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take14:今日はオノマトペです

 最近、ネコのマイブームがスピノザだった。

 ソファーに寝そべったキウイ色のパイソンに包まれるような格好で、モフモフとしたネコ団子を生成してるネコ達、アザカはそれをトロンとした目で見ながら思う。

「むぅ。ネコにモフりたいという気持ちについては人並みに理解のある私であるが、ネコが自らモフりにいきたくなる存在というのを理解するのはなかなかにムズかしい」

 ローテーブルで料理誌を広げているアミは、いつもネコに団子まみれにされているアザカが言うと説得力があるなと思ったが、言う必要もないのでしっとりと溜息を吐いた。

「ねぇアザカ」

「何だろうか姉上」

「ネコの名前の由来が、ネ~コと鳴くからだと聞かされたら、貴方は信じるのかしら?」

「ふむ、他ならぬ姉上が言うのならば信じるのに吝かではない」

「ではクマの名前の由来がクマクマと鳴くからだと聞かされたら、貴方は信じるのかしら?」

「むぅ、クマの鳴き声などオノマトペでも聞いたことはないが、他ならぬ姉上が言うのならば信じるのに吝かではない」

 アミは目を妖しく細める。

「それではアザカ。イヌの名前の由来がイヌと鳴くからだと聞かされたら、貴方は信じるのかしら?」

「うむ。確かにイヌはそのように鳴いているな。イヌイヌと」

「「……」」

 アミとアザカはしばし無言で見つめ合った。

「姉上」

「何かしらアザカ」

「もしかして姉上はいま私の感性に疑念を抱いたりしなかっただろうか? 具体的にはイヌがイヌイヌと鳴くわけがない。百歩譲ってワンワンだろうと」

 そのときミミに遊ばれてるデンデンが「バウ!」と鳴いた。アミが切れ長の目でチラリと一瞥。

「ちなみにアザカ、貴方は今デンデンの鳴き声がどう聞こえたかしら?」

「私? むぅ、恥ずかしながら、ウォゥと」

「そう。わたしにはヴァウと聞こえたわ。ミミはどうかしら?」

 長女が切れ長の目を流すと、デンデンの耳をハンドルの如く操っていた三女は目を輝かせた。

「ミミはイヌ!! って聞かした!」

 え、聞かした? とアザカは首を傾げた。

「アザカだけな!」

 え、わたしだけ? とアザカは反対側に首を傾げた。

「だからアザカはイヌって聞こえたな!?」

「え、その。ウォゥって……」

「聞こえてないと爆発するのか!?」

 し、しないと思う……と、ちょっと弱気な感じに応えるアザカに、もう一度「バウ」とデンデンは鳴いた。

 アミが妖しく目を細める。

「いまのは何て聞こえたかしら?」

「返答によって私は爆発するのだろうか?」

「今回に限りぎりぎり大丈夫よ」

 アザカは頷いて言う。

「じゃぁ、ウォゥと」

「そう。ではミミは?」

 ミミは自信満々に言う。

「わん!」

 そのときインターホンが『ぴんぽーん』となった。アミは復唱するように「ぴんぽーん」と言い、アザカは「へいほーう」と言い、ミミは「#$%&!」と言った。

「「「……」」」

 しばらく三人は見つめ合っていたが、やがてアザカが立ち上がって玄関扉を開けた。

 そこには日焼けしたオーバーポニーのトウカがいた。

 彼女は手を挙げる。

「ちわっすアザっち。アミおるかなぁ?」

 次女はペコリと頭を下げる。

「ああ、どうもトウカさん。姉上ならばそこで今日も今晩のメニューを思索しつつ、オノマトペについて議論をしてますが」

「ふ~ん。よう分からへんけど、お邪魔してもええ?」

「もちのろんです」

 招かれてトウカは中へあがる。するとミミが急に立ち上がってショッカクのような毛を逆立て、何やら構えを取り

「きたな~!! 御当地妖怪シンジョウトウカ!」

 え、ここ関西? と小首を傾げているアザカはよそに、トウカもそれっぽい構えを取り

「きたで~!! 御当地妖怪ミミタンコ! ここであったが百年目や! 覚悟出来とるか!」

「覚悟か!? アザカが出来とる!」

 え、巻き添え? と首を傾げるアザカ。

 座った彼女の膝上にネコ団子を抜けて来た灰ネコが「にーにー」と乗る。

 まるで先を越されたのが悔しいとばかりに黒猫が「ふー!」とうなる。

 茶ネコはスピノザ安定とばかりに寝たまま。白と黒は互いのシッポを前足でチョイチョイしていた。

 三女とトウカの決闘がついたらしく、三女はトウカに両足を持たれて逆さづりにされていた。

「ぎゃー!! やられたー!!」

「ぎゃー!! かったでー!!」

 勝ってもギャーなんだ、とアザカはネコを撫でつつトロンと二人を見ていた。

「ところでトウカ」

 アミが言う。

「ここには全然ゆっくりしていって構わないのだけれど、何かわたしに用件があったんじゃないのかしら?」

「ああ、うん。そうそう。率直にいうけど、夏休みな。三人でうちの近くこえへん?」

 トウカはミミをおんぶフォーメーションに移行させつつ言った。アミが妖しく目を細める。

「トウカの近く……ですって?」

「そう。具体的には猫猫坂にある神社なんやけど、そこそこ霊験あらたからしいし、まぁ一回ぐらいどうやろ?」

 トウカが言えば

「ミミはいく!! いってガランガランしまくる!!」

 と、三女はトウカのポニーを神社の鈴に見立てて掴み、振り回した。

「あはははは。ミミタンコいたいいたい」

「あはははは。参ったか」

「あはははは。参ったかアザっち?」

「え? 私?」

 次女がキョトンしている一方、アミはしっとりと溜息を吐いた。

「……そうね。ぜひお邪魔したいわ」

 三女にせがまれるまま、次女はハイタッチした。トウカが足元に目をやると、白猫がまとわりついていた。

 次女が思いだす。

「ときにトウカさん」

「ん?」

 トロンと向けてきたアザカのマナザシを、彼女が受け止めた時、タイミングよくデンデンが「バウ!」と鳴いた。

「いまの鳴き声はなんと聞こえましたか?」

 アザカの問いに、ミミもアミもトウカに視線を集中させる。トウカは、ん~、と少し呻っていた。

 アミはふと時計を見た。

 目を妖しく細める。

「いけない。緊急事態よ」

「姉上、それはトウカさんのオノマトペを聞くよりも緊急な事態なのか?」

 アミが切れ長の目を流す。

「なかなか甲乙つけがたいわ。具体的には3人のオヤツを何にするか決定しておかないと3時に間に合わなくなってしまうわ」

「うちプリ~ン」

「私はババロア」

「ミミはチョコレートパイ!!」

 アミは不敵な笑みを浮かべた。

「じゃぁわたしはフルーツヨーグルトね。オノマトペの続きは四人で甘甘しながらにしましょうか」 

「「「は~い」」」

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