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救出

なんか、投稿したつもりが反映されてませんでした。

第52話です。仕事はもう1週間くらい忙しそうです。ぼちぼち書きためて行こうと思って居ます。

「村木、いるか?」

「吉村さん、何でしょう。」

「プランクトンの散布装置はいくつ残っている?」

「もうほとんど使い切りましたが、5個程度は用意できます。」

「よし、すぐに潜水艦周囲に最適増殖条件を作ってくれ。長時間維持する必要は無い。救出できるまで持てば良い。出来るか?」

「判りました。鉄分散布に一旦カメラを引き上げてもらって良いでしょうか?」

「ちょっと待ってくれ。もう少し細部の確認をしたい。その後すぐに引き上げる。」

「判りました。準備します。」

「頼む。」


「ドリイ」の準備が完了したところで、吉村はミーティングを招集した。

「時間がないから手短に済ませる。まず『ドリイ』を潜入させる。同時進行で、潜水艦周囲、特に後部に増殖最適環境を作る。タンパク塊は研究用サンプルを使用する。環境が整ったところでプランクトン散布、タンパクの分解速度を最高レベルにしたい。『ドリイ』がアプローチし、拘束している黒い紐状の物体を切断する。『かいえん』が姿勢制御を取り戻し次第、『かいえん』側で耐圧殻を切り離し、緊急浮上手順に入る。後は何か問題が発生しない限り、緊急回収手順通りに実行。以上だ。何か質問は?」

「『ドリイ』の回収は?」

「問題が発生しない限り、通常手順だ。ただし、問題が発生した場合、放棄する事を躊躇するな。人命が第一だ。すでに時間は6時間少々しかない。モニターは可能な限り水中カメラを降ろす。『ドリイ』自体にもモニターカメラは搭載するが、どこまで維持できるか未知数だ。」

「行動中『かいえん』と同様の攻撃を受けた場合の対処は?」

「可能な限り排除する。無理な場合は『かいえん』の緊急浮上を優先する。他に質問が無ければ、各自作業に掛かってくれ。以上。」


「長野さん、最適増殖環境の用意できてます。」

「村木さん、あと2分でカメラが上がります。放射線量が大きいかも知れません。防護服で作業願います。」

「了解。鉄分放出とプランクトン散布で計12個ぶら下がります。大丈夫ですかね?」

「ワイヤーは12トンまで耐えられます。そのくらいなら問題ありません。」

「お、上がって来ましたね。放射線量は大した事ないみたいですね。それじゃ取り付けます。」

村木は用意した鉄分散布容器、タンパク塊収納容器、プランクトン散布容器を手早くカメラケーブルに取り付けて行く。

「終わりました。降ろして下さい。」

「了解」


「船長、吉村です。今、カメラケーブルを降ろしました。船を直径20mくらいの円で動かしていただきたいのですが。」

「吉村さん、了解。開始の合図を下さい。」

「ケーブルは所定深度まで降りています。いつでも初めて戴いて結構です。」

「了解。それでは開始します。」

山下の操船は的確だった。潜水艦後部を中心として、直径およそ20mの円を描く操船は細かく船尾ポッド推進器とバウスラスターを調整する必要がある。目的からして、厳密な円形状で有る必要は無かったが、山下はプロッターで見る限り、真円に限りなく近い円を描いて見せた。

「おみごとです、船長。無事散布完了しました。」

「それは良かった。『かいえん』の状況はどうですか?」

「まだ大丈夫です。もうすぐ『ドリイ』が接近します。」

「うまく行くといいですが。」


「ドリイ」は潜水艦後部に破口の反対舷から接近して行った。以前の映像ではこちら側には破口はない。「みこもと」と水中データーリンクで繋がれた「ドリイ」は、クリチカルな作業ののため、AIによる自己判断ではなく、データーリンクを通じた逐次コマンドにより潜水艦に接近して行った。「かいえん」は潜水艦後部右舷の破口上部に拘束されていた。左舷側から「かいえん」至近にまで接近した「ドリイ」は、搭載カメラで詳細に拘束されている部分を撮影した。

「なるほど、ハッチ部に絡みついた1本と、その後部の上部構造に絡みついた1本、この2本の触手で横倒しにされているんだな。」

吉村は「ドリイ」から送られてくる映像を見ながら、状況を分析した。

「吉村さん、全体像でみると、拘束している触手は全部で8本ですね。幸い耐圧殻部分に絡みついている触手は無いようです。」

「すると、この2本を切って、右舷側スラスターを下降で回せば直立出来そうだな。」

「『かいえん』と連絡を取って、タイミングを合わせよう。田中、『ドリイ』は大丈夫だな。」

「大丈夫です。ワイヤーカッターを切断箇所に当て、レーザーも同じ場所に照準してます。」

「よし。『かえいん』、吉村だ。これから拘束している触手を2本切る。合図したら右舷スラスター下降最大推力で回してくれ。」

「『かいえん』了解。いつでもいける。」

「よし、田中切ってくれ。」

「はい。まず1本目切ります。切りました。2本目切ります。切りました。」

「『かいえん』今だ。スラスター回せ。」

「かいえん」は右舷スラスターを下降方向に全力回転させた。左舷スラスターのシュラウドが潜水艦破口部に引っかかっていたが、上部が自由になった「かいえん」は引っかかった部分を軸にして瞬時に正立状態に復帰した。長崎は正立した直後スラスターを停止し、緊急浮上のレバーを力一杯引いた。

耐圧殻を外部艇体に固定している6本のボルトが爆破され、電源、制御などのケーブルを繋ぐコネクターも同様に火薬の力で切断された事で耐圧殻は脱出推力ピストンの動きでシリンダー内に貯められていた水を斜め下方に噴きだし、斜め上方への推力を与えられて外部艇体から離れた。そして耐圧殻上部に備え付けられていたバルーンが射出され、火薬の燃焼による燃焼ガスで膨らむと、耐圧殻を海面へと急速に引き上げ始めた。

触手を切断され、さらに「かいえん」の外部艇体の動きに刺激されたタンパク塊は、潜水艦の破口部から、さらに数本の触手を伸ばして周囲を探ったが、「かいえん」耐圧殻はすでに数m離れており、耐圧殻に触れることは出来なかった。しかし、スラスターの稼働と耐圧殻の分離により乱された流れに捉えられ、瞬間的に移動の自由を失って「かいえん」外部艇体上部へ押し出された「ドリイ」は別だった。乱された流れにより崩された姿勢を修正して離脱を計る「ドリイ」に一本の触手が触れると、下部スキッドに絡みつき、「ドリイ」を引き戻そうとし始めた。最初は「ドリイ」の推力が勝り、触手を引き延ばしていたが、二本目、三本目が絡みつき、四本目で「ドリイ」の推力が触手の力に拮抗できなくなった。そして五本目、六本目と絡みつくにつれ、「ドリイ」は潜水艦に引きつけられていった。


「ドリイ」の危機に管制室の田中は必死の努力を傾けた。ワイヤーカッターを使って触手を切り離し、「ドリイ」の姿勢を変化させて青緑レーザーを照射し、可能な手段全てを用いて「ドリイ」を拘束から解こうとしていた。現状の「ドリイ」は、事前にプリセットされるミッションコマンドを持たない、オンデマンド・コマンド状態で稼働していた。つまり管制室から、この作業をせよ、というコマンドを受け、作業手順等々は、全て「ドリイ」AIの判断に寄って行動していた。具体的には、管制室からは「どこそこの触手を切れ。」というコマンドだけが送られ、触手の位置、切断手順、方法はAIが選択していたのだ。これまで、それは非常に上手く働いており、人間の状況把握能力と、AIの精密制御がうまくかみ合って、つぎつぎに繰り出される触手の攻撃を防いで、完全に潜水艦に拘束される事を防いでいた。しかし、その人と機械のコラボレーションも、高速移動体が打ち出されるまでだった。触手の拘束から逃れようとする「ドリイ」に潜水艦破口から飛び出した高速移動体が次々に衝突しはじめた。「ドリイ」は高速移動体の衝突による衝撃で、触手切断手段の精密制御が困難になっていた。それでも触手の伸びる速度がそれほど速くないため、状況を維持する事はできていたが、「ドリイ」AIが搭載された耐圧殻至近に高速移動体が衝突したことで状況が変わった。

この衝突により、「ドリイ」AIが頻繁に演算エラーを発生するようになったのだ。高速移動体の持つ高い放射線の影響だった。ほぼ数世代前のスーパーコンピューターに匹敵する「ドリイ」AIはビットエラー復元機能をフルに稼働させ、CPUの暴走を防いでいたが、それには限界があった。24個あるCPUのうち、約3割がウォッチドッグにより演算を停止したことで、機能限界点に達し、I/O信号の暴走による異常動作を抑制するため、AIがスリープした。それと同時に各部の電源が切断され、ビーコンとオンライン起動用ポートのみを残して、活動を停止した。

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