新型
第41話です。
まだ自宅ですので更新が可能です。出張はいまだ未定。でも必ず行かなければなりませんので、数日中には予定がはっきりするでしょう。
無線LANの問題は解決しそうです。コンドミニアム自治会がかなり過激に動いてます。やっている連中は最後のあがきとばかりに、めちゃくちゃな攻撃をかけているみたいです。今はMacフィルターで弾かれても侵入してきます。うちは無線LANは現在「餌」として使っています。^^;
自治会から「PCの知識がある」って事で頼まれました。このコンドミニアムはかなり社会的地位の高い人達が住んでいて、弁護士や判事も居ます。その連中が検討した結果、他人様がお金を払って利用しているサービスにただ乗りする事は、この国の法律で「窃盗」になるそうです。現在は裁判所、警察に根回し中。IT関連の法律が無い国ですので、そう言う形に持って行くんだそうです。
ま、警察が動けばこの問題も収まるでしょう。というか、別の処からの情報ではスパマーが何人か居るみたい。結構国際的な話になるのかも。
「ドリイ」を新しいコースに入れると同時に、「みこもと」もダイナミックポジショニングを解き、「ドリイ」と併走する形で移動を開始した。「ドリイ」が新コースに乗って約10分後、2体の巨大生物も針路を変え、「ドリイ」との邂逅針路を取ったのが確認できた。つまり、周囲に多く存在する他の巨大生物と異なり、この2体は確実な意志をもって「ドリイ」または「みこもと」に接近していることが明らかになったのである。多分、生物学的には大変な発見であろう。その証拠に生物学の村木は意志を持った接近が判明した瞬間から、呆然としてたままである。
「ドリイ」のコースをそのままに、「みこもと」は「ドリイ」との距離を開くマニューバーを開始した。巨大生物の狙いが「ドリイ」なのか、「みこもと」なのかをはっきりさせるためであった。その結果、「みこもと」の動きには反応を示さず、「ドリイ」を狙っていることがはっきりした。そこで今度は「ドリイ」の機能を少しづつ低下させ、2体が「ドリイ」のどんなシグネチャーを目標にしているのかを探る実験を開始した。
「『ドリイ』、推進装置停止。」
「『ドリイ』了解、推進装置停止、停止しました。」
2体の巨大生物は何事もないように接近してくる。
「『ドリイ』、外部機器への電源供給停止。」
「『ドリイ』了解。田中さん、通信が停止しますが宜しいですか?」
「構わない。5分後、自動復旧。現在のリンクを再構築。」
「『ドリイ』了解。外部機器への電源供給遮断準備、5分後データーリンクを自動復旧。電源遮断します。」
「ドリイ」からの音響探査信号が途絶えたため、「みこもと」の船体に設置されたナロービームマルチスキャンソナーを起動、数秒遅れてその映像がモニターに映し出される。すでに距離が半海里程度となっていたため、船体ソナーでも十分に巨大生物を判別できた。電源供給が絶たれて3分ほど経過した頃、巨大生物の動きに変化が現れた。それまで音響探知に安定したエコーを返していたものが、突然エコーが乱れ始めた。体の姿勢を変えているものと思われた。そして「ドリイ」の外部機器電源が復旧する直前、音響探知で捉えていたドップラー変位が消失したのだ。つまり、静止したと言うことだ。「ドリイ」の外部機器電源復旧後、およそ1分ほど後、再度ドップラー変位が観測された。つまり動き出したと言うことだった。「ドリイ」外部機器から発する何らかのシグネチャーを追尾しているのは間違いが無かった。この時点で「ドリイ」外部装置で動作していたのは全て音響関連装置だった。測位ビーコン、音響探査機器、超超音波高速データー通信装置などである。田中はこれらの音響装置を個別に全て停止させたが、巨大生物は止まらなかった。しかし電源を切断すると追尾が止まる。これは外部装置へ供給される電源に関連するシグネチャーを追跡していると結論せざるを得なかった。
「吉村さん、これまでの経緯から考えて、この怪物は接地地電流を感知しているんでは無いでしょうか?」
「どういうことだ、長野。説明して見ろ。」
「本船の観測機器はほぼ全て、直流で動作しています。従って、電源を含む全ては閉回路として動作します。電池の+端子から流れる電流は機器の回路を通って、電池の-端子へ帰り、動作を完結します。しかし、例えば音響信号は海中に粗密波を発生させるために、海の電位に対して変化する電位が必要になります。ところが機器、言い換えれば電池の-端子は海と同電位ではありません。回路的には接地という形で、海と電池の-端子の電位を強制的に同じにしていますが、元々電位が異なるのですから、電池の-端子と海全体の間に電流が流れます。これが接地電流と呼ばれるものです。これは同心円状の電流分布を持ち、一種の電界に近い形で周辺に拡散して行きます。怪物はこれを捉えて居るのではないでしょうか?」
「うん、なるほど。海中の電界を感知するか・・・有りそうな話だが、距離1海里じゃ微弱なんてもんじゃないぞ。」
「ええ、ただ、ゼロでは無いですから、何らかの形で感知できるのではないのかと疑っているのですが。あの巨体の理由がそれかも知れません。微弱な電流でも大きな面積でかき集めれば感知できるレベルになるのかも知れません。」
「なるほど。理にはかなっているな。実証しよう。長野、何か方法は無いか?」
「『みこもと』からケーブルを流して、それに絶縁された電池の-端子を繋ぐという方法はどうでしょうか?もし、怪物が接地電流を感知しているならば、『ドリイ』よりも遙かに大きな電流値になる『みこもと』の電池群に引きつけられると思います。」
「よし、それ採用。準備に掛かってくれ。『ドリイ』は準備が整うまで、深度10mまで浮上、外部機器電源遮断の上、深度維持、待機状態に入れてくれ。2時間ほどで自動復帰。以上だ。」
「みこもと」から流されたケーブルによる巨大生物誘因は見事に成功した。「ドリイ」はいったん引き上げ、接地点の絶縁を行った上で、光学観測に絞って再投入されることになった。今度は巨大生物に接近を試みる。「ドリイ」はあまり機動力が無いため、接近するのは危険であったが、有人艇の露払いとしてはかなり有用であった。「みこもと」は「ドリイ」の準備が整うまで舵効最低速力での前進、停止を繰り返し、移動速度が1ノットに満たない巨大生物を誘引し続ける事になった。数時間後、「ドリイ」への絶縁作業が終わり、「ドリイ」は再び海に降ろされた。
再度潜水した「ドリイ」は、「みこもと」から流されたケーブルを追尾している巨大生物に接近して行った。時間が朝も遅い時間だったため、太陽は中天に近く、巨大生物が「みこもと」のケーブルを追う水深25m付近の視程は非常に良かった。そのため、極端に接近せずに巨大生物の概要がカメラに映し出される事になった。
やはり中心部に核とでも言える不透明な部分を持つ変異種だった。ウミウシの仲間であるフラメンコ・ダンサーという軟体動物に似た動きで海中を移動している。もちろん、その巨体ゆえ動きは緩慢に見える。また核の部分以外は神経組織に似た筋状の部分を除き、原種の巨大生物なみに透明だったが海面近い事から外光を屈折するため比較的はっきりと輪郭が観察できた。輪郭部分を拡大撮影した画像には輪郭部分から陽炎のようなものが出ているのが判った。この正体は「ドリイ」が巨大生物の進行後ろ側に回り込んだとき判明した。巨大生物の進行した後に帯状に海水粘度の差が認められたのだ。ただし、その後「ドリイ」が巨大生物の進行コースに沿って移動した時、一定以上の水深ではその粘度変化がほぼ無くなることが判明した。概ね水深60mを超える処では、海水粘度に変化が無かったのだ。
この事から、「みこもと」観測班は巨大生物は可視光線や紫外線で分解されるのではないかという疑いを強く持つに至った。しかし、すでにゼリー状の物体が舷側を這い上がってきた事実があり、可視光線、紫外線の強い大気中の環境でも活動が出来る事は実証されている。この矛盾に村木を筆頭とする観測班の生物学担当は頭を悩ませることになった。それでも、この「ドリイ」の観測結果は巨大生物対策に非常に重要なヒントを含んでいる事は明白だった。
「ドリイ」が餌のケーブルを追尾する2体の巨大生物を観察し始めて2時間が経過した頃、それは突然現れた。最初は音響観測の限界近くに現れたあまりはっきりしない反射だったため、しばらくは音響観測室でも、「ドリイ」制御室でも見落としていたほどだった。距離が900mほどに接近したとき、音響観測に当たっていた黒岩がそれに気づいた。
「吉村さん、こちら音響観測室、どうも巨大生物と思われる非常に動きの速い反応が接近しています。」
「速いってどのくらいの速度なんだ?」
「3ノット超えていると思います。」
「判った。長野、『ドリイ』のセンサーで捉えているか。」
「はい。これだと思います。今、追尾マークしました。速度は約3.3ノットです。」
「で、どっちへ向かってるんだ。」
「餌の方ですね。後9分くらいでケーブルに届きます。」
「それなら『ドリイ』で観測可能だな。念のため少し距離を置こう。」
「ただ、『ドリイ』の電池残量が少なくなっていますので、大きな移動はその後の観測に影響しますが。」
「構わない。この速いやつを撮影したらすぐに回収しよう。」
「了解」
田中は「ドリイ」に指令を送り、現在位置から300m程度「ドリイ」を移動させ、接近してくる新種と思われる巨大生物のコース周辺から距離を取った。その数分後、極低速で曳航されているケーブルに到達した巨大生物から強烈な電撃が加えられた。もっとも、電池自体はその他のものから完全に絶縁されており、また「みこもと」自体も電撃対策を施してあるため何事も起きなかったが、海水の持つ僅かな電気抵抗の両端に発生した電圧だけでケーブルの接続点でアーク放電が発生した。この生物の起電力が規格外れである証左だった。
そんな中、「ドリイ」はこの生物に接近し、撮影を開始していた。「みこもと」の「ドリイ」制御室大スクリーンにリアルタイム映像が映し出された時、どよめきが起きた。そこに映し出されたのは新たな変異種と思われる姿だった。不透明な核を持つ事はこれまでの変異種と同じだったが、その大きさが二回りほど大きくなっており、そこから伸びる神経節様の筋状の部分の先には核に似た、小さな球状の部分があった。そしてそこからさらに細い筋状のものが無数に延び、その巨体表面を荒い網目状に覆っていた。これまでの巨大生物と比べるとそのサイズは一回りほど小さくなっていたが、その動きは敏捷と呼んで差し支えが無いレベルの早さを持っていた。「みこもと」上の計器には、最初のものより規模ははるかに小さいが、間欠的に電撃が繰り返されて居る事が記録されており、これまでのものと比べると、はるかに進化した形態で有ることを示していた。
「これは・・・・生物がこれほど速く進化するなど信じられません。試行錯誤すらせずに、有用と思われる機能を発展させるのは無理です。」生物額の村木は呻いた。
「村木君、現実を受け入れるべきだよ。驚くべきことではあっても、現実は現実だ。」
「しかし、これを認めたなら、これまでの地球生物の進化は何だったんだ、と言うことになります。この生物の前には既存の地球生物は生き残れません。人類も含めて。」
「たしかにそうかも知れんが、それに対処する方法を見つけ出すのが今回のミッションでもあるんだ。其れを忘れるな。」
ご意見、ご感想お待ちします。