妨害
今週2回目やっとのことで更新・・・
ヌコの妨害工作が酷く、一日に数十回膝から強制退去処分に・・・寝てる間にしこしこ書いてます。^^;
それでは第56話です。
横須賀を出港した「みこもと」に海自の滝川から韓国調査船の動向が知らされたのは出港から24時間後の事だった。それによれば、すでに韓国調査船は潜水艦沈没点に向かって航行を始めたらしい。およそ18時間ほど「みこもと」に先行していた。もちろん、「みこもと」がその能力をフルに発揮すれば韓国調査船に先行する事は可能だったが、緊急非常時に使うような速度で航行する訳には行かない。山下と吉村は、航海速力を2ノット上げることで、時間差の縮小を図った。これで韓国調査船の先行時間は4時間ほどになるはずだった。吉村は浮力体に取り付けられた監視カメラを作動させ、韓国調査船の接近を監視しようと試みた。しかし、人間の目による監視という面では失敗に終わった。浮力体の揺れにより変化する画面の中の水平線が、船酔いを起こさせるのだ。数人が犠牲になった結果、人間による監視をあきらめ、カメラの視界に変化があったとき警報を出すシステムを採用しようとしたが、これも揺れにより画面が常に変化していることから、常にアラーム状態となってボツ。結局、衛星回線への侵入対策に忙殺されていた長野が呼ばれ、画面の輝度変化を検出する警報に落ち着いた。これも、大きな揺れで海面だけを映し出すような画面になった場合誤報を出すが、幸いここ数日は穏やかな海象が続くと予報されており、現時点ではそれほどの揺れは無かったため、それなりに機能していた。
このシステムが機能したのは、立ち上げてから2日目の昼頃だった。韓国調査船の現場到着であった。「みこもと」はこの時現場まで2時間ほどの距離に居た。けたたましく鳴ったアラームで、監視画面を見た田中は、すぐに吉村に報告した。韓国調査船は、しばらく現場付近を遊弋し、浮力体と載せられている機器を調べているようだったが、とうとうカメラの視界の中でゴムボートを下ろし始めた。そして何人かの調査員と思しき人間が浮力体に乗り移った。この時点で「みこもと」はVHF無線の交信域に達していたし、韓国調査船からも双眼鏡などを用いれば視認可能な位置にまで達していた。「みこもと」はVHFを通じて、韓国調査船に観測機器に触れないよう、警告を送った。
「韓国調査船、その浮力体と搭載されている機器は日本政府の財産である。みだりに手を触れないよう警告する。」この警告を英語と日本語で国際VHFチャンネルで二度づつ繰り返した。韓国調査船からは応答が無かった。船長の山下は応答が無い事を不審に思っていた。海洋調査機構は韓国海洋庁と交流があった。この調査船の船長は山下の知り合いだったのだ。
警告を受けた韓国調査船は応答はしなかったが、浮力体に乗り込んだ調査員達に動きが現れた。彼らはそれまで鍵付きの筐体をこじ開けようとしていたが、警告を受けてからすぐに、信じがたい事に、機器を破壊しだしたのだ。衛星通信用ドームに穴を開け、電源用太陽電池パネルをたたき壊した。さらに筐体にも穴を開けようとバールの様なものをふるったが、ステンレス製の筐体にはさすがに穴は開けられなかった。彼らのは監視カメラも壊したが、それまでの映像は全て記録されていた。
浮力体に乗り込んだ調査員が、機器を破壊し始めたのを見て、山下は船長を名指しでVHF無線で呼びかけた。
「こちら日本海洋調査機構調査船『みこもと』、船長の山下です。崔船長応答願う。」
すでに韓国調査船は「みこもと」の視界に入っており、肉眼でも確認できる距離だった。無線が届いていないことは考えられなかった。山下は数回この呼び出しを繰り返したが、韓国調査船からの応答はなかった。すでに韓国調査船は浮力体に派遣していた調査員を回収し、船尾を白くして現場を離脱しようとしていた。
「吉村さん、追いますか。」
「いえ、無駄でしょう。この件は滝川さんに任せようかと思います。それより復旧を急がなければ。」
幸い、今航海では、現在の浮力体と通信装置が緊急に設置された、いわば仮設装置に近いものだったため、6ヶ月が過ぎた時点で様々な不具合が現れていたものを、きちんと対策された設備に更新するため、新たな通信装置と浮力体の改修部品を搭載していた。したがって、装置を破壊されても、復旧が可能だった。
「みこもと」のスタッフは、韓国調査船が去った浮力体に接近して、壊されたものの証拠写真の撮影、破壊状況の調査を行った上で、搭載してきた新規の機器への交換、復旧を開始した。韓国調査船はしばらくレーダーで監視していたが、南東方向へ一直線に海域を離れていった。「みこもと」は新規設置の装置試験を兼ねて、監視カメラにより撮影された破壊時の映像を調査機構に送り、可能ならば外交チャンネルを通じての対処を要請した。さらに吉村は滝川に状況を説明、映像も送付した上で、外交チャンネル以外のバックチャンネルでの情報収集を依頼した。Skype画面に現れた滝川は状況を理解すると、表情を変えた。
「吉村さん、これ、かなりまずい状況ですね。米政府、それもかなり上が動いてるようです。」
「ということは、米海軍が出張ってくるという話になりそうなんですか?」
「いえ、海軍は動かないでしょう。少なくとも例の新型潜水艦の救助では恩義を感じてるはずです。」
「それじゃ、どこが?」
「ひょっとすると、CIA、例のグローマー・チャレンジャーみたいなモノを持ち込む可能性もあります。」
「そういうレベルだとちょっと対処不可能ですねぇ・・・」
「ええ、それで、こちらでも政府と協議して、なるべくその動きを押さえ込もうとしているのですが、裏でかなり大きな組織の動きがあるようで、政府レベルを超えた可能性もあるのです。」
「それで、この知性体の存在には気づいているんですかね?」
「まだだと思います。多分、彼らの心配は日本が、通常型のタンパク情報を抱え込む事だと思います。」
「普通のタンパク塊についての情報は全て出してるし、サンプルも十分にある。何を疑ってるんだ??」
「日本がこのタンパク塊を生物兵器に利用しないか?という点でしょう。向こうは提供されたサンプルを日本が培養したと思って居ますから。」
「しかし、そんなことは、提供した報告書を見れば明らかじゃないか。それすらダメなのかね、今の米政府は。」
吉村は少々憤慨気味の口調で滝川に聞いた。
「吉村さん、これは確定情報では無いのですが、カナダの中国組織が動いている節がありまして、それが米中枢にかなり食い込んでいるようなんです。また、それが米国内の韓国系とも繋がりがあることが判ってます。その中国組織が食い込んでいる処が国家安全保障省と言われています。」
「なるほど。それで韓国調査船というわけですか・・・・中国と言い、韓国と言い、人類滅亡の瀬戸際まで、日本憎しですか。やりきれないですなぁ・・・」
「まぁ、こちらからも、米軍筋を使って米政府には食い込みを計ってます。奴らの自由にさせるつもりはありません。」
「よろしく願います。今後もこういうことが頻発するんじゃ、誰かを貼り付けておかなければならなくなりますからね。」
「それは願い下げですね。どう考えても調査機構の手には余りますから、おはちが回ってくるのはこちらしかないですし・・・」
「そういうことになりますね。それではこれで。」
「はい。また連絡します。」
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