拘束
やっぱり今週は忙しくて、更新がここまでずれ込んでしまいました。来週も多分、忙しい予測。ってか来週の方が更新はヤヴァイかな?プチ出張が多くなりますんで。それと2泊ほど船でする必要がありそうですし・・・
今週は、太陽活動が激しくて(まだ治まってませんが・・・)磁気嵐が発生したりしたため、衛星通信関係の仕事は全部来週に回したんですけどね。ところが、最近の船(あまり大きくない船)には、磁気フラックスセンサーなるものが付いてまして、要はコンパスの代わりなんですが、磁気嵐で地球の磁力線が乱れた結果、のきなみ表示がおかしくなって、その上このセンサーは自動操舵装置に繋がってますから、船があらぬ方向へ走ったなんてのまで出てきまして、結局ドタバタ・・・・・・今日もその自動操舵がおかしい、って言われて対処。まぁ、ちょこっと調整で直ったんですけれどね。
そんなわけで第51話です。
このような状況をよそに「みこもと」は、最初の潜水艦沈没点に戻り、「かいえん」を潜水させて潜水艦内に入り込んだと思われる灰黒色タンパクの状況を探るミッションに入った。
「『みこもと』、こちら『かいえん』、潜水艦を視認した。相変わらず外部放射線量は高い。」
「『かいえん』、こちら『みこもと』。了解です。前回のサンプルから、水溶性のヨウ素同位体などが大量に溶け込んでいるようです。線量的に無理と判断したなら、すぐに浮上して下さい。」
「『かいえん』了解。無理はせんから安心していいよ、長野君。」
「判ってはいますけれど、やはり心配ですから。」
「ああ、すまんね。ま、本当に無理するつもりは無いよ。さて、潜水艦と並んだ。これから接近する。最初は原子炉区画ではなく、その後部の破口に接近する。」
「『みこもと』了解。安全第一でお願いします。」
「『かいえん』了解。接近する。」
長崎は「かいえん」を潜水艦機関部後部に空いた破口に接近させていった。10mほどの距離を取って破口部周辺も含めて観察、撮影し、周辺部に異常が見られない事を確認し、さらに接近を開始した。およそ5mまで接近して破口内部の灰黒色タンパクと思われるものの撮影を開始した。外部線量はかなり高いが、耐圧殻内部にまで影響はまだ及んでいなかった。そしてさらに接近(およそ3m)まで接近して、紫外線スポットライトを点灯した。最初カメラの操作を行っている一の瀬に見えたのは、破口がぼやけたような変化だった。次の瞬間、長崎が艇を真横にスライドさせ、潜水艦から離れようとした。しかし、それは叶わなかった。破口から伸びた黒い紐のようなものがいくつも艇に絡みついていた。長崎はこの紐状の触手とでも呼べるモノから逃れようと、即座にバラスト全廃棄、全力動力上昇を開始した。一時的に触手は引き延ばされ、あわや脱出か、と思われたとき、破口中央部から高速の移動体が現れ、艇に衝突した。相当な質量があると見えて、艇下部に衝突した瞬間、艇は潜水艦側に傾き、上方に向かっていたベクトルが変化し、触手に与えていたテンションが緩んだ。緩んだ触手は瞬時に引き戻され、艇は潜水艦側に近づく。連続して衝突する高速移動体により、横倒しに近い姿勢になった「かいえん」だったが、後部の前進用スラスターを全力で稼働させ、両舷のスラスターの角度を変化させることで潜水艦から離れるベクトルを与えた操艇技術は長崎だからこそ可能なものだったが、それもスラスターの外周シュラウドが衝突で変形するまでだった。衝突で変形した外部シュラウドがプロペラをくわえ込み、左舷側スラスターが使用不能となった事で、一旦は潜水艦側に引き戻された「かいえん」だったが、長崎は後部スラスターについた舵を操作して潜水艦から離れるベクトルを与えた。しかし、その舵が高速移動体の衝突でピボットが故障し、使用不可になった事で勝負は決まった。「かいえん」は操縦の自由を失ったのだ。
「まずいな。これで使えるのは右舷側スラスター1基だけになった。一の瀬、上と連絡取れるか?」
「今やってます。『みこもと』、『みこもと』、こちら『かいえん』、応答願います。」
「『かいえん』こちら『みこもと』、何かありましたか。」
「『みこもと』、こちらは今攻撃を受けている。触手状のものに拘束されて脱出不可能だ。」
「緊急動力浮上でもダメですか?」
「すでにやった。左舷側スラスター破損、後部スラスター、及び舵破損。生きているのは右舷側スラスターだけだ。触手状のものに拘束された後、同じ潜水艦の破口から高速の移動体が飛び出し、艇に衝突、それで全てやられた。今、艇は左舷に80度以上傾斜している。浸水は無い。バッテリー節約のため、動力は全て停止した。現在浮力は正。観測機器は現時点で生きていない。以上だ。」
「『みこもと』了解。とりあえず二人ともお怪我はないですか?」
「ああ、大丈夫だ。二人ともシートに着いて、シートベルトで固定されている。まぁ、艇が酷く傾いているから、姿勢的には苦しいが。」
「了解。吉村さんが来ました。」
「おお、吉村御大、やられちまったよ。」
「長崎さん、一の瀬、大丈夫か。」
「ああ、体は大丈夫だ。放射線も外部は相当に酷いが、耐圧殻内はまだ問題無い。艇が横倒しに近いんで、シートベルトが食い込んでちと苦しいがな。後で少し体の姿勢を変えてみる。」
「体が何でもなくて良かった。で、脱出の望みはあるんですか?」
「それなんだが、カメラがいかれちまったんで外部の様子がわからない。触手が耐圧殻に絡んでなければ、緊急浮上装置で耐圧殻だけ切り離して浮上できるんだが、其れが判らないんだ。」
「了解、取りあえず、カメラか『ドリイ』を下ろして見る。まずは状況の確認だ。少し時間が掛かるが、それまで頑張ってくれ。」
「了解した。エアはまだ6時間くらいは大丈夫だ。いざとなれば非常用が2時間分ある。2酸化炭素を吸着すれば、耐圧殻内の空気で1時間弱はいけるだろ。作業時間はたっぷりあると思ってくれ。」
「了解。それでは水中カメラを30分で下ろす。その後作業が必要なら『ドリイ』も下ろす。あんたらが戻ってこれるなら、どちらも失って構わない覚悟でやるから、待っててくれ。」
「すまんな、吉村御大。宜しく頼む。待機する。」
「長野、全力で『かいえん』を回収する。まずは水中カメラだ。ともかくここで『かいえん』状況が見られなけりゃ話にならん。甲板と話してすぐ作業に入ってくれ。」
「了解。田中はもう呼んであります。」
「お、すまん。それじゃ掛かってくれ。」
そこへ田中が顔を出した。
「田中、来たか。すぐに、『ドリイ』に鋼線レベルが切断可能な切断機を付けて潜らせる準備に入ってくれ。」
「何があったんですか?吉村さん。」
「『かいえん』が下で拘束された。スラスターと舵をやられ、触手みたいなもんで潜水艦外壁に拘束されてる。是が非でも回収したい。長崎さんと一の瀬を見殺しにするわけには行かん。」
「了解。切断機ですか・・・相手は変異タンパクですよね。なら青緑レーザーが使えないかな?それともガスがいいですかね?」
「どっちも積んどけ。なんなら両方同時に使えるようにしてくれ。」
「両方同時は無理ですけれど、マニピュレーターにワイヤーカッターが付いたのがありますから、それを片側に装着します。ガス切断機は無理かな?」
「なんでもいい。とにかく時間は限られているんだ。」
結局「ドリイ」に搭載されたのは、左側にワイヤーカッター付きマニピュレーター、観測機器搭載ポッドに青緑レーザー、右側は普通のマニピュレーターだった。一方、長野はすでに水中カメラを降ろしていた。
「吉村さん、水中カメラもうすぐ目的深度です。」
「お、判った、すぐ行く。」
「ドリイ」の装備を手伝っていた吉村は観測室へ向かった。
「吉村さん、潜水艦が見えてきました。」
「『かいえん』は後部破口から調査してたはずだ。ブリッジ、すまんがもう15mほど、左舷側に移動願えるか。」
「吉村さん、山下です。すぐに移動します。それにしても大変な事になりましたね。」
「船長、お世話になります。ええ、でも、全力で長崎と一の瀬は救出します。お願いします。」
「了解です。操船は任せて下さい。どこでもぴったり船を据えてご覧に入れます。」
「ありがとうございます。宜しくお願いします。」
「吉村さん、見えてきました。」
「ああ、もう少し降ろしてくれ。」
「了解」
カメラの視野に入ってきた潜水艦後部には、「かいえん」が縛り付けられたようになっていた。黒い紐のようなものが何カ所も艇体に巻き付いている。
「『かいえん』こちら吉村、聞こえるか。」
「吉村さん、こちら一の瀬、聞こえます。どうぞ。」
「了解。今、水中カメラで状況を確認した。準備でき次第、『ドリイ』をフリーで降ろす。黒い紐状のもので拘束されているから、それを『ドリイ』のマニピュレーターで切断する。姿勢は直せるか?」
「了解した。姿勢は残った右舷側スラスターで直せるし、フリーになれば復元力も働く。問題無い。」
「よし、姿勢が直ったら、直ちに耐圧殻を切り離して、バルーン射出、緊急浮上手順を実行してくれ。」
「了解。」
「『ドリイ』はもう30分程度で下ろせる。それまで頑張ってくれ。」
「ああ、こちらはまだ大丈夫だ。宜しく頼む。」
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