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電網

溜まった仕事を片付けるのにフウフウ言ってます。相手が船なんで、仕事を出来る時間が限られ、また、昼夜無しですから、凄い状態。今日は午後3時から、その翌日は朝5時起き、何て状態・・・

家族が帰るのは来週、それまでは自分で家事までこなす必要があって・・・

最近はインスタント食品に頼り切ってます。お手伝いさんが来る日はまともな飯がくえるんですがねぇ・・・


それでは58話です。

このような世界の動きをよそに、「みこもと」は横須賀への帰路についていた。長野と田中は、帰路の航海中も知性体と「地球シミュレーターII」のやり取りを、「みこもと」メインコンピュータを通じてモニターしていた。この頃すでに知性体はその演算レベルが「地球シミュレーターII」と同等のレベルに達しており、メモリーストレージの量では遙かに凌いでいた、と言って良かった。しかし、その能力は多くの部分を生物特有の本能とも言える、「自己保存」の最適化に用いていたため、表面上に現れず、「地球シミュレーターII」とそれを介して知性体を認識する人間が知る術は無かった。

この頃、知性体は重大な問題に直面していた。タンパク分子の増加が頭打ちになりつつあったのだ。沈没した潜水艦内という限られた環境では、分子を構成する物質的限界が有り、無制限なタンパク分子の増加は望めなかった。しかし、知性体は「地球シミュレーターII」からの情報が流入するにつれ、演算子となる分子の増加を必要としていた。当初は放射線によるアミノ酸結合の破壊で発生する崩壊したタンパク分子の成分が一定量存在したことで、それを演算子となり得るタンパク分子に組み替える事により対応していたが、自己保存本能により、放射線によるアミノ酸結合破壊に耐性を持つタンパク分子を作り出すことで、その減少が起き、沈没潜水艦開口部に多くの演算子型以外のタンパク分子を集中させ、外部から流入する酵素の働きで分解されるタンパク分子を増加させ、必要量を確保していたが、自ずから限界があるのは明らかだった。


「長野さん、このアクセス・アドレスちょっとやばくないですかね?」

「どれどれ、ああ、これなら昨日僕が許可したんだ。」

「えっ?でもこれ望月さんたちが使っていたストレージですよ。」

「望月に聞いたら、もうデーターが消去した、って言ってたが・・・今は空き領域だから許可したんだがね。」

「え、それまずいんじゃないですかね?消去って0とかFとかを書き込んだわけじゃないでしょう?」

「ああ、中にはまだデーターが残っているってことか。」

「ええ、そうです。どうせ望月さん達のことですから、スクランブルされたデーターにはなってると思いますが・・・」

「知性体が読み出しても利用は出来ないってことか・・・」

「ええ、データー再構築キーが無いと無理ですね。」

「中には何が置いてあったんだ?」

「望月さんに聞いてみましょう。それまではアクセス制限掛けておいた方が良いと思います。」

「判った。すぐにログインして制限掛けよう。」


しかし、長野達はすでに遅かった。知性体は領域割り当て直後に、領域内データーの読み出しは完了していた。すでにスクランブルについて学習していた知性体は、その自己保存本能に従って、読み出したデーターを検証しようとしていた。突然、再構築キーを与えられた時、それによって再構築されるデーターが自らの存在にダメージを与えるかも知れないからだった。

すでに、シナプス的情報伝達の速度的限界を迎えていた知性体は、一部のタンパク分子を透明化する事で内部の情報伝達を光化していた。その能力をフルに発揮して再構築キーをブルータルに割り出そうとしていた。世界最速のスーパーコンピューターに匹敵する演算速度をフルに生かして割り出しを行っても、それには相当な時間を要する事になった。


横須賀に帰港した「みこもと」は、再来月完成する「かいえんII」の受け入れと定期検査のためドックへ入った。「かいえんII」は以前の「かいえん」と比べて、一回り大きくなっており、乗艇出来る観測員が2名から4名に増やされていた。このため、耐圧殻は球形から回転楕円体型に変更されていたが、材質の進歩は形状的な不利を全く問題にしなかった。最大潜入深度は以前と同じ1万900mであったが、安全率はそれまでの1.3から1.8まで増やされており、事実上、これまで知られている海で行けないところは無かった。さらに機動力を増やし、潜航可能時間を延長するため、燃料電池の数と燃料搭載量が増やされており、それに従ってスラスターの数と出力も増加、前後に4基設けられたスラスターを全力可動させた場合、水深6000mで8ノットという深海潜水艇としては驚異的な速度を獲得していた。財政的に決して楽ではない調査機構が、「かいえんII」をここまで拡張できた裏には、国連を通じて世界各国から寄付が寄せられたためであった。そして「みこもと」も、この発展型「かいえん」を運用するために、揚収装置のみならず、センサー類までも更新する事となり、そのため定期検査と合わせてドック入りとなったのだった。

吉村も船長の山下も、このドック入りで忙しい日々を送っていたし、その他の研究員、観測員も同様だった。しかし、長野と田中はドックにではなく、「地球シミュレーターII」が収容されているビルに24時間体勢で詰めていた。

「田中、なんか通信量が減っていないか?」

「そうですね。トラフィックのリクエストが半分以下になってますね。」

「なぜだろう?もう情報は必要ないのかな??」

「まさか。アクセスできる情報の1割にも満たないレベルでしかないですよ。これまでアクセスしたのは。」

「ということは、演算レベルが落ちてるって事か?」

「それもありえませんね。これまでの経緯と知性体自身が公開した情報からすれば、メモリーも演算素子も増加させてます。」

「すると残るは演算能力を別のことに振り向けているくらいしか無いぞ。」

「おそらくそれが一番可能性が高いんじゃないでしょうか。あるいは空間が限られているんで、自身の再構築を始めたとか。」

「どちらにせよ、今後一気に通信量が増える可能性があるな。」

「ええ、今から対策した方が混乱しないで済みそうですね。」

長野と田中の予想は的中した。数日後、一気に知性体からのトラフィックがそれまでの数十倍に跳ね上がったのだ。長野と田中は知性体との通信に用いる「地球シミュレーターII」のバッファエリアをGバイトレベルからTバイトレベルに拡張していたため、実害は無かったが、この変化に警戒を強めたのも事実だった。

「田中、お前の勘が当たったな。」

「ええ、でもこれほどとは思っても見ませんでした。」

「本当だなぁ。でもこれ以前より格段に処理能力が上がってると思えるんだが・・・」

「おそらく自身を再構築したんではないでしょうか。通信側にリソースをもっと回した、とかっていう。」

「まぁ、こいつはハードレベルで自由な組み替えができるから、あり得るわけだが、何故だ?」

「少なくともハードレベルでの制限からきたものでは無いですね。おそらく何かを始めようとしている、と理解するのが正しいかと。」

「なるほど。それがこちらに取って問題になるような事でなければ良いのだが・・・」

「その辺については多分、村木さんと望月さんの意見も聞いた方が良いんじゃないですかね。」

「うん、おれもそう思う。単純にノイマン型のコンピューターとして考えているだけではダメだと思うし。」

長野は早速、望月と村木に連絡を取り、会う手はずを整えた。話す内容は電話で連絡可能な内容では無かった。

二日後、望月と村木が「地球シミュレーターII」の制御棟を訪れた。

「忙しいところ呼び出してすまん。どうにも不可解な事象が発生してな。是非とも君らの意見が聞きたいんだ。」

「長野さん、事情は判りました。で、その不可解な状況ってのは何でしょう。」

長野は望月と村木に状況を説明した。

「と言うことなんだが、どう思う、望月。」

「海洋生物でも陸上生物でもそうですが、野生動物の本能的優先順位は自己保存です。動物は植物と違って食われることで播種という事ができません。ですから種として後世に自分自身の情報を残すためには、まず自分自身の生存が第一になります。この知性体を野生動物と呼んで良いのかどうかは判りませんが、生命体には違いがありません。自分自身の保存が全てに優先する、という観点から今回の状況を考えてみたらどうかと思います。おそらくですが、アクセス・リクエスト先のリストから何かが掴めるのでは無いかと思いますが。」

「村木はどう?」

「私も望月さんとほぼ同意見ですね。何を知りたがっているのかを、生存本能という観点から分析するのが一番の早道では無いでしょうか。」

「なるほどな。そのアクセス・リクエスト先なんだが、圧倒的に米国なんだ。キーワードは多岐にわたる。まぁ、情報量から言ってアクセス先が米国になるのは仕方が無い。「地球シミュレーターII」を介してWANには接続してるから、悪さは出来ないと思うし、軍事や先端科学系はフィルターしているから、アクセスできない。とても全てのリクエストを解析する人手は無いから大雑把な傾向だが、ニュース系が多いように思える。こんな感じなんだがどう思う。」

「なんか嫌な予感がするなぁ。」

「ああ、もちろん、ニュース系でも、軍事や最先端科学に関わる話題はフィルターしてるが、それでもまずいか?」

「長野さん、アクセス先の内容じゃなくて、問題は知性体が自分の置かれている環境を知ろうとしている処です。これまで知性体は自分の知覚範囲を知ろうとしてきました。今、ネット経由で繋がっているのも、自分の近くに置かれた磁気を知覚して行っているわけで、知性体の知覚範囲以内であることは間違い有りません。そして、それが繋がって居るコンピューター内部からであろうが、ネット上のものであろうが、得られる情報はあくまでも自分の磁気知覚からの情報です。つまり知性体からしてみれば、自分の身の回りの情報なのです。しかし、その傾向を見ると、どうも知性体は、今の通信による接続から得られる情報が、自分の身の回りでなく、知覚限界を超えた外の情報と言うことに気づいた節があります。思考の道筋が人間とは違いますから、情報への反応は予測できません。」

「望月さんの考えに同意します。唯一、予測可能であろうと思われるのは、知性体の自己保存に基づいた反応だけでしょう。」

「村木君、それはどういう反応になると考える?」

「そうですね、これまでの行動から考えるに、与えられた情報から、自己の保存に危険があると判断した場合、攻撃行動を取ると思われます。」

「しかし、分解酵素の存在がそれを抑制しないのかね。」

「物理的な抑制は働くと思いますが、だからといって、攻撃的性行を抑制する事はできないでしょう。明らかな条件付けは行って居ませんので。」

その時、制御棟へ事務職員が飛び込んで来た。

「長野さん、お電話です。機構の吉村さんから。緊急事態だそうです。」

「地球シミュレーターII」の制御棟は携帯電話などの電子製品は持ち込みが禁止されており、有線電話すら無い。入棟の時、全て別棟の事務室に預けるようになっていた。

「すみません。すぐ行きます。田中、監視を続けてくれ。望月と村木も一緒に来た方が良いだろう。」

「「了解」」

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