take15:今日はゲームです
今日もアミ、アザカ、ミミの三姉妹は、リビングでローテーブルを囲うように着座していた。もちろんネコやヘビ、あとイヌもいる。
アザカが、トロンとした目を虚空に向けて発言する。
「時に姉上」
「何かしらアザカ」
「今から三人で10分間のあいだ、笑ったら負けというゲームを開催したいのだが、了解頂けないだろうか?」
アミが妖しく目を細めた。
「随分と唐突な申し出だけれど、委細承知したわ」
ミミがクリクリの目をキラキラとさせた。
「ミミ絶対笑わない! 絶対笑わないから勝ちだな!」
アザカが二人の了承を得られると、コクンと頷き、開始を告げる。
「それではそういうことで、これよりゲーム開始でおじゃるんるん」
ピクリと微かに、長女の柳眉が動いた。
ミミはむしろ怒ったような顔をしていた。たぶんこらえているのだ。
長女は内心、こう思っていた。
ベタな語尾変換とはいえ、ゲーム開始の号令からすでに仕込んでくるとはさすがはアザカね。と。
そこでミミが、両手で自分の顔を思いっきり引っ張り、
「はべぬあlじゃlsdl」
奇声とともにものすごくカオスな顔面を演出しだした。
ピクピクと、また微かに長女の柳眉が動いた。
そして内心、こう思った。
マズイわね。ミミのは直球かつ単純な分だけ、ひとたびツボに入ってしまうと敗北までまっしぐらよ。相当気をつけなくては。あのリアルタイムで変化し続ける表情に一度でも囚われてはダメ。
いまも自分の顔をいじりたくっている三女を、横目に見ながら思った。
「時に姉上」
「なにかしらアザカ?」
アミはアザカに流し目する。そして同時に、彼女を恐れた。
この、三女の千変万化している色々カオスな表情を眺めつつも、しかし植物みたいにボウとした次女が恐ろしかった。
どうしてそんなにも、アザカはアザカなのかしらと。
「一発ギャグを考えたのが、ご覧いただけ無いだろうか?」
「構わないわアザカ。やってみせて」
警戒しつつ言う。
アザカはコホンと咳払いをした。
そして言った。
「フトンがフットンだ」
しーんとした。
「ヘイコラホー」
依然しーんとした。
ネコはアクビをした。
デンデンはバウと吠えた。
アミはしっとりとため息を吐いた。
思ったより、いや、思ったより遥かに安全なギャグだった。
恐らくヘイコラホーに何か思惑があったに違いないが、幸いにして自分には意味が分からなかった。
――そろそろ何か反撃をしなくてはね。
アミが思案を始めた。
そのとき、ミミがカオス顔のまま言った。
「それミミのフトン」
アミは息を止めた。
腹筋に力を入れた。
でないとビッグバンが弾けるかと思った。そして内心こう思った。
まさか二人がタッグプレイをしかけてくるだなんて予想外だったわ。つくづく油断ならないわねふたりとも。ヘイコラホーで飛んでいったフトンがよりによってミミのだというの? 信じられないフラグ回収だわ。
このままではマズイ。
長女は妖しく目を細めた。
よし。
アミがついに反撃に出る。
「ところでアザカ」
アミが怪しく目を細める。
「なんだろうか姉上ほいほいぽー」
アミが腹筋をいれた。
落ち着くのよアミ。大丈夫よ。大丈夫。その程度の語尾で笑ってしまうわたしではないわ。一体全体ほいほいぽーがなんだと言うのかしら。
精神を落ち着かせてから、長女は言う。
「この場合の笑うというのは、どういう定義なのかしら? 例えばこうしてニコリと微笑むのもアウトなのかしら?」
アミは薄らと笑みを浮かべた。アザカは人差し指を立てて
「いやいや。それはもちろん無問題」
「ではどういったものがアウトなのかしらアザカ?」
「例えばこう、ハハハハハ、と笑ってしまった場合など明確にアウトかと思われる」
「なるほど今のがアウトなのね?」
「その通り」
「つまりアザカはアウトなのね?」
「うむ、議論の余地なく明確にアウトであるな」
―― ア ザ カ 、 脱 落 。
カーペットに倒れてビクンビクンしているロングポニーに、墓標のごとく猫たちが猫団子を構成した。
ミミがアミを警戒する。
変顔が強化される。
奇声も強化される。
アミが倒れている次女に言う。
「時にアザカ」
「なんだろうか姉上?」
「笑わせる方法については何も明言されてなかったわね?」
「そういえば、うむ」
「つまり手段は一切全く問われないのね?」
「そういうことになるかと」
顔を混ぜまくってる三女に向け、ニヤリと長女は笑って立ち上がった。
ワキワキワキと動く両手を見て、ミミの顔がさっと青くなる。
くすぐり地獄の刑の構えだ、これは。
ミミがおののき後退り、デンデンの後ろに隠れる。
しかしデンデンがアミに怯えている。
そのさまに長女が妖しく目を細める。
「ふふふ。逃げられないわよミミ。おとなしく観念してたっぷりと私に笑わされ」
「姉上その『ふふふ』でアウト」
―― ア ミ 、 脱 落 。
カーペットでセクシーにダウンしている長女に、キウイ色の大蛇が巻き付いた。
スピノザに巻かれつつ、アミが時計を見上げる。
針は午後3時手前だった。
妖しく目を細める。
「オヤツは何がいいかしら?」
「ミミはチョコレートケーキ!」
「私はたまに水羊羹など」
END
久々更新ですね。




