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高速型

クリスマスも終わり、一時的に私の住む街も落ち着きを取り戻して来たようです。でも、大晦日にはまたまた大騒ぎ。街のそこここで人形を燃やし、爆竹を鳴らして一年の厄払い。

すでに気の早い子供達は町中でバンバンやってます。

第45話です。

日本のこの対処を望見していた中国、韓国は火が付いたような性急さで、この対処法の詳細とノウハウを要求した。広報の失敗と無関心さが数万に及ぶ被害者を発生させていたのだから、当然の帰結だった。政府はまたもや無能だった。この二国に何らの条件を付けることなく情報とノウハウを提供したのだ。つい先日まで、やれ、原発事故の放射線の影響やら、日本人が密かに持ち込んだやら、99.9999%までが虚言の発言を、政府関係者までが繰り返していた国に、なんらの言質も公式表明もさせることなく、無条件で提供してしまったのだ。韓国へなど、ノウハウを持つ船舶を無償で一時貸与までしていた。

さすがに中国という国は、ごり押しはしても、日本が何を提供したのかを理解する頭が政府首脳にはあった。政府が公式に感謝の意を表明し、以前の発言を全て詳細が判明しない事による無知が為さしめた事と言い訳するだけの知恵があったが、韓国は対処に目処が付いた頃、この手法は韓国人研究者が先に発見していた、と言い出したのである。そして、日本は韓国人研究者によって救われたのだから、感謝と研究者への金銭的補償をせよとマスコミが煽りだした。日本のマスコミもこれに乗って、褐藻幼体の発見も、増殖法のアイディアも韓国人研究者の成果と書き立て、後先を考えず、研究者の個人名まで報道に乗せてしまった。

この研究者は、製薬会社の企業研究所でクロマトグラフィーなどによる成分分析の実務を補助していただけだったが、国を挙げてのタンパク対策に、この研究所も協力したため、タンパクや藻類プランクトンのクロマトグラフィー分析データーに名前を連ねていた。そしてそれは公式報告書や論文に分析者として名前が掲載され、鵜の目鷹の目で韓国人名を探していた韓国報道機関がそれを見つけ、ストーリーをでっち上げたのが真相だった。

韓国マスコミも日本マスコミも、一つだけ完全に忘れていた事があった。今回の研究には、欧州不況で押し出された欧州の研究者が多数参加しており、また、ハワイ州の被害が激甚な事から、米国の国営研究所も深く関わっていたのだ。公式の報告書には本当の発見者、アイディア提供者である村木や望月の名前が頻繁に掲載され、その発見の経緯や詳細な事情などまで説明されていた。当然であるが、このような報道、マスコミの姿勢に本当の関係者からは轟々たる非難が巻き起こり、国家的危機を報道しないわけに行かないマスコミに対し、虚偽報道を訂正しない限り協力しない、とまで言わしめた。そして、日韓のマスコミが自縄自縛に陥っている間に、米国や欧州のマスコミは信用できない駐在員を見限り、特派員を派遣して事実を確認、特に欧州のマスコミは自国の有名研究者がこの件に関わっている事を見いだしてからは、この韓国の姿勢を非難する論調を展開した。これは日韓では故意に紹介されなかったが、欧米の研究施設などに韓国人研究者が出向する場合、大変な障害となって残る事になる。欧米社会では、有用な研究成果は重要な社会的ステータスであり、階級の明確な欧米社会では、人の一生を左右するものにもなるのだから、これをねつ造する事に対する忌避もまた酷く強い事を、二言目には国際化を口にする日韓マスコミ人は知らなかったのだ。

これは瞬く間に、ネットにも拡大し、アカデミックな内容を持つウエブサイトなどKRドメインを遮断する措置を取る処まで現れた。韓国政府はこの欧米の動きを見て、「植民地支配云々」「性奴隷云々」と喚きだしたが、時すでに遅く、韓国の欺瞞性を世界に知らしめてしまったのである。これは最終的に韓国の貿易にも影を落とし、3%近く貿易収支が悪化、薄々気づいて居た外国企業も韓国から逃げ出すはめになった。


そんなごたごたを尻目に、「みこもと」は再び出港した。目的地は小笠原東方1000海里の、潜水艦沈没地点だった。航海は順調だった。目的地点付近に到達した「みこもと」は、音響探査を行いながら沈没点へ接近して行った。それが起こったのは沈没点まで1海里を切った時だった。

「吉村さん、何かがかなりな速度で上がって来ます。推定30ノット超。」

「本船に向かってくるのか?」

「はい、衝突コースにあります。」

「ブリッジ、こちら吉村、緊急加速願います。推定30ノット以上で海底から接近するものがあり。衝突コースです。」

それまで音響探査のため、7ノットを超えない速度で航行していた「みこもと」は観測室の吉村からの緊急要請を受け、加速を開始した。ディーゼル電気推進船である「みこもと」は、短時間なら電動機を過負荷状態にすることで、通常の3割増し以上の馬力を出すことができる。軍用タービン推進には劣るが、一般のディーゼル機関で走る船とは別次元の加速が可能だ。すでに何度か修羅場ともいえる状況をくぐり抜けて来た「みこもと」ブリッジ要員に躊躇は無かった。30秒程度の短時間で20ノットを超える速度まで加速した「みこもと」の船尾海面に飛び出してきたのは、全体が灰黒色の巨大生物だった。

「なんだとぉ!」

船尾のモニターを見て思わず吉村は叫んでいた。

「黒岩ぁ、他に接近するものは無いのか!?」

「速度が速すぎて上手く見えませんが、後二つあるようです。」

「ブリッジ、進路変更取り舵90度、船長、願います。」

ブリッジに船長は詰めていなかったが、船尾海面に飛び出したものを見ては、ブリッジ要員に否応は無かった。「みこもと」はその船体性能をフルに発揮して、針路を90度左へ変更した。速度はすでに25ノットに達していた。変針が終わった直後、「みこもと」右舷後部海面には、先ほどと同じ、全体が灰黒色に見える巨大生物が飛び出していた。

「吉村さん、何ですかありゃぁ!」

ブリッジに登った船長から驚いた声で連絡が入る。普段沈着冷静な彼とは思えないほど、声が裏返っていた。

「船長、見ての通りのものです。残念ながら詳細は不明です。」

「本船にぶつかろうとしているのですか?」

「そうとしか思えません。すみませんが船長、もう一体いるんです。そろそろ右舷90度転進願います。」

「了解。」

その言葉の直後、船体が左に傾斜し、右舷への変針が始まった。先ほどと同様に今度は左舷後部海面に巨大生物が飛び出した。

「船長、取りあえず、この海域から距離を取りましょう。この速度をどのくらい維持可能ですか?」

「賛成です。現在過負荷運転していますので、この状態が続けられるのは1分ほどです。通常負荷最大速度ならば燃料が無くなるまで続けられますが。」

「取りあえず通常最大速度で30分ほど航行をお願いします。非常に難しいですが音響観測でヤツを監視します。」

「お願いします。転舵の場合は少し早めに連絡下さい。」

「みこもと」は、当面、この海域を脱出する事に全力を注ぐことになった。27ノットの速度で、30分ほど走り、攻撃を受けた海面からおよそ20海里ほど離れた処で速度を落とした。

「どうだ黒岩、速いヤツは見えるか?」

「取りあえず、深度3400m、海底ですが、半径2海里以内には居ないようです。」

「取りあえず一安心かな?」

「いや、待って下さい。レンジ限界に何か入って来ました。エコーは小さいです。高速で泳ぐ魚に似てます。」

「針路は?」

「まだ割り出せません。ちょっと待って下さい。」

「取りあえず、高速退避の準備だけはしておこう。甲板作業総員船内へ。突発高速機動の可能性有り。」

この指示が甲板員を救った。

「針路確定しました。本船です。」

「ブリッジ、吉村です。即時加速願います。本船に向かう高速移動体があります。」

「了解。」

「みこもと」は体を後ろに持って行かれるような加速を開始した。しかし、間に合わなかった。相手が余りに速すぎたのだ。40ノットを超える速度で接近してきた高速移動体は、「みこもと」からおよそ半海里辺りに接近すると急速に加速、100ノットを超える速度で海面上に飛び出した。外形はイカに似た姿の、大きめのカツオ程度の大きさを持つこの物体は、空中に飛び出すと次々と「みこもと」に体当たりを行った。高張力鋼の外板を持つ「みこもと」に当たった物体は、当たると同時に潰れ、ゼリー状の塊になって舷側に付着しゆっくり流れ下って行く。飛翔中の姿を捉えたカメラ映像から、あまり鮮明では無かったが、巨大生物に似た色と構造が判明した。これも巨大生物の亜種なのだ。次々と海面から飛び出しては舷側に衝突する。そして徐々に海面から飛びだす距離と角度が変わり、ついに甲板に落下し始めた。その瞬間だった。ブリッジの放射線警報装置から大音響の汚染警報が鳴り響いた。当直の二等航海士はアラームを止めると同時に、汚染除去装置を稼働させた。デッキ上、舷側に張り付いたゼリー状物質は、高圧海水の散水にみるみる洗い流されて行く。それでも、攻撃は続き、船上に設置されている機械強度の低いものが壊され始めた。救命浮環やEPIRBなどの救命備品や救命ボートのカバー、作業用のゾディアック・ゴムボートと船外機などなど。

食用ゼリーよりも柔らかいものとは言え、時速180Kmという速度で4〜5Kgのものが衝突するのだ。強度を必要としない部品などは壊れて当たり前だった。

攻撃は唐突に止んだ。それまで無数に海面から飛び出していたものが、一瞬で静まりかえった。船上には高圧洗浄水の散水音だけが響いていた。

「2nd、放射線量はどうですか?」

「大分下がりましたが、まだ甲板作業は無理です。これから散水をコロイド状吸着剤入りの真水に切り替えます。」

「吉村さん、次の攻撃はありそうですかね。」

「船長、音響観測ではその兆候は無さそうですが、油断は禁物でしょう。なにせスピードが速すぎる。」

「そうすると、現在速度をしばらくは維持する必要がありますね。」

「お願いします。最低でもこの海域から100海里程度は距離を取りたい。その後落ち着いて対策を考えましょう。」

「判りました。ただ、航海可能時間が数日単位で減りますけれど・・・」

「仕方が無いでしょう。何とか早急に成果を上げる努力をします。」

「ああ、それと攻撃前の総員船内の指示、ありがとうございました。お陰で甲板員が助かりました。」

「越権行為かも知れませんでしたが、安全の方が優先ですから。」

「ああ、その辺はお気になさらずに。しかし、何なんですかアレは。」

「例の巨大生物の変異したものだと思います。しかし、タンパクの塊がここまで意志を持った行動、固体間の協調も含めて、出来るというのは驚きです。今、船外モニターの画像分析をしていますので、もう少ししたらある程度の事は判ると思います。」

「あれも変異種なんですか。驚いたなぁ。30年以上海で生活してますが、あんなものは初めてですからねぇ。」

「いえ、多分、世界の生物学者たちも初めて知るものだと思いますよ。しかしとんでもないものです。」

「そうですねぇ・・・」

「船長、甲板放射線強度が既定値以下になりました。洗浄用真水残量は約40%です。」

「了解、2nd。ご苦労様。引き続き舷側部の洗浄を継続して下さい。」

「了解。」

「みこもと」はその後3時間ほど北東へ27ノットの高速で航行し、潜水艦沈没地点からおよそ120海里ほどの処で、速度を落とした。水深が6000mを超えるこの海域には、巨大生物の姿もまばらだった。30分ほど全速即時待機状態で音響観測を行った後、7ノットの音響観測速度で北東に航行を開始した。作業甲板では甲板員と作業員が総出で後始末をしていた。モニター線量は低下したとは言え、部分的に高線量の処が有り、甲板員達は携帯線量計を使って高線量の部分をしらみつぶしに洗浄していた。

甲板に固縛されていた「みずなぎ」や「かいえん」、「ドリイ」なども部分的に汚染されており、さすがに深海作業艇であるゆえ、機械強度は十分にあるため、壊れたところは無かったが、微細な部分を汚染されており、洗浄が行われていた。しかし、甲板員と作業員だけが忙しく働いているわけでは無かった。同じ頃、研究員は今回の出来事への対策と今後の方針を検討していた。

「村木君、今回のこれをどう考えるかね?」

「吉村さん、ともかく、世界でこういう事象に出会った事が有るものは居ないと思いますので、手探りで行くしかありません。」

「それはその通りだな。で、生物学的見解はどうなるかね。」

「と言われましても、見たとおりでしかありません。ひとつだけ、今回の行動から判るのは、どこかに司令センター的なものがあるのでは無いか、というくらいです。」

「チャンさん、生態学的にはどうですか?」

「私も村木さんの意見に賛成です。特に小型の変異種による攻撃は非常に統制が取れていると感じます。司令センターと通信手段が存在すると考えます。」

「望月君からは何かあるか?」

「新しい変異種のスピードですが、通常の推進方法、つまり繊毛や鰭などによる推進ですが、それでは不可能に思えます。何か別の推進方式では無いかと考えます。ただ、水中で水を押した反力以外の効果的推進方法は無いと思いますので、繊毛や鰭以外の方法で水を押していると考える方が合理的です。」

「なるほど。問題を整理すると、非常に統制の取れた攻撃から、指令センターと連絡手段の存在、またこれまで観測されたことのない速度を持つ事から、何らかの通常とは異なる推進手段の存在、この二つが疑われると言うことだな。長野君何かあるか?」

「はい。もう一点、考えなければならないことがあります。この生物が『みこもと』をどうやって探知したのか、という点です。これまでに判っている漏洩電流による探知は対策済みの『みこもと』には当てはまりません。前回探査で対策済みの『かいえん』は攻撃されていませんから。私は音響探知が出来る様になったのでは、と疑っているのですが。それ以外のシグネチャーは『みこもと』から出ていないと思いますので。」

「あのー、宜しいでしょうか?」

今回の航海には、海上自衛隊から3名が研修として乗り組んでいた。そのうちの一人、藤代3尉だった。専門は音響探知で、通常は潜水艦のソナー班長として任務に就いている。滝川の肝いりで近海のタンパク塊対策のために人員研修を行う目的で乗り組んでいた。人選の時、単に兵器運用に長けただけの人員では、今回のようなケースには対応できないと考えられたため、自然科学に造詣のある人員を選抜したところ、ほとんどが潜水艦のソナー員だった、という笑えない話があった。

「はい、藤代3尉何でしょう。」

「長野さんのおっしゃった探知なんですが、『みこもと』は上部構造はアルミ合金や複合素材ですが船体は鋼鉄です。そして、多分ですがこれまで船体消磁はやってらしゃらないのでは無いかと思うのですが。」

「ああ、確かに消磁は一度もしていないですね。其れが何か?」

「消磁がされてないのであるなら、船体はかなり強く磁化されているはずです。今回乗船して巨大生物についてかなり詳しく教えていただきましたが、それが正しいなら、全長50mレベレの感知コイルを持ったMAD(磁気探知機。潜水艦捜索に使用する。)が構成できると思うんです。すでに電流探知は出来る様ですから、磁気であれば導線1本あれば電流に変換できますので、そちらの方が可能性が高いのではないかと考えたのですが・・・」

「ああ、それは良い点に気づいていただきました。その可能性はありますし、電流感知ができるなら、物理的可動部を必要としない磁気探知の方がこの生物には簡単でしょう。しかし、その可能性も考えなければいけないとなると、対策はかなり厄介ですね。」

「長野さん、海況次第ですが、簡易的な消磁をしたらいかがでしょう?」

「藤代3尉、そんなことが出来るんですか?」

「ええ、ちょっと昔の艦艇は、磁気機雷対策に舷外電路を使って消磁コイルを作っていたんです。今は基地の固定消磁で日常的に消磁しますが、長期間の航海では其れが出来ませんから、自分で消磁をしていたんです。」

「具体的にはどうすれば良いんですか?」

「船体外周にコイルを作れば良いんです。船が動きますと、地磁気の影響でコイルに微少な電流が流れます。海域の地磁気特性が判っているなら、かなり厳密に計算できます。船体が磁化していると、それとの差異が出ますから、それを打ち消すような電流を流せば、消磁できることになります。地磁気データーは私が持っております。」

「実験する価値はありそうですね。コイルは・・・・・ああ、『金魚』のケーブル使えば良いか。1本3千mくらいはあるし。」

「船体外周を5〜6回巻ける長さがあれば大丈夫と思いますが。」

「藤代3尉、長野、出来る事は何でもやってみよう。準備に掛かってくれ。」

「「了解」」

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