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それが本心だったのかどうか、あたしにもよく分からない。
でも、もう本当にどうでもいい気分になっていたのは確かだ。
ピコン、と電子音が鳴った。メールの着信音。
カケルからの返信だ。
カケルは一体どんなメールを返すのだろうか。
冗談はよしてくれ迷惑だ、とか。
もうおまえとは話したくない、と言われてしまうかもしれない。
それとも。
ありきたりな言葉で慰めてくれるだろうか。
オレでよければ話してごらん、とか。
死ぬなんていうなよ、とか。
……それはもっと最悪だ。
あたしにとって唯一心を許せる相手だと思っていたカケルにそんなことを言われたら、耐えられない。
カケルも、クラスのみんなやあたしの家族たちみたいに、薄っぺらな存在なんだって気づいてしまうのは。
いっそのこと、見ないままこのメールを消してしまおうか。そんなことが頭をよぎったけれど、そんなことをする勇気はあたしにはなかった。祈るような気持ちで、メールを開く。
カケルからのメールは、あたしが考えていたどんなものとも違っていた。
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送信者:カケル
受信日時:2005/01/08 14:55
件名:Re:Re:
本文:
本気、なのか?
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怒るでも慰めるでもない、ただシンプルなその言葉から、あたしは目を離すことができなかった。
本気、なのだろうか。
あたしが「死にたい」と思ったのは。
あたしは、カケルのその言葉に、答えることができなかった。
きっと。
あたしは死にたいんじゃない。
「死にたい」って言ってそれを止めてもらうことで、生きていることへの許可が欲しかったんだ。
ただ、心配して欲しかったんだ。
でもそんなこと、カケルには言えない。
いっそのこと、本気なんかじゃないよ、冗談だよ、と言ってしまえばいいのかもしれない。
だけど、これ以上自分の気持ちに嘘をつくのは、あまりに惨めで嫌だった。
ピコン。
もう一度、電子音が鳴った。
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送信者:カケル
受信日時:2005/01/08 15:03
件名:俺は
本文:
KAYOのおかげで、死ぬのを、やめたんだ。
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予想もしない内容に目を見張る。
あたしは、反射的にメールを打った。
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送信先:カケル
送信日時:2005/01/08 15:04
件名:Re:俺は
本文:
カケルも、死のうと思ったの?
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送信ボタンをクリックして、あたしはやっと我に返った。
カケルが、死のうと思ってた?
そんなわけない。
だってカケルはあんなに強いのに。弱虫のあたしなんかとは違うのに。
そう思った時、あたしは急に全てを理解した。
架空の自分を創り出していたのは、あたしだけじゃないのかもしれない。あたしがKAYOじゃないように、カケルもきっと、カケルではないのだ。
カケルのことを知りたい。ネットの中の存在ではない、本当のカケルのことを。
だからあたしは決心した。すべてを告白することを。
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送信先:カケル
送信日時:2005/01/08 15:16
件名:KAYOは
本文:
作り物なんだ。
本当のあたしは学校にも行けない、引きこもりの女子高生なんだ。
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絶対に誰にも言わない、と決めていたことなのに、不思議と怖くはなかった。これでカケルに嫌われてしまうならそれでもいい。そう思った。偽物の自分でカケルと接し続けることのほうが、あたしには耐えられなかった。
本当のあたしを、この醜いあたしを見てほしい。
その欲求はあたしの中でどんどんと大きくなっていったんだ。
少しの間があって、カケルから届いた返事は、こうだった。
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送信者:カケル
受信日時:2005/01/08 15:22
件名:Re:KAYOは
本文:
なぁ、やっぱり、直接会わないか?
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