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翌年の<俺>の七夕 2

織姫と彦星に思いを馳せつつ、のんびりゆったり夕涼み。


それなりに広い境内には、街中に珍しく樹齢何百年というような木々が繁っており、夜ともなればさらに涼しく、プチ森林浴気分が楽しめる。それに、人ごみと熱気に揉まれて埃まみれにならずに済むから、乳幼児も余裕で連れてこれる。


毎年各地で行われる大花火大会を巨大テーマパークとすれば、この町内会主催の七夕祭は気軽なこどもゆうえんち。大掛かりな絶叫マシンはないけれど、パンダとうさぎとぞうさんの、びょんこびょんこした乗り物はある。そんな感じ。


こんなふうにこじんまりして居心地の良い雰囲気を気に入って、わざわざ隣町から子供連れで参加する人もいるらしい。大人も子供も力を抜いて参加できるってのがいいよな。


寺は毎年無料で境内を提供してくれているそうだ。そのため、町内の人間はもちろん、よそから来る人たちは特に、律儀に多めの賽銭を入れていくという。「町内会費を払っていないよそ者にも快く祭に参加させてくれてありがとう」ということらしい。もちろんちゃっかり無料で楽しんでいく人間もいるが、ほとんどの人たちは誰に言われなくてもちゃんと賽銭を用意している。


中には諭吉を一度に五人ばかり入れていくような奇特な人もいるそうで、そういった浄財はまた来年の七夕祭の費用に回されるということだ。


普通なら町内会の人間だけで手が足りるはずなのに、今回俺みたいな何でも屋に声が掛かったのは、ここ数日のあいだに葬式が続いて突然人手が足らなくなったかららしい。実は、昨夜もひとりお亡くなりになったとか・・・


葬式は、続く時は何故か続いてしまう。だから「友引」に葬式をやると顰蹙を買うんだが・・・ 今年は七月になってもやたらに涼しい。が、油断しているといきなり暑くなったりする。お年寄りの身体にはそれがちょいきつかったようだ。


そんなわけで、昨夜いきなり祭の手伝いの依頼を受けた俺は、早朝から走り回っているというわけだ。町内会が以前から話をつけてあった竹林の持ち主立会いの元、適当な大きさの笹竹を切り出して会場に運び、所定の場所に設置する。


クリスマスツリーとまではいかないが、結構な大きさの笹竹なので、倒れないようセッティングするのが大変だった。


それから、飾りつけと短冊作り。なかなか楽しいが、鶴くらいならともかく、切り紙細工は難しい。それは得意な子供がやってくれることになって助かった。今日が学校休みの土曜日で良かったよ。お陰で俺は単純作業の短冊作りに没頭出来る。


パチン、パチンと色とりどりの短冊に穴を開け、細い紙の紐を通していく。あー、あとどれくらい用意すればいいかな。ちょっと飽きてきたが、これは仕事だ。手抜きは出来ない。頑張れ、俺。


それにしても──


「ゴールドラッシュの歌、かぁ・・・」


つい、呟いていた。まあ、そう取ろうとすれば取れなくもないけど、風情がない、風情が。


「ねえ、おじちゃん」

また健太くんが話しかけてくる。

「ゴールドラッシュって、なぁに?」


えーと。何て説明すればいいのかな、この場合。七夕の歌とゴールドラッシュは何の関係もないと言うのは簡単だけど、そうすると「洋一兄ちゃん」の立場がなぁ・・・


おじちゃん、答えるの難しいよ、健太くん。


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、<俺>はどこでも変わらない。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』<俺>の平和な日常。長短いろいろ。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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