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接近

第40話まで来ました。読んでいただいている皆さんに感謝致します。

こちらも年末に入り、カトリックの国ですので、クリスマス一色になって来ました。赤道直下のクリスマスですので、日本とはまた雰囲気が違いますがそれでも、ツリーに綿で雪を付けるのには笑ってしまいます。


ところで、仕事が忙しくなってきました。多分、来週か再来週にちょっと長い出張があります。ホテルにはWifi環境がありますが、さてはて更新ができますかどうか?居住国の北の端の街で、飛行機で約1時間掛かります。次の更新以降、少し間が空くかも知れません事をお詫び致して起きます。

吉村が「ドリイ」を使えなかった理由は放射線だった。「ドリイ」の制御システムはちょっとしたスーパーコンピューター並みのシステムだった。24個搭載されたマルチコアCPUチップは極微細技術の結晶で、チップ配線の太さは数nmオーダーでしかない。

さらにこれに同じかさらに微細な配線を持つ数TBに及ぶメモリーが加わる。前回の沈没潜水艦への潜水で放射線による多数の不良ビットが’発生し、メインプロセッサー、メモリーともに予備品に交換され、また高軌道衛星に用いられる高エネルギー粒子によるチップ破損を防ぐ対策を施していたが、放射線自体のエネルギーは宇宙線より低いとは言え、暴露される量が桁違いであるため、万全と言えるにはほど遠かった。前回は障害が発生したとはいえ、何とか浮上を果たしたが、今回もうまく行く保証は無かった。

この事から、吉村は「ドリイ」の投入を躊躇していたが、現状を変えるためには「ドリイ」の損失を覚悟の上で投入を決めた。もっとも「ドリイ」によって何らかの成果が得られるとは考えても居なかったが、成果を得るための有人艇潜水に先立つ状況の危険度を知るためには必要な犠牲と考えていた。

「長野、『ドリイ』のバックアップは終わったか?」

「ええ、吉村さん、今、本船のメインシステムへ転送が終わった処です。しかし、田中泣いてましたよ。」

「田中君には申し訳ないが、『金魚改』がああいう状況では、有人艇の露払いが出来るのは『ドリイ』だけなんだ。」

「其れは判りますが、『ドリイ』はすでに疑似人格を形成しつつありますからねぇ。」

「まぁ、大事なのはその疑似人格を形成しているプログラムと学習成果だ。ハードは作り直せば良い。」

「それは正論ですがねぇ・・・やっぱ思い入れはどうしても外形にも入りますからねぇ・・・」

「堪えてもらうしかないだろうなぁ・・・判るんだがねぇ・・・」

「ともかく、他に方法は無い訳です。今ある機材で出来る限りのことをするのがこの船の使命だと思いますし。」

「そう言って貰えると少しは気が休まるなぁ・・・」

「みこもと」は「ドリイ」を投入した。これまでと異なり、最初からケーブル無しの自律モードだった。

「『ドリイ』聞こえるか、こちら田中。」

「はい、田中さん、感度良好。」

「なんか、ますます人間っぽくなってきてるな。」

「ええ、吉村さん、あれからずっと会話して、語彙を増やしてきましたからね。」

「とにかく、安全第一で行こう。さて、モニターにもう絵は出せるか?」

「はい。今深度3mです。もう絵は出ます。今の処の予測では、水深50m程度までは大きな音波障害は無さそうです。」

「了解。それじゃ絵を出してくれ。」

「『ドリイ』画像転送スタンバイ。」

「了解しました。画像転送モード起動します。画像転送起動しました。画像転送スタンバイ中。」

「『ドリイ』画像転送開始。」

「画像転送開始します。転送中。」

一拍の間を置いて「ドリイ」管制室のメインスクリーンに4分割で「ドリイ」からのカメラ映像が表示された。

「今の処、周囲至近には巨大生物は見えませんね。」

「そりゃ結構。よし、もう少し沈めてくれ。」

「了解、深度100まで潜入します。『ドリイ』深度100、深度を維持。」

「『ドリイ』了解。深度100まで潜入、深度を維持します。」

「ドリイ」は静かに沈降していった。

「沈降の度合いから見ると、海水の粘度異常はこの深さでは無いようです。『ドリイ』報告。メイン電動機の消費電力。」

「『ドリイ』報告します。メイン電動機消費電力は720W/h」

「電動機負荷も正常値の範囲ですね。」

「良し。それじゃ周辺音響探査開始してくれ。」

「『ドリイ』音響探査。モード全周。即時開始。チャンネル2で即時転送」

「『ドリイ』了解。音響探査を開始します。チャンネル2送信ルーチン起動中。起動しました。転送開始しました。」

「ドリイ」管制卓の左側にある音響探査モニター群のうち二つに画像が現れた。一つは水平360度、もう一つは垂直360度をカバーしており、それぞれのビーム幅は90度である。左右側面方向で重複するためパルスのタイミングは微妙にずらしていたが、表示はそれを補正して、同一タイミングで表示される。探知距離は最大出力ではおよそ6海里が可能であるが、消費電力が大きくなるため、現在出力では最大1海里程度となっていた。そして、その全周スクリーンにはすでに無数の巨大生物が探知されていた。

「『ドリイ』現在位置で相対静止モード」

「『ドリイ』了解。相対静止に入ります。」

相対静止とは、「みこもと」の船体前後にそれぞれ二つづつある音波ビーコンを捉え、その位相を比較し、一定の位相差に保つ事で、「みこもと」に対して静止状態になるモードである。「みこもと」がダイナミックポジショニングで対地絶対静止状態にあるならば、「ドリイ」も同様となる。これにより、音響探知した巨大生物の動きを真方位と実速度で掴むことができる。

音響探知スクリーンの映像から、数体の巨大生物が「ドリイ」への接近コースにあることが判った。接近速度は1ノット以下とあまり早くは無い。この地点での海流は南東へ0.3ノット程度である。音響探知コンソールに付いていた長野は接近コースにある巨大生物でも、海流と同速度のものは衝突コース以外低危険度に分類し、海流に逆らって、あるいは海流よりも速い速度で接近するものと、明らかに衝突コースにあるものを高危険度に分類、それぞれを色分けして表示させた。その結果、明らかに意志をもって接近していると思われる巨大生物は2体だった。両方とも距離は1海里に近く、現在の速度ではまだ2時間近く掛かる。長野はその他の探知された巨大生物の航跡もプロットした上で、2体の接近してくるもの以外の巨大生物に接近しないコースを割り出し、そのコース上に「ドリイ」を動かすことを進言した。これで現在接近中の巨大生物がコースを変えるなら、確実に意志をもって接近してくる事が判明する。吉村は長野の進言にOKを出し、田中が「ドリイ」を新しいコースに入れた。

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