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リアルファミリー3  作者: 冴木 昴
20/41

「絆―9」

歩の番外編のあと、勇介サイドの本編つづきです。

当直のために、あたふたと病院へとって返した勇介は、夜勤を終えて帰宅。すると・・・

 翌日、夜遅くなって帰宅した勇介は、寝静まった自宅のダイニングテーブルに歩の進路調査書を見つけた。

『保護者欄にサインしてください』とメッセージがあり、進路が書き換えられていた。


(あーちゃん、マジで?)


 驚きと共に、勇介の胸に、なんだか熱いものが湧きあがってくる。


 物音に気づいたのか、それとも起きていたのか。

 和室のふすまが開き、パジャマ姿の歩が顔を出した。彼はじっと勇介の手元を見ている。

「あーちゃん、これって……」

「うん」とうなずき、歩はダイニングの椅子を引いて座る。勇介もテーブルをはさんで向かい合った。


 少しの沈黙のあと、歩はぼそりと言った。

「勇さんが人助けるところ、初めて見た」

 歩はうつむく。警察署でのことかと思い当たるが、あれに関しては医療行為らしきことはしていない。

「あれは、助けたとか、そんなんじゃないよ。一時的に呼吸が止まっていただけで……」

 そうじゃない、というふうに、歩はかぶりを振る。

「人は簡単に死ぬ。俺、ずっとそう思ってたから」

 杏子のときも事故で即死だったが、両親も確か列車の事故で亡くなったのだと聞いた気がする。歩にとって「死」とはそういうものなのだろう。

 肉親の死が、歩の心の器に大きなヒビを入れた。歩は、愛する者をあまりにもあっけなく失くしすぎた。それが、どこか自分自身の未来を否定的にとらえる要因になっているのかもしれない。就職を希望したのも、渚のためだけに生きている、そんなふうに、自分の人生をあきらめ、決めつけているように見えた。


 でも……

 

 勇介は歩の顔から手元の進路調査書へと目を落とす。


 ――医学部進学


「でも違った。勇さんを見て、人を助けられるんだ、人は助かるんだって、そう思えたら、なんか、すごいなっていうのだけが残って、それで俺……」

 歩はつっかえつっかえ、それでも精一杯自分の気持ちを伝えようとしてくれている。それがわかっただけでじゅうぶんだった。

「わかった。印鑑、押しておくよ」

 今、歩の気持ちは、まちがいなく自分の未来に向かっている。



「医学部、けっして簡単じゃないぞ」

「うん」

 署名・捺印した進路調査書を歩に手渡しながら言う。

「でも、夢を持つのはいいことだ」

 すると、歩は挑戦的な顔つきで勇介をにらみ返した。

「夢じゃない!」

 ぐいとアゴを上げて虚勢を張るような仕草がどこかおかしくて、勇介は思わず笑ってしまった。だが、歩はいたって真顔で付け加えた。

「だって、勇さんにできたことでしょう? 俺にだって、きっとできる」

 これには思わず「やられた」と、勇介は言葉が出なくなる。


(あーちゃんの、僕に対する評価って、高いのか低いのかどっちなんだ?)


 歩は書類をひらひらと振り、照れくさそうに自分の茶髪頭をかき混ぜると、まるで逃げるようにして和室に消えた。

「あーちゃん、がんばれよ」

 聞こえないかもしれないけれど、勇介は閉じたふすまに向かって声に出した。


 勇介自身の生き方が、歩に対して少しは影響を及ぼしているのかと思うと、照れくさいと同時に、もっともっとしっかりしなければと思うのだった。


さて、いよいよリアルファミリー3も佳境に入ります。

勇介のS大病院献金疑惑に決着がつくのでしょうか?

外科と救命の確執、そして、プライベートが明らかになった今、勇介と黒崎の関係はどうなる?

ひろげた風呂敷を畳むときがやってきたようで、ちょっとまとめるのが難しいです。少しお休みさせていただき、次回の更新は4月ごろになる予定ですのでよろしくお願いいたします。

冴木 昴


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