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緊急出港

家族がブラジルから帰宅するのと、厄介な仕事が重なって、また更新が間延びしました。済みません。

家族は今日無事に帰宅。途中でかなり乱気流に遭ったみたいで、娘はげっそりしてました。

仕事の方は、4月検査の船ですので、最悪でも来月まで。しかし電子機器は一度ヒートアップさせちゃうと、ぼろぼろ不具合が出ますね。特に最近の機器は・・・


それでは第59話です。

吉村からの電話を事務棟で受けた長野は、吉村の第一声を聞くなり凍り付いたようになった。不審に思った望月が、「長野さん、どうしたんですか?」と聞いたが、長野の返事は「ちょっと待ってくれ。」だった。その後、吉村の一方的な話を聞くだけで、長野は黙り込んだ。5分ほどの電話を置くと、長野は望月、村木に、「非常事態だ。今後の予定を全てキャンセルしてくれ。」とだけ伝え、調査機構へ戻るためのタクシーを捕まえに行った。望月と村木は長野のただならぬ様子に、これからの予定を全てキャンセルすべく、事務方に預けてある携帯電話を受け取り、メールを送り始めた。そしてそれは長野が捕まえたタクシーに乗ってからも続いていた。

調査機構に戻った長野達は、受付から吉村達がすでに会議室に集まっている事を聞き、そこへ向かった。

「おう、長野来たか。望月と村木も一緒か、都合が良い。」

そこには、「みこもと」のメンバーだけでなく、海自の滝川や調査機構の理事、理事長、他に長野達の知らない顔もあった。

「電話では聞きましたが、本当に何があったのですか?吉村さん。」

「いまそれを説明しようとしていた処だ。滝川さん、お願いします。」

「はい。ご紹介にあずかりました海自の滝川一佐です。実は・・・」

滝川の説明に寄れば、例の韓国調査船が沈没したのだ。まだ、沈没の事実は韓国政府ですら知らないはずであったが、米国の監視衛星が、沈没する調査船を捉えたらしい。滝川のソースからのリーク情報だった。そして滝川はその監視衛星の捉えた写真も持参していた。そこには大きく左舷に傾いた調査船が映し出されていた。その位置は第二の潜水艦沈没位置と一致していた。

「滝川さん、彼らがそこで何をしていたのか判っているんですかね?」

「吉村さん、そこまでの情報は持っていませんが、この写真で見る限り、無人探査機は搭載しているようです。」

「となると、そこで何らかの探査活動を行うつもりであったと?」

「そう考えるのが妥当でしょう。沈没位置はかなり詳しく判っているのですから。」

「しかし、無人探査機で何をどうしようというのか?タンパク塊サンプルなら、十分にあるはずだと思うが?」

「まぁ、これは消息筋の情報で真偽の確認は出来ませんから、ここだけの話として欲しいんですが、どうも彼らの行動の裏側には調査機構の活躍への妬みがあるようですね。米国との繋がりもそう考えると納得ができます。米国からの公式要請で出動して多大な成果を上げたうえ、タンパク塊と巨大生物の発見、警報、対策と全て日本が主体となって行われ、それに対する世界の評価は絶大なものがあります。韓国は今回の件では評価どころか、海洋の危機を防ぐ活動への妨害しか行って居ないと世界からは見られているわけです。どこかで評判の回復を図らなければ、彼らの自尊心が崩壊する。そういう事のようです。」

「なるほどねぇ・・・彼らには彼らなりの考えがあるのでしょうから、論評はしませんが、どこかズレているように思えます。」

「ええ。まぁ、毎度のことで驚きはしませんがね。ところで、本題に戻りますが、この写真の左舷側を拡大した写真です。」

滝川がプロジェクターで投射した拡大写真が映し出された瞬間、「みこもと」のメンバーがどよめいた。沈没する調査船の左舷側甲板に黒灰色の不定形のシミのような物が映っていたのだ。「みこもと」乗員でこのシミのような物が意味するところを知らない者は居なかった。

「滝川さん、これは・・・・・」

「ええ、ご想像の通りです。というより、現実を見ていない私などより、皆さんの方がよくご存じのはずです。」

「しかし、確かあの海域には褐藻類幼体も藍藻も散布したはずだ。」

「それじゃぁ、今、我々が監視し、ネットワークに繋がって居るのは一体なんだ?」

「ということは、こいつも潜水艦の中に潜り込んで生き延びたって事か?」

「そう考えるのが妥当だろう。」

「吉村さん、『みこもと』のドックはどのくらい掛かりますか?」

「そうですね、普通に作業すれば後1週間という処でしょうか?もうセンサー類の更新は終わってるはずですから、急げば2日でドックを出られますが、航行試験がまだですし、それをしなければ定期検査が通りません。さらに船級検査の予定は今から2週間後になってますね。」

「ということは、補給品さえ積めば、最短3日後には航行が可能と言う事ですか。」

「滝川さん、そう都合良く事は運びませんよ。新たなセンサーへの慣熟も必要でしょうし、『しんかいII』の潜航試験もまだです。『ドリイII』にはまだプログラムをロードしてませんしね。」

「吉村さん、大変申し訳無いのですが、実はこの情報は最上部にも通ってまして、さらには米国も知っているわけです。今日こちらにお邪魔したのは、海幕へ命令が降ってきたからなんです。」

「と言うことは、ぶっつけ本番で出港せよと?」

「そういう事になります。定期検査や船級検査は国交省と日本海事にこちらから手を回します。明日にも検査証を交付させます。潜航試験は現場でやっていただくことになりそうです。『ドリイII』のプログラミングは航海中にお願いします。海自から『ひびき』と護衛艦を2隻、随伴させる事になります。米国も周辺海域に空母任務群を出動させるそうです。ともかく、あの生物に対処できる組織は、現状、調査機構しか世界にありません。大事に至る前に、あの生物をなんとかしないと世界が滅びます。」

「それはそうですが・・・長野、田中、『ドリイII』はいけるか?」

「プログラムのロード自体は1時間ほどで終わりますが、それからのバグ取りに時間がかかるわけで・・・」

「吉村さん、初代『ドリイ』のAIはまだ保管していますよね。」

「ああ、今、システム研で解析中だが?」

「あれ、そのまま『ドリイII』に搭載すれば、バグ取り必要ないんですが・・・ハードのFIXはパッチで何とかします。」

「ハード的な接続に問題は無いのか??」

「コネクターはどちらも共通規格ですし、観測ポッドは元々変えてません。推進系が多少異なりますが、そいつはパッチでどうにかなるはず・・・問題は無いですね。できます。」

「判った、長野。すぐにシステム研に走れ。バラされる前に確保だ。」

「了解。」

「さて、一の瀬さん、『かいえんII』なんだが・・・」

「耐圧殻の静圧試験は終わってるし、浮力体も試験は終わった。動力部も耐圧試験済み。後は潜るだけですな。通信がまだかな?」

「航海中にどこかで16時間ほど使って、試験したらどうですかね。」

「ああ、それで良いでしょう。大した項目は残っちゃいませんし。お役所的几帳面さを除いたらそのくらいの時間で安全の確認は出来ますね。」

「船長、『みこもと』はどうですか?」

「船としての機能は全て試験が終わっています。観測機器への慣熟が出来てないだけですね。元々船の機能には手を付けてませんから、走るだけならすぐにでも可能ですよ。船側としては仮設だった汚染除去装置を本設置にしたのが一番の大工事でしたからね。一応試験は済んでます。」

「了解です。滝川さん、造船所の艤装岸壁から調査機構岸壁までの回航に半日、補給品搭載に二日、汚染除去剤と褐藻類幼体、藍藻類、鉄粉、タンパク塊などの積み込みと環境調整に2日、出航前整備に半日、5日後に完全装備で出港可能です。」

「判りました。上にはそう報告します。燃料等はこちらで補給艦を随伴させます。遠慮無くぶっ飛ばしてもらって結構です。」

「なるほど。『みこもと』の航海速力ならではの作戦ですね。現場到達までの時間を短縮すれば、出港に時間が掛かっても取り返せる。」

「はい。この期に及んで、我が政府にも腹を括ってもらう必要があります。これまでのように『みこもと』単独で、補給にすら苦労するような状況は出来させません。この点は米国にも申し入れてあります。どうか、安心して行ってきて下さい。」

「まぁ、これだけドタバタですと、何かしら不具合は出てくるものです。その辺のフォローアップは滝川さんにお任せします。」

「引き受けました。この件については、私が海幕長の直下になりますので、多少の融通は利きます。」

「こりゃ頼もしい。そういうわけだ、各員、早速準備に掛かってくれ。」

「「「了解」」」

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