翌年の<俺>の七夕 1
「何でも屋のおじちゃん!」
白いチンチラペルシャの福ちゃんの飼い主、黒田さんの孫の健太くんが俺に駆け寄ってきた。
「ん? なんだい?」
「えーとね、このお歌。ささのは さらさら のきばにゆれる おほしさま きらきら、の続き、教えて」
微笑ましいなぁ、と思いながら、「金銀 砂子」だよ、と教えると、健太くんは言った。
「これって、ゴールドラッシュの歌なんだよね?」
「へ?」
俺は素で驚いた。
「だ、誰がそんなこと言ったの?」
「お兄ちゃん」
健太くんは今俺たちがいるお寺の縁側に座って足をぶらぶらさせ、一心に紙細工を作っている小学校高学年くらいの男の子を指差した。
「健太くん、お兄ちゃんいたの?」
「おとなりの洋一兄ちゃんだよ。福ちゃんがよく遊びにいっちゃうんだ」
「福ちゃん・・・お隣に行くくらいはいいけど、また家出しないといいねぇ」
俺はつい遠い目になってしまった。福ちゃんは、“猫の春”が来ると必ずガールハントに出かけてしまうプレイボーイ(?)だ。ナンパ道中で交通事故に遭ったら大変と、黒田さんに頼まれて探して捕獲すること三回。引っ掻かれるわ、咬まれるわ・・・ 頼むよ、福ちゃん。早く枯れてくれ。
シーズンでさえなければ、福ちゃんは自宅を中心にせいぜいワンブロックのテリトリーから出ないんだがな。恋の季節は、嵐のよーに彼の本能を駆り立ててやまないようだ。
ま、人間のように万年発情期でないだけまだマシか。
俺はふっと息をつき、ちょい厚めの色上質紙を細長く切って短冊にし、端に紐通し用の穴を開ける作業に戻った。
うーん、やっぱり穴あけパンチで一度に五枚は無理だな。不精しないでせめて一度に三枚にしておこう。
ペット探しからどぶ浚い、電球取替えから草むしりまで何でも請け負う「何でも屋」の俺の本日の仕事は、七夕祭の用意と後片付けだ。依頼主はこの町の町内会。祭といっても大掛かりなものではなくて、手作り感覚のゆったりしたものだ。
町内有志が綿菓子製造機と業務用たこ焼き器をレンタルし、参加者に無料で配るらしい。子供は思い思いに書いた短冊を笹の葉につるし、後は大人に見守られながら花火をしたり、ゲームや肝試しをしたりと、普段は許されないような、ちょっとした夜の外遊びを楽しめる。
あまりにもおとなしい、こじんまりしたお祭だが、けっこう楽しみにしている人も多いようだ。毎年幻燈や影絵遊びを披露して、この日ばかりは子供たちの人気者、というご老人もいるらしい。
この年の七夕には、元気に仕事をしている<俺>でしたが、翌年の七夕には熱中症で倒れてしまいました。その顛末は『何でも屋の<俺>の四季』の「ある日の<俺>7月7日。<俺>と熱中症」の方で。




