「絆―5」
補導された歩を迎えに警察署にやってきた勇介。しかし、なぜか歩が面会を拒否。
困惑する勇介に、なんと虐待の疑いが・・・!
「ぼくは、虐待なんかしていませんから!」
叫ぶ勇介を無視して、婦警は部屋を出て行った。
勇介、万事休す??
閉められたドアを見つめていた勇介は、我に返って立ち上がった。
勤務中に抜けて来ているのだ。こんなところでぐずぐずしているわけにはいかない。
そっとドアを開けたとたん、警察署内のざわめきが勇介の耳に飛び込んできた。
「うわ、倒れたぞ!」
男性の声がする。さっき通ってきた警察署の受付あたりからだ。次いで、キャアという悲鳴が上がった。ただならぬ空気を察して思わずそちらへ歩き出すと、人だかりができているのが見える。受付ロビーの中央付近を取り巻くように、人が集まる。
そのときだった。
「おい、大変だ! 息をしていない!」
(なに? 病人か?)
気づいたときには、勇介は人々をかきわけて前に出ていた。
浮浪者のような身なりの男が倒れており、警察官がかがみこんで声をかけている。
「おい、しっかりしろ!」
「どけ!」
勇介は警察官を押しのけた。男の顔に耳を近づける。息をしていない。酒と吐瀉物の臭いに鼻が曲がりそうだ。
「あなた、誰です?」
押しのけられた警察官が、威嚇するように言う。ちらりと見やるとまだ若い。勇介は彼の言葉を無視し、
「ちょっと手伝ってくれ」
と言って、男の体に手をかけた。男の体から饐えたような異臭がする。若い警官が躊躇しているのがわかる。勇介はかまわず男に触れ、その体を横向きにした。気道を確保しようと口を開けると吐瀉物と血が垂れてきた。
うぎゃっと若い警官が叫ぶ。いちいちうるさいヤツだ。
「救急車呼びましょうか?」
彼はおろおろしながら勇介に問いかけた。
「必要ない。喉に吐いたものが詰まってるだけだ」
そう言って、勇介はためらわず男の口に指を突っ込むと、中の吐瀉物をかきだした。活を入れる要領で背中を押すと、のどからゴブッと音をさせ、男がむせた。
「あ、息が戻った!」
若い警察官がホッとしたような声を出す。
「しばらく横向きで寝かせておけばとりあえずは大丈夫だ。ただ、吐血しているから、内臓疾患の疑いはある。後日医者に行くように伝えてください」
はい! と敬礼ポーズで答える若い警察官は、どこかの誰かに似ている気がして、勇介は思わず苦笑いを浮かべた。
手を洗って戻ってくると、件の男はどこかに連れ去られ、受付付近の人だかりもほどけていた。さきほどの若い警察官が寄ってきて、何度も礼を言った。
「いやあ、お医者さまがいてくださって、よかったです」
酔っぱらい男を連れてきただけなのに、もしも警察署内で死んだら、世間から何言われるかわからないと、彼なりにかなり動揺していたらしかった。たぶん、手荒く扱ったのだろうと思ったが、それは黙っておくことにした。
それよりも歩だ。
いったいどこにいるのだろうと辺りを見回したときだった。受付の床を掃除する清掃員たちの背後に歩の顔があった。目が合う。歩は目をそらすことなく茶色い瞳を大きく見開いている。まるで、初めて会ったときのように壁を背にして立つ歩に、勇介はやわらかく微笑みかけた。
「あーちゃん、……会えてよかった」
歩の顔がくしゃっと歪む。彼のほうから出て来てくれたことに勇介はホッと息を吐いた。
中途半端なところで連載がストップしておりまして、申し訳ありませんでした。
2013年もがんばって更新を続けていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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冴木 昴




