表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
KAYO  作者: sagitta
2/7

 あたしがカケルと知り合ったのは、暇つぶしに参加したチャットでだった。

 「10代限定交流チャット」と題したそのチャットで、中高生特有の軽い、他愛も無いおしゃべりが繰り広げられている中で、カケルの書き込みはひどく素っ気無かった。


--------------------------------------------------------------------------------

KAYO>今日、友達とけんかしちゃって、すっごくショック。仲直りできるかなぁ。(2005/12/03 22:18)

--------------------------------------------------------------------------------

カケル>できなければ、その友情はその程度だったんだよ。>KAYO(2005/12/03 22:19)

--------------------------------------------------------------------------------


 他の子はみんな、「大変だね、頑張って!」とか書き込んでたから、カケルのその発言はかなり目立っていた。でもあたしは、うわべだけで励ましあうような、そんな付き合いにちょっとうんざりしてたから、カケルのその態度にすごく惹かれた。素っ気無いその態度が、すごくかっこよく見えたんだ。

 やがて夜も遅くなり、一人また一人とチャット参加者が「落ちて」いって、日付が変わる頃にはチャットに参加してるのはあたしと、カケルだけになっていた。

 すっかりカケルに惹かれていたあたしは、こんな書き込みをした。


--------------------------------------------------------------------------------

KAYO>あたしさ、ブログやってるんだ。良かったら見に来てよ。(2005/12/04 0:19)

--------------------------------------------------------------------------------


 少しだけ、間があった。

 それまでのチャットで、カケルのタイピングが相当速いことは分かっていたから、たぶん少しの間考えていたんだと思う。

 それから、カケルはこう書き込んだ。


--------------------------------------------------------------------------------

カケル>気が向いたら行く。(2005/12/04 0:22)

--------------------------------------------------------------------------------


 相変わらず素っ気無い書き込みだったけど、なぜかあたしの心は、躍った。その時は自分でも、カケルの言葉がどうしてそんなに嬉しかったのかよくわからなかった。こんな感情は、初めてだった。


 翌日の朝。いつもの習慣で起きてすぐにパソコンを開いたあたしは、メールが1件届いてるのを見つけた。

 現実の世界では、あたしにメールを送ってくるような友達なんて一人もいないけれど、ブログではメールアドレスを公開しているし、ネット上のKAYOにメールを送ってくる"友達"は何人かいたから、今回もそうかな、と漠然と思って、あたしはメールソフトを立ち上げた。


--------------------------------------------------------------------------------

<受信トレイ>

送信者:カケル   件名:無題   受信日時:2005/12/04 2:20

--------------------------------------------------------------------------------


 寝ぼけ眼でパソコンの液晶を眺めていたあたしは、送信者の欄を見て、息を呑んだ。

(カケルからだ)

 あたしは、急に激しく打ち始めた心臓を落ち着かせようと深呼吸をしてから、カケルからのメールをクリックした。


--------------------------------------------------------------------------------

送信者:カケル

受信日時:2005/12/04 2:20

件名:無題

本文:

さっき君のブログを覗いてみた。

コメント欄に書き込むのはなんだか苦手なので、メールにした。


KAYOはヴォーカルをやっているんだな。

俺は歌が下手だから、KAYOがうらやましいよ。

--------------------------------------------------------------------------------


 その書き込みから、なんだか気恥ずかしげなカケルの姿を想像して、あたしは可笑しくなった。そして、顔も知らないカケルの表情を想像している自分が、なんだか不思議な感じだった。


 それからあたしとカケルは、ひんぱんにメールをやり取りするようになった。学校に行ってないあたしは、パソコンをいじるくらいしかやることがなかったし、カケルもあたしと同じで暇なのか、昼間から盛んにメールを返してくれた。メールのやり取りは、1日で何十通にもなった。

 あたしたちのメールの内容は、本当に他愛もないものだった。大抵はあたしのブログの記事に対するカケルの感想から始まって、それに対するあたしのグチや言い訳、さらにそれへのカケルの感想。

 あたしの架空の日記からはじまってるから、話の中身は実際にはフィクションだった。けれどあたしは、話に矛盾が出ないように慎重に確かめながら、それが本当にあったことのように装って、カケルにメールを返し続けた。初めはいつ嘘だとバレるか冷や冷やしていた架空の悩みは、カケルに相談してるうちになんだか自分の本当の悩みのような気がしてきて、カケルが解決方法をアドバイスしてくれると本当にほっとするから不思議なものだった。

 カケルからのメールはやっぱり素っ気無かったけどとても的確で、大抵の場合、あたしの悩みはカケルのほんの一言で、あっという間に解決してしまうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ