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take18:今日も三姉妹です

 「ときに姉上。ちょっとばかり込み入った質問があるのだが、少しお時間いいだろうか?」


 ダイニングのローテーブルで雑誌を読んでいるアミに対して、アザカがテーブルを挟んだ向かいに胡座をかきつつそう尋ねると、 アミは切れ長の目を雑誌から次女に向けた。


「いったいどうしたのかしらアザカ? 随分とかしこまった言い方をしてしまって。あなたがわたしにお話があるというのであれば、わたしは24時間365日いつでも受けるのだけれど?」


 次女はそういう姉に対して、おもむろに黒フチのメガネを外した。

次にロングポニーにまとめていたゴムも外し、髪をロングストレートに変える。

 それから次女は再び長女の方に目を向けた。


「どんなものだろうか姉上? 私はこうして自分のアイデンティティとも呼べるパーツを二つもパージしてしまったわけだが、果たして私の姿はどのような変化を遂げてしまったのであろうか?」


 アミは「そうね」と言いながら、吟味するように妖しく目を細めた。

 彼女はアザカの顔を見つめ続けながら言う。


「相変わらずとても可愛らしいと思うわ。それはもう皮ごとペロリと食べてしまいたいぐらいに」


 小さくペロリと舌なめずりする長女に、次女は「ふ~む」と唸る。


「この年で食べてしまいたいぐらいに可愛らしいと言われるのはとても嬉しいことなのだが、できれば具体的に教えてくれると小生はすごく嬉しい」


「そうね。具体的には、これまでの涼し気で知的な美少女から、明るく快活で人懐っこそうな美少女になったという感じかしら。けれどもどうしたの急に?」


 尋ねるアミに対して、アザカは人差し指を一本立てて提案する。


「まぁ姉上、それに答える前に。良かったら私がパージしたこの二つのアイデンティティを今度は姉上が装着してほしい」


「わたしがアザカの黒フチメガネとアザカの髪留めのゴムをつければいいのかしら?」


「その通りでございまする姉上。さぁさぁぜひぜひ」


 言われてアミは、アザカの輪ゴムで自身の赤毛をサイドテールにまとめ、そして黒フチのメガネをやや下にずらしてかけてみせた。アザカはその姿に目を少し大きく開けて

 

「おお……姉上。すごくクールビューティーだ」


「ありがとうアザカ。とても嬉しいわ。……それにしても、メガネのON・OFFと髪型の変化だけで、人というのはこうも変わって見えてしまうのね」


 アミは鏡をちらりと見ながら言って、妖しく目を細めた、その目線はいつもより確かに『クールビューティー』だった。


「ところでアザカ。この見た目の変化を決行しようとした動機について教えてくれるかしら?」


 アミは言いながら、クイとメガネのブリッジを中指で押し上げた。アザカはその仕草にゾクゾクとなりつつ


「う、うむ。実はこのように、私はメガネと輪ゴムを外すだけで、姉上はメガネと輪ゴムを着けるだけで外見に大いなる変化をもたらすように、ある人物もまた大いなる変化を遂げてこれから私達の前に到来するのだ」


 そう言ってアザカが手の甲でサラサラとうなじの髪を流すと、アザカが妖しく目を細めた。


「それはとても興味深い話なのだけれど、わたしにはもう結末が見えてしまっているわ。きっと、これかた帰ってくるミミに何かあったのね?」


「流石は聡明な姉上。ご名答」


 アザカは頷いた。

 アザカはローテーブルの上にアゴ肘をついて言う。


「ベタなところでドレスアップ? そろそろお年ごろだし」


「広義には含まれるかもしれないが答えはノーなのです」


「そうするとわたし達のように、メガネや髪型といった顔に纏わる小道具かしら? ……もしかしてミミのあの可愛らしい二房のアホ毛に何かあったとでもいうの?」


「大方の予想はそちらに集まると思われるが、それもノーなのです。ちなみにフラグはこれまでにあったりする」


 アミは熟考を始める。

 ドレスアップでもメガネでもアホ毛でもなく、しかしミミの容姿は大きく変化している。果たしてそのような怪異がこの世にあり得るのだろうかと。


「ん~……降参ね。分からないわ。それよりも早く、ねぇアザカ。私はミミに会いたいわ」


 そう言う長女に、次女はクスリと笑った。

 それから、ダイニングの扉の方に呼びかける。


「そういうことだから、ミミ。入ってくるといい」


 アザカが言うと、「はい!」という元気なミミの返事か帰ってきた。

 そして扉が開かれる。

 アミは、現れたミミの姿を見て大きく目を瞬かせた。

 服装はいつもと変わらずカジュアルで、

 髪型はいつものようにショートで、そしてアホ毛も健在。

 そしてその目もミミらしくクリクリとつややかで、メガネもなかった。

 では何が違うかといえば――そう。


「お久しぶり! お姉ちゃんたち!」


 背が、大きくなっていた。

 随分と大きくなっていて、並んで立てばアザカよりも大きいのではないかと、そうアミには思われた。

 その様に、アミは妖しく目を細めた。

 

「へぇ、あのミミがアザカに『お姉ちゃん』ですって?」


 そう言われてミミは、


「いやいやいやー、もうボクだって中学生だしね。いつまでも変な呼び方できないよ」


 と、恥ずかしそうに頭を掻いた。

 そう。

彼女はもう中学2年生で、そしてつい今しがた、1年間の交換留学で滞在していたカナダから帰ってきたところだった。


「あ、でもそれより。アザカお姉ちゃんも、アミ姉さんも、なんか雰囲気違わない?」


 と、彼女はキョロキョロと二人を見回した。

 それにアザカとアミは互いに目配せして、


「さて、どうだろうか姉上?」


「いつも通りじゃないかしら?」


 そう言ってトボケあった。

 アザカは、ぼやけた視界のままに。

 アミは、ピントの合わない視界のままに。


「ふぅん。そんなもんかな」


 ミミはそう言ってから改めて二人の姉を見渡して、それからニコリと笑った。


「へへへ。そう簡単に、ボクたちって変わらないか」


 ミミはそして、

 大学二年生になった次女アザカに、

 高校英語教師になった長女アミに、

 それぞれ挨拶をする。


「改めて、ただいまアザカお姉ちゃん」


「おかえり、ミミ」


「ただいまアミ姉さん」


「おかえりなさい、ミミ。お手紙の挨拶そのままの呼び名ね」


 そうして二人も挨拶を返してから、そして同時に突っ込んだ。


「「そろそろメガネと髪型を指摘して欲しいなと」」


 ミミは「アハハ」と笑ってから、朗らかに言った。


「ボクたちは相変わらず、今日も三姉妹です、だね」


始まりの有るような物語でもないので

終わらせる必要もあったのかと思いましたが

一段落つけてみるのもいいかなと思い、

最期のお話だけミニサプライズを用意して

締めてみました。


ところで、あの動物たちはどこに行ったのか?

そう思われる方がいらっしゃったかもしれませんが

平素通りあの3LDKに暮らしています。

読む人読む人の想像の中で、

背景部分で自由に動きまわっていたらそれで正解な子たちです。

(EX:実はずっと次女の胡座の上でネコは寝てたとか)


それではまた次回作でお会い致しましょう^^


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