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リアルファミリー3  作者: 冴木 昴
13/41

「絆―3」

前回のラスト


勇介に突然の呼び出し放送が。いったい何があったのか???


 階段を駆け上がり、ノックもせずに二階の院長室に飛び込む。入って正面の自席に座っていた桂院長が顔を上げた。


「院長! さっきの放送……」

 

「北詰先生!」


 ぴしゃりと叱責するような声が飛び、勇介はハッとして口をつぐむ。

「まずは、ドアを閉めて」

「はい……」


 勇介は気まずい思いで後ろ手にドアを閉める。桂は室内の中央にある応接セットに座るよう、勇介に身振りでうながすと、自分もデスクから離れた。


 革張りのソファに、向き合うようにして座ると、桂は硬い表情のままで言った。

「さっき、警察から北詰先生あてに電話があった」


「け、警察?」


 勇介は思わず声を上ずらせる。

(オレ、何かしたか? いや、患者のことに関係が? いやいやそれとも何か別の……)

 頭の中に思考の波が押し寄せて渦を巻く。

「キミの被保護者を補導したということなんだがね」


 ヒ、ホゴシャ……? 補導? 


「夜中に、子どもが子どもを連れて歩いてる、と」

 勇介は眼を見開く。

 連絡のつかない携帯電話、保育園からの問い合わせ、そして、昨夜の歩の言葉が思考の渦から浮かび上がった。


 ――勇さん、俺、ひとりで平気だから


(あーちゃん、ばっか野郎!)


 やはり、歩はあのあと出て行ったのだ。何か手を打っておけばよかったのにと、今さらながら悔まれて、唇をかみしめる。

「キミのプライベートにかかわることだから、一応、ここに呼んだんだ」

 さっきとは違う、桂の穏やかな声に、勇介は正面を見る。桂と目が合った。メガネの奥の眼差しは、落ち着いた光を宿している。

 桂が口を開く。

「北詰先生のプライバシーには踏み込まないで欲しい、そう香川に言われていたから今まで聞かなかったけど、話してくれるよね?」

 勇介の元上司だった香川教授と桂院長は大学時代の友人であり、そのつてで勇介は今この病院にいる。ただし、香川の言うプライバシーというのは、父親の不倫に関するウワサのことを指している。――まあ、歩と渚は父のことと関係あると言えばそうだが。

 プライバシーに踏み込まないとはいうものの、職務上、上司として部下の様子を知っておきたいとは思うだろうし、部下ならば知らせておくのが普通だ。それを自分はしなかった。桂を信頼していなかったわけではないが、結局はそうとられても仕方がない。


 勇介は引き結んでいた口を開く。


「同居人は、父の愛人だった女性の弟と、その子どもです。ぼくが引き取った形ではありますが、いわゆる共同生活という状態で……」

「おいおい」

 桂の声に勇介は口をつぐむ。桂は驚いたような表情を浮かべている。

「もしかして、あの娘さんの?」

「あの娘さん……?」

 今度は勇介が首をかしげる。

「交通事故のとき、俺が診た患者だった。とはいえ、もう亡くなっていたがね」


 あ……


 勇介は思い出した。鳴沢杏子のつぶれた頭部をわざわざ綺麗にしたのは桂だったのだ。

「たぶん、未成年だったからかな。警察が間に入っていたせいで、俺は弟くんには直接会っていない。けど、あのときのことは覚えているよ」

 桂はポケットから煙草を取りだすと勇介に勧めた。二人で無言のままに煙草に火をつける。紫煙がくゆる天井付近を見つめ、桂が言った。

「そっか……。北詰先生が彼らをねえ……」

 勇介は仕方なくぽつぽつとかいつまんで歩とのことを話した。

 ひととおり聞き終わったあと、

「家族として、か……」

 桂がぽつりと言う。

 勇介はわざと笑みを浮かべた。

「でも、見捨てられちゃいました。彼らは彼らできちんと暮らしていたんです。同居を持ちかけたのは僕でしたからね。彼らの意思を尊重するなら、アパートの保証人になってやるだけでよかったんです。……たぶん。

 それを僕は無理矢理に……。似合わないですよね」

 言いながらうつむいたとき、ふうっと盛大に煙草の煙を吐きかけられた。

「だからって、このままにしてはおけないだろう。警察に行ってこい」

 勇介は目をしばしばさせて、煙の中から桂を見る。

「でも、仕事が……」

「いいよ、さっさと片付けて来い。それまで俺がなんとかするから」

 しっしと犬猫を追い払う仕草で桂が言う。

「ありがとうございます」

 勇介は一礼してさっと立ちあがった。

 ドアノブに手をかけたとき、勇介の背中に向かって桂が言った。

「そっか、そういうわけか。真相知ったら、ウチのお嬢も喜ぶだろうよ」

「え?」

 振り向いた勇介に、

「北詰先生、よかったら、うちのじゃじゃ馬も引き取ってくんね? 当面は共同生活ってことでいいからよう」

 桂はにやにやしながら言う。


(黒崎は……やっぱ、勘弁だな)


 勇介は顔面いっぱいに無表情を貼り付けて言った。

「うちは、もう定員ですので。それより院長、僕、本日当直なので、間に合わなければそっちもよろしくお願いします」

「えええっ、聞いてない……」


 文句が飛んでくる前に院長室から滑り出た勇介は、速攻でドアを閉めた。



【読んでくださるみなさまへ】

いつもお読みくださいまして、ありがとうございます。

毎週水曜日更新と決めていたのに、先週はお休みしてしまいました。申し訳ありませんでした。

年末モードで何かとあわただしい季節なので、予告なく連載が滞ってしまうかもしれません。その際は、どうかお許しを^^;


冴木 昴



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