政治
やはり今週は更新が無理でした。多分、これから4月半ばまで忙しくなります。現居住国を出る可能性が有ります。イランと核安全保障に対する共同声明を発表しまして、下手をすると米国から経済制裁を受けることになるのかも知れません。通貨が米ドルですから、冗談では済みません。困ったものです。
何とか穏便に済んで貰えれば良いのですが・・・
ところで・・・
皆様の後押しのおかげで、なんとか第50話までこぎ着けました。ありがとうございます。
次の目標はこの話を終わらせる事ですね。^^;
このままでは終わりそうにないですから・・・・・
「みこもと」は潜水艦沈没点から南東方向に600海里ほど離れた海域に巨大生物の蝟集点を発見した。ここは第二の中国潜水艦が沈没した地点でもあった。この海域では特に核物質漏れは検出されていなかったが、タンパクへの取り込みによる拡散の抑制効果はかなり強く、実際には潜ってみなければ本当に原子炉が破損しているかどうか、判明しなかった。巨大生物が蝟集している、という事は、核物質漏れでないにせよ、何かがここにあることを示唆していた。しかし、この第二の沈没点は水深5000mを超える大洋底だった。これまでの調査結果は、このタンパク分子が水深3800mを超える処には分布していない事を示している。それゆえ、この巨大生物の蝟集が海底に達していないことは確かだった。それは音響観測結果にも現れていた。また、タンパク分子の蝟集に特徴的な音響伝搬の異常もこの海域では認められていない。「みこもと」はこの海域の調査は後日行う事として、当面の問題である、巨大生物とタンパク塊の対処実験を実施した。前回の手順と同様な手順で藍藻類と褐藻類幼体の散布を行った後、72時間の増殖期間を置いて散布海域の音響調査を行った。
音響調査の結果は、かなり劇的なものだった。およそ半径10海里にわたって、巨大生物が消滅した。これまでの実験でもここまでの効果が見られた事は無かった。村木は「おそらく相乗効果」と言ったが、それにしても、この効果は凄まじいの一言に尽きた。おそらく、今後のタンパク塊対策の本命となり得る効果だった。この第二の巨大生物蝟集地点での成果は衛星ネットを通じて即座に地上に送られた。すでに日本の沿岸部では藍藻類と褐藻類幼体によるタンパク塊掃討が進んでおり、人的被害はゼロ状態だったが、水深2000mを超える海域での掃討は褐藻類幼体の成体化が起きないため、効果が限定されていた。従って、物量による掃討に頼るしか無く、2000mを超える水深でこれらのプランクトンを散布する機材を簡単に大量生産する事はできないため、掃討が遅々として進んでいなかった。今回の「みこもと」の実験結果と浮遊成体化の条件発見は、この大水深部タンパク塊掃討に大きな前進をもたらすものだった。また、この情報を受けた各研究所での実験で、鉄分付与は鉄粉でなくても良く、塩化鉄のような水溶性化合物でも同様な効果が有ることが判り、散布効率をさらに大きなものにしていた。すでに日本政府は、気象庁所属の海洋観測船、各県の水産調査船、漁業監視船、水産高校や国土交通省所属の練習船、自衛艦、巡視船などを総動員して、大水深部タンパク塊対策に当たることを決定しており、機材が整い次第順次出港してプランクトン散布を行う準備に入っていた。
またこれらの情報は現在被害の出ている、米国、韓国、中国などにも伝えられ、大水深部でなくとも以前の対策より効果が大きい事から、それぞれの国で同様に掃討準備に着手した。
ここで問題を引き起こしたのは中国だった。政府の高いレベルでは、今回の事件を正しく評価し、日本が次々に発見して打ち出す対策を即座に提供してくれることに感謝の意を表していたが、実際の現場では作業を監督する部署の長に当たるレベルの面子の問題から建前を崩さず、例えば琉球海盆などでの掃討で、中国政府の公式見解である、領海大陸棚延長説に拘泥するあげく、日本が行おうとした琉球海盆最深部の掃討に対して、軍事力を用いても阻止する、などという見解をマスコミに発表し、混乱を引き起こしていた。
日本政府は現場レベルでのこのような態度に、外交ルートを用いて抗議を行ったが、中国中南海政権は民衆の反発を恐れて具体的な対策を打ち出せず、公式レベルでは遺憾の意を表明したにもかかわらず、現場レベルでは一触即発状態が続くという事態に陥っていたのだ。そして日本政府側もこのような中国の態度に強硬な策を打ち出せず、琉球海盆でのタンパク塊掃討を一時的に中止していた。しかし、それでこの問題が片付くわけでも無く、タンパクの増殖速度から考えれば、あらゆる水深で満遍なく掃討しない限り、早晩問題がぶり返すのは自明だった。これで中国が十分な密度の掃討を行えるのであるならば、問題は海洋における境界線の問題でしかなかったが、中国には大水深での作業を行える設備を備えた船は数が少なく、また散布容器の信頼性も低かったために、日本側が掃討を行わない限り、琉球海盆のタンパク塊は消滅しない、という状態だったため、事は境界線の問題ではなく、複数の国家にまたがる、人命の問題となっていた。
この状態に結論を出したのは米国だった。沖縄駐在の米軍兵士の安全確保の名目のもと、米艦に所要の設備を取り付け、培養プランクトンと散布容器を日本政府から供与を受ける、と言う形で散布を行うと発表したのだ。これに対し、中国政府は中国主権の侵害である、と抗議したが領海12海里が原則となっている世界の趨勢から見れば、経済権益ならまだしも、主権が及ぶと主張した中国の特殊性を浮き上がらせるだけの結果に終わったのは当然だった。
中国はこれ以外にも、南シナ海、黄海においても海洋主権の問題を引き起こしており、この危険なタンパクへの対処を遅らせる障害物に成りはてていた。それでも中南海はある程度の理解をしていたが、偏向教育により歪められたナショナリズムを持つ、現場レベル、民衆レベルでは、すでに沿岸部では無知による万単位の死者が発生していたが、それを報道管制したことと相まって、全く統制が効かない状況に陥っていた。
米海軍部隊は、補助艦艇(大水深探査機材を持つ)を中心に、大水深探査に転用できる機材を備えた、あるいは応急設置した、ドック型揚陸艦などを等間隔で南北に配置し、その北側を護衛の戦闘艦艇が遊弋する形で散布を進めていた。琉球海盆の南側、つまり沖縄に近い海域では中国側監視船が数隻居るだけで、問題は発生しなかった。しかし、北側に入った途端、中国側は妨害工作を仕掛けて来た。散布担任艦艇の針路に居座り、担任艦が進路変更して避けようとすると、新たな針路上に移動する、ということを繰り返し、また北側を遊弋する戦闘艦艇に中国海軍戦闘艦艇が異常接近を繰り返す、などの行為を繰り返していた。
米艦艇は、その都度、国際VHF無線で妨害しないよう呼びかけを行い、ぎりぎりの操艦で衝突を避けてきたが、このような行為が続けばいつかは衝突が発生するのは避けられない。そして、それは発生した。機雷掃海用設備を用いて散布を行って居たアベンジャー級掃海艦「ガーディアン」にフリゲート「温州」が衝突したのだ。「ガーディアン」は木製FRP加工の船体であり、機雷の海中爆発に耐えられるよう、強度的には一般木造FRP加工船よりはるかに強靱だったが、鋼製船体のフリゲート艦が真横から衝突してはひとたまりもなかった。後部舷側に大穴を空けられた「ガーディアン」は機関室に浸水し、また後部甲板上の非常用発電機室にも被害が及んだため、全電源を喪失、排水ポンプすら動かないまま、15分ほどで沈没した。この衝突で士官8名、乗員76名、プランクトン散布のために特別に乗り組んだ要員12名の計96名の人員のうち、16名が死亡、14名が行方不明となった。
この「事故」を重く見た米政府は、公式に中国政府に抗議し、一時散布を中止するが7日後に散布を再開することを通告した。また、米艦艇から50海里以内に接近する中国艦艇は無警告で撃沈する事を宣言し、その戦力を沖縄に集中させ始めた。また日本政府も米国側から強く要請された事もあり、その重い腰をようやく上げて、佐世保の第2護衛隊群を出動させ、また呉の第4護衛隊群を佐世保に回航、戦略予備として五島列島南側の海域を遊弋させていた。また横須賀の第一護衛隊群も西に向かって移動を開始し、最悪の事態に備えていた。さらに舞鶴の第三護衛隊群から「みょうこう」「あたご」のイージス艦を抽出、舞鶴地方隊の「みねゆき」「はまゆき」を随伴させた上で日本海上に配置、万が一の弾道弾迎撃に当てていた。
一方、米海軍は横須賀を母港とするジョージ・ワシントンとワシントン州ブレマートンを母港とするジョン・C・ステニスの2個空母任務群を沖縄海域に遊弋させ、散布作業群に中国艦艇を一歩も近づけない作戦を展開していた。また、海軍のみならず、三沢のF-16部隊が嘉手納基地に飛来し、さらにグアムのヘンダーソン基地からはF-22部隊が飛来していた。航空自衛隊も、築城、新田原の両基地に関東地区のF-2部隊を臨時配備、また両基地のF-15などを那覇基地に臨時配備していた。
この間、中国は米国、日本による領土侵犯許すまじ、という論調が報道を席巻しており、さらに、「みこもと」が関わった、潜水艦沈没事故を米海軍による撃沈と断定した論調も多々見受けられた。この潜水艦の沈没については、「かいえん」や「ドリイ」の撮影した潜水艦の現状写真、ビデオのコピーを日本政府は中国政府に極秘裏に送っており、すでに解決済みと理解していた日本政府や米軍関係者はこの論調に驚くと共に、中国政府信用できず、の感を深めた。しかし、実際には中国政府はこの潜水艦沈没の情報を一般には秘匿しており、その理由はこの情報が一般に知れると、タンパク塊に対する情報も公開せざるを得ず、すでに人的被害が発生している、今の段階で公表したなら民衆の政府に対する追及を回避できなくなる、というものだった。政府高官や軍高官は全ての情報を知っていたが、それら高官の動きはこの情報をいかにして自らの利益にするか、に終始していた事で、大きな混乱をもたらしていた。
米国政府は、このような中国国内の動きに加え、有力な水上艦艇部隊が寧波基地を出港した情報を得て、国連安保理の緊急招集を要求した。中国は反対したが、招集に対する拒否権は無い。どちらにせよ、どのような決議であっても中国が拒否権を行使して採択されないのは判っているが、中国の持つ異常性を知らしめる意味合いが大きく、また武力衝突の回避を提案して、それを拒否するのなら、国連憲章違反を問う事も可能だ。其れを見越しての米国の緊急招集要請だった。
中国の態度は米国の予測通りだった。あくまでも自らの主張する領海線を根拠として主権侵害を主張し、危険なタンパク塊の存在と対処について、中国の国内問題と言い切ったのだ。中国を除く安保理理事国はこのタンパク問題への共通認識をすでに確認済みであった。放置すれば3年程度で人類滅亡の瀬戸際に立つ、という共通認識だった。中国国連代表もこの認識は共有していたが、本国からの訓令に逆らうわけには行かなかった。この時の議長国であったフランスが中国を除く全安保理事国の共同提案という形で、中国が主張する領海を一時的に棚上げし、このタンパク掃討が終了した後に再度話し合う、という案を提示した。
この案はある意味中国有利な提案であったが(中国の主張する領海大陸棚延長説を話し合う事を担保)、狂ったナショナリズムの前には、無意味な提案だった。結局、安保理では何も実効的な決定はできず、双方に軍事力を同海域に展開させない議長勧告を採択するだけに終わった。米国と日本は、琉球海盆へのプランクトン散布を中国が実施するかどうか、航空機による監視を行っていたが、米国による通告期限を過ぎても、中国が散布に着手する気配は無かった。また琉球海盆を自国領海と主張する中国は、自国領海内への軍事力展開を非難する事は内政干渉であると言明し、その海軍戦力を海域に止めたままであった。
日米両国はこの間も非公式に中国政府高官と接触を続けたが、中国高官は日米の主張を理解はするがプランクトン散布によるタンパク塊掃討は中国の内政問題という姿勢を崩さず、事態は進展しなかった。
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