表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/59

災難(田中)

皆様明けましておめでとうございます。本年が皆様にとって良い年でありますように。


年末年始を家族旅行で海辺で過ごしたのですが、帰宅してすぐに仕事で出張。なんと年末年始を過ごした隣の町・・・旅行した気がしません。

第47話です

もっとも、これらの事が判明しても具体的な対策は、というとほとんど何もなかった。唯一、磁気感知型変異種も電流感知型変異種も、デコイが通用する事が救いだった。船体なり、調査艇体なりを慎重に消磁した上で、自航能力のある電池、電磁石を放り出せば、攻撃はそちらに集中する。「みこもと」は少なくとも物理的な力では壊せないだろうが、ぶつかって潰れた後の核汚染が深刻だ。「みずなぎ」や「かいえん」も物理的に破壊されるとは思えないが、艇外に装備する推進装置などは破壊される恐れがあり、艇体そのものが破壊されなくとも、それらが壊れてしまうなら、結局同じ事だろう。「ドリイ」に至っては、おそらく物理的破壊による喪失まで考慮しなければならないだろう。したがって、もし調査行動を行うのなら、先にデコイを落としてそちらに向かわせて後、活動する必要が有った。

「現時点で有人艇、無人艇を使った調査活動は危険すぎると思う。従って、採れる選択肢は『金魚改』もしくは水中カメラと言うことになると思う。」

「賛成です、吉村さん。ともかく、人員を失うわけには行きません。」

「その通りだが、さて、散布した幼体の効果をどう確認するか、が問題だなぁ。カメラを3000mまで降ろすわけにも行かないし。」

「吉村さん、『みずなぎ』の外部ベイに使うポッドがありましたでしょ。あれ使えませんかね?」

「また改造か、長野。経理がいい顔せんぞ。『金魚改』だって俺が経理から絞られたんだからな。」

調査機構は半官半民であるため、システムは役所に酷似していた。「みこもと」でも各課に定数備品があり、それが不足した場合、理由書を付けて、購入依頼をする必要があるのだ。「金魚」の改造に使った「みずなぎ」の部品も、定数予備として帳簿に記載されている。一時借用で使用が終わったら戻せば良いのだが、「金魚改」の場合、変異型巨大生物を引っかけたおかげで、内部の装置、特に水中舵を動かすサーボは無理な力が掛かった事で全損扱いになっていた。また、予備の「金魚」曳航体を使った「金魚改」も、曳航体を切り刻んだ結果、修復不能として帳簿落ちし、新たに「金魚改」として備品申請して、その認可がおりるまでは、やはり定数備品の不足として扱われるため、新規に「金魚」曳航体の予備を購入する必要があったのだ。半官半民である調査機構には、税金から交付金が下りてくるため、会計監査院の監査があり、経理が厳しい事にも理由はあるのだ。

「吉村さん、うちの方で流用申請しましょうか?」

「いえ、船長、それじゃ申し訳ないです。調査課の備品なんですから。」

「うちの事務長には経理の方も優しいそうですから、良いんじゃないですか。(笑」

「岩永さんにはそりゃ優しいかも知れませんね。」

「みこもと」事務長の岩永は一見すると、どこかの組織の幹部で通る人物だった。押し出しといい恰幅といい、下手に逆らったら手のひらでもみ潰されそうな雰囲気があった。もっとも本人は趣味が本職はだしのケーキ作りで、司厨課を取り仕切る立場を利用して、最近凝っているチーズケーキ作りに精を出し、上陸すれば自作のケーキを持って児童福祉施設などを慰問に訪れたりする、至って心優しいおじさんだった。最近のチーズケーキは非常に品質が高くなり、一流ホテルのものにも劣らないレベルに到達しており、船内の甘党からも密かに尊敬を受けていたりする。しかし、経理課員はそんなことは知らないので、岩永事務長の備品購入申請を断ったりするとどうなるか、などの怪しい噂があり、特に新人は戦々恐々としていた。もっとも経理でもお局様レベルに到達している何人かの女性経理課員は、ケーキによって籠絡されているのも事実で、申請がスムーズに通ると、お礼と称して岩永が持ち込んでくるケーキが目当てという面も否定できない。どちらにせよ、吉村が経理課へ行くよりも話がスムーズに進む事は全くの事実であった。

「それじゃ、図々しくお願いしちゃいますかね。長野、次の帰港では、船長をご招待するんだぞ。おまい、キャバクラの帝王と自称してるそうじゃないか。」

「ちょ!それは田中でしょう。寝ぼけて『ドリイ』をキャバクラのおねーちゃんの名前で呼んで、しばらく返事して貰えなかったんですから。」

「なんだ、『ドリイ』にまるで感情でもあるみたいじゃないか。」

「いぇ、登録してあるヤヴァイ言葉を誰かが『ドリイ』に言うと、ランダムな時間しばらく相手にして貰えない、ってルーチン入れただけですけどね。田中が一番最初に引っかかりやがった。」

「ひでぇ・・・・・」

「クッ、クッ、吉村さん、それじゃ申請は僕の方で・・・・ぶわっはははは。ほんとに調査課は酒のつまみに困らないですねぇ・・・」

15分後、押っ取り刀で田中が調査管制室に顔を出した。後の祭りだった。

「なんか、甲板の連中が僕を見ると大笑いするんですが何かありました?」

可哀想な田中は誰からも答えて貰えなかった。全員が床に倒れて悶絶していたからだった。


そんな騒ぎの中、「みこもと」は幼体散布の効果確認のため、水中カメラを降ろす作業に入った。長野と船の工務課員が共同して改造した「みずなぎ」用ポッドには、紫外線投光器や暗視カメラ、全周カメラなどが設置され、入念な消磁と絶縁が施された。ケーブルを通して電源を送るとその電流で磁界が発生するため、電源は電池を内蔵させた。このため撮影可能時間は3000mで4時間程度だったが、目的のためには十分と考えられていた。つり下げケーブルは非導電性のケブラー繊維主体のもので、カメラなどの操作は水中データー通信装置を利用した超音波によるシリアル・データー方式だった。3000mの深さでは約2秒のタイムラグがあるが、それほど問題とは考えられていなかった。映像は圧縮データーとして超音波で船上に送られる。これも2秒のタイムラグがあった。事前に音響探知を行った結果では、「みこもと」を中心とした半径300m以内に巨大生物も高速型も存在しないことが判っていた。水中カメラには海水採取装置が取り付けられ、250m、1000m、3000mで採取を行う。どちらかと言えばカメラの画像よりも、こちらが本命だったかも知れない。

順調にカメラは水中に下ろされ、撮影を開始すると共に、画像データーを船上に送ってくる。規定深度での採水も順調だ。カメラ画像から見る限り、海水にあまり濁りは無い。付近に近づいてくる巨大生物は居なかった。4時間後、カメラは引き上げられ、採取した海水は分析に回された。

「吉村さん、どうも幼体の再生産が上手く行っていないようです。定着できていないように思います。」

「やはり3000mの水深では定着できないのか。」

「いえ、どうも水深2800m辺りから、タンパクの再生産が酵素による分解と拮抗するようなんです。そのため、タンパク分子の層が海中に出来て、幼体が海底に定着できないようなんです。」

「そういえば、最初に発見したときも3000m超える海底からドームのように盛り上がっていたんだったな。しかし、どうしてそんなことが起きるんだ?浅い処での増殖率より深いところの方が高いってのも不思議な気がする。」

「それも実は解明できまして、アミノ酸連鎖の一部に圧力依存性があるようなんです。つまり最大増殖水深があると言う事です。」

「村木君凄いじゃないか。この生物の秘密がほとんど解明できたようなものですよ、それは。」

「しかし、まだもっと深いところ、4300mを超える水深で増殖していないのは何故か、という謎があります。圧力依存性で説明できるかも知れません。」

「しかし、そうなると2800mより深い海のタンパクは対策の方法が無いな。」

「それなんですが、望月さんが持ち込んだアレを藍藻類と一緒に使ってみたいのですが。」

「ところで、アレは何なんだね?」

「ミクロン単位で結晶したほぼ純鉄です。実は日本の水産研究でベーリング海で実験したデーターがありまして、陸岸から離れた大海洋中心部では鉄分が不足するためプランクトンが成育できない、という実験室での仮説をベーリング海で実験したというものなんですが、船上から鉄粉を散布した結果、散布域とその周辺海域で植物性プランクトンがほぼ倍増した、というデーターなんです。今回有効性が認められた藍藻類も鉄分が増殖には不可欠であることがすでに判っています。」

「なるほど。やってみる価値はありそうだな。褐藻類幼体には効果が無いのかね。」

「それはまだ判りません。褐藻類もかなりな鉄分を含みますから、効果が無いとは言えないと思いますが。」

「よし、早速やってみよう。」

ご意見、ご感想をお待ちします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ