくしそう。
「じゃあさ、短冊に願い事を書いて、一番乗りで笹の葉につるしておいで」
出来立てほやほやだよ、と俺は薄いブルーの短冊を差し出した。おそるおそる受け取る洋一くん。健太くんには薄いクリーム色の短冊を渡し、お願い調子で言ってみる。
「健太くん、今日は洋一兄ちゃんに一番をゆずってあげてくれるかな? 兄ちゃんにとっては、記念すべきオリジナル七夕だから」
うん、いいよ! と元気の良い返事が返ってくる。
「いい子だね。じゃ、おじさんが抱き上げてあげるから、高いところにつるそうね。ほら、君も」
俺は先ほど助け舟(?)を出してくれた男の子にも短冊を渡した。着ている浴衣の色に合わせて、薄いグリーンを選ぶ。
「三人とも、そこのテーブルで願い事を書いて。色んな色のペンがあるから、すきなのを選んでいいよ」
子供たちはうれしそうに、楽しそうに、願い事を書きにいった。いざ書く段になるとちょっと恥ずかしそうになるのが微笑ましい。ああ、俺もついでに書いておくか。
今年も毎月ののかと会えますように。
ののかは俺の一人娘だ。離婚後、親権は元妻にあるから、俺は月に一度の面会日にしか彼女に会えない。元妻は約束を守って毎月きちんとののかに会わせてくれるけど、たまに何かの都合で会えないことがある。そういう時はがっくり来るんだ。贅沢は望まない。ただ、娘には会いたい。
ああ、俺って何ていじらしい父親なんだろう・・・
こんなこと言ってると、元妻の弟の智晴にバカにされそうだけど。いいんだ。父親ってのは、娘には弱いものなんだよ。ふん。