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KAYO  作者: sagitta
3/7

 カケルに相談に乗ってもらえるのがうれしくて、あたしは色々な話をし続けた。最初は部活の話とか恋愛の話とか、完全に架空の話ばかりしていたけれど、そのうちにあたしは自分の本当の悩みをカケルに聞いてもらいたい、と思うようになった。だから、架空の話の中にひそませるようにして、あたしは本当の悩みをカケルに打ち明けた。


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送信先:カケル

送信日時:2005/12/18 14:26

件名:あたしの悩み聞いて〜。

本文:

あたし実は、人付き合いが苦手なんだよねぇ。

なんていうか、人と喋るのがあんまり得意じゃない、っていうか。

われながらなんかかっこ悪い、とは思うんだけどさ。

なかなかうまくいかなくって。

カケルは人付き合いとか得意なほう?

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 もうすっかり送りなれているカケルへのメールだったけど、このメールを送るときには、すごく緊張した。だって、それは初めてあたしが本当の自分のことをカケルに話した瞬間だったからだ。それは今まで自分を飾ってきたあたしが、本当の弱みを、初めて見せた瞬間でもあった。

 まもなく、メールが届いたことを知らせる澄んだ電子音が響いた。

 あたしは、はやる気持を抑えてデスクトップのメールソフトのアイコンをクリックする。

(やっぱり、カケルからだ)

 あたしは急いで、メールを開いた。


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送信者:カケル

受信日時:2005/12/18 14:28

件名:Re:あたしの悩み聞いて〜。

本文:

俺も、人付き合いは苦手な方だな。

KAYOと同じで、人と話すときは緊張してしまう。

そんな時は、「別に完璧じゃなくていい」と自分に言い聞かせるようにしている。

使い古された手段だが、相手がジャガイモか何かだと思うのもいいんじゃないか?

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 そのメールを見て、あたしは思わず吹き出してしまった。

 だって、あの無愛想なカケルが「ジャガイモだと思えばいい」だなんて。おかしいったらない。

 すっかり楽しくなったあたしは、きっと調子に乗っていたのだろう。深く考えもせずに、こんな風にメールを返した。


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送信先:カケル

送信日時:2005/12/18 14:30

件名:あはは。

本文:

ホントにカケルってばおもしろいね〜。

今度直接会って色々と話してみたいなぁvv

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 送信ボタンをクリックした直後、あたしは自分が何をしたのかに気づいて激しく後悔した。

 あたし、何勘違いしてるんだろう。

 カケルが話してる相手はあたしなんかじゃないのに。KAYOという名前の、ネットの上だけに存在する架空の人間。

 直接会ったりしたら、あたしがKAYOとは違うことがバレてしまう。

 KAYOだと思っていたのがこんな根暗な、引きこもりの女子高生だと知ったら、カケルはきっと失望してしまう。

 でも、あたしがどんなに焦ったところで、送ってしまったメールは取り返せない。


 かなりの間があった。カケルは、迷っているのだろうか。

 カケルからの返事を待つ間、あたしは、もしカケルがOKしてしまったらどうしよう、とそればかりを考えていた。

 何本気にしてるの? 単なる冗談だよ。と言ってみようか。そうしたら生真面目なカケルは、馬鹿にされたと思って、怒ってしまうだろうか。こいつはまともに話す気がないんだ、とあきれられてしまうかもしれない。

 10分ほどして、電子音が鳴った。メールの着信音。カケルからだ。

 あたしは目を閉じて一つ大きく深呼吸をして、食い入るようにディスプレイを見つめた。


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送信者:カケル

受信日時:2005/12/18 14:39

件名:残念だが。

本文:

俺もKAYOに会ってみたいと思う。

だが残念ながら、俺が住んでいるのは北海道なんだ。

ブログによれば、KAYOは横浜に住んでいるのだろう?

さすがに遠すぎて会いにはいけないな。

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 その書き込みを見て、あたしは心底ホッとしてため息をついた。

 実際、あたしが住んでいるのは横浜だ。

 北海道と横浜。あたしたち高校生には遠すぎる距離だ。会いにいけない、十分な理由になる。

 あたしは急いで、返事を送った。


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送信先:カケル

送信日時:2005/12/18 14:41

件名:そっかぁ。

本文:

さすがに北海道は無理だなぁ。残念残念。

まぁ、メールで色んな話をしてるから、それで十分だよね〜。

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 カケルからも、すぐに返事が来た。


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送信者:カケル

受信日時:2005/12/18 14:42

件名:Re:そっかぁ。

本文:

そうだな。

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 それからまた、あたしたちは何事もなかったかのように、他愛のないやり取りを続けた。

 カケルとの関係を崩さないで済んだことに、あたしは、本当にホッとしていた。

 そして、自分がどれだけカケルの存在にすがっているのかということを、改めて感じたのだった。


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