take6:今日は6匹です
これまでも多少なり触れたことであるが、次女のアザカは日向ぼっこを愛してやまない少女である。
一説によるとその動かなさぶりから、あれは光合成ではないのかと囁かれたりもするが、決してそう言う訳ではない。
と言うのは、アザカはその気になれば雨天であっても日向ぼっこが可能な少女だからである。
そんな訳で雨天の休日、アザカは公園のベンチに傘をさしながら座って、ボウと雨空を見つめていた。
「…………」
いつも通り、彼女の周囲にはネコが集まる。ポジションはそれぞれ、ベンチの下、膝の上、両隣に密着と言う具合。かれこれ半時間ほどそうしている。
そこへ、傘をさして長女のアミがやってきた。
静かに歩いて、次女の前へ。
妖しくその目を細めて、彼女のトロンとした目を見つめる。
「こんなところで何をしているのかしらアザカ? 予報によるとこれからどんどんと雨足は強くなっていくそうよ」
「見ての通り日向ぼっこである姉上。お日柄は宜しくないが、それでもやろうと思えばやれないことはないのが日向ぼっこ」
しっとりとした溜息を、長女は吐いた。
「そう。太陽はすっかりと雲に覆われていると言うのになかなかハイレベルなことをしているのね」
「左様。日向ぼっこは奥が深い。この境地に至るまで私が費やした時間は、実に人生の半分で――」
くちゅん、とアザカは言いさしてクシャミをした。アミはまたしっとりと溜息を吐く。
「貴方の日向ぼっこに対する飽くなき探求心は分ったわ。けれどもこのままでは風邪をひいてしまう。一緒に帰りましょうアザカ。やはり日向ぼっこは晴れの日にすべきだとわたしは思うわ」
「むぅ、確かに。しかしながら姉上」
「なにかしらアザカ?」
「私や姉上がここで過ごすのが寒いのと同様に、私を慕って集まってくるネコたちもまた寒い様子」
「そのようね。丸まっている子達はわたしが見る限り、こうしてゾクゾクと総毛だってばかりいるわ」
彼女の目線の動きに合わせ、ウェーブのようにネコはゾクゾクしていく。
「……左様。しかしここは見晴らしが良いので雨宿りする場所がほとんどない。故に私がここを離れてしまうと、ネコ達は途端にびしょびしょになってしまうだろう。それがどうにも忍びない」
次女のアザカは、膝上で丸く固くなっているネコのアゴを擦った。アミは赤髪をサラサラと手の甲で流す。
「そういえば、貴方って面倒見は良い方よね?」
次女がトロンとした目をあげた。
アミとアザカは並んで歩き、二人の傘圏内には五匹のネコが固まって共に歩行している。
「そういえば姉上」
「なにかしらアザカ?」
「今朝からミミの姿が見当たらないのだが、御存じないだろうか?」
アミは妖しく細めた目で空を見上げた。予報通り雨は強くなっている。
「貴方とは入れ違いだったようね。ミミならもう帰ってシャワーを浴びさせているわ」
「むぅ、またいつものように一人泥まみれに?」
アミは不敵に笑った。
「いいえ、今日は一人と一匹だったかしら?」
次女は小首をかしげた。足元のネコはニーニーと鳴いた。
どういう事情か、カーペットにはグレートデンが寝そべっていて、ミミがそれを枕にスヤスヤと眠っていた。
予想外の光景だったのか。珍しくアザカの目が普通ぐらいの大きさに開いた。
「今からその子たちをシャンプーするから、アザカ手伝ってくれるかしら?」
長女が言えば次女は振りむいて
「姉上、良いのか?」
長女は小首をかしげて「何がかしらアザカ」と聞いた。
「あのグレートデンには首輪もリードもついていた。故に飼い主がいたはずなのだが」
「わたしがきちんとお話をつけてきたわ。もういらないそうよ。だから三日もゴハンを与えていなかったみたい」
「え……」
気のせいか、公園で見た時よりもグレートデンは、いわゆるグレートデンらしい表情になっていた。寝ているミミに向けている表情は、優しく温和な大型犬のそれである。
「まずはこの子かしらねアザカ?」
振り返ると、ひときわ泥だらけでマンマル目のクロネコを、アミは抱きあげていた。
「ふふふ、今すぐツヤツヤのピカピカにしてあげるわ」
不敵な笑みを浮かべた時、ネコがゾクゾクと総毛立った。傍らには動物用シャンプーが置かれてあった。
白、白、黒、灰、茶、次女。
ソファーでネコ団子を構成しているネコのカラーリングである。
何れもすっかりツヤツヤだった。
「時に姉上」
「なにかしらアザカ?」
「何故私までネコ達と一緒にシャンプーされてツヤツヤになっているのだろうか?」
ネコ団子の中心成分であるアザカは、バスタオルに包まって長女に問うた。アミは妖しく目を細める。
「それはアザカがあまりにも違和感なかったからよ。責めるなら自分のネコめいた雰囲気を責めることね。あるいはもののついでなのかしら?」
カーペットではグレートデンがミミのオモチャになっている。具体的にはその細長い尻尾に三女はご執心の様子だった。アミはそんな二人と6匹を見ながら、目を細めた。
「明日は首輪を買いにいかなくてはね。つけたら登録とワクチンの注射もしにいきましょう。……そこら先はミミがワンちゃんを、アザカがニャンニャンを可愛がること」
面倒をみる様に、ということなのだろう。ミミは目を輝かせ、アザカは目をトロンとさせ
「分った!!!!!!」
「承った」
二人の返事に、長女は満足そうな、けれども不敵な笑みを浮かべた。
「じゃぁわたしはアザカとミミを可愛がるわ」
「「!」」
END