汚染
第39話です。
無線LANは少し調子が良くなってきました。ただ凄い量のXmas Port Scan Attackが来てまして、WAN側からのPING要求も日に100発程度来ます。
このアタックが来ている間は明らかに接続速度が落ちます。IPスプーフィングってやつで、IPアドレス擬装してますが、幸いうちが繋がってるLACNICはWho isを公開してますんで、相当深くまで追えます。
ほとんど全てがエロサイトか中国ですね。(笑
たまにインドからもPINGが来ます。まぁ、明らかに攻撃なのに対処しないプロバイダにも問題があるんですが、この国では仕方が無いで済ませるしかありません。無線LANへの侵入ほどは不便を感じませんので、仕方が無い、で済ませるしか有りません。(笑
微粒子状の放射性物質を洗浄するための高圧洗浄装置の効果は、水に親和性を持つゼリー状物体には絶大だった。僅か数秒で船体に取り付いたゼリー状物体は洗い流されてしまったのだ。続いて船長はブリッジに微速前進を命じた。3ノット程度で船が前進すると、ゼリー状物体は船に取り付けなくなった。この一連の「みこもと」の処置は、水上航行船舶に対する抜本、応急両措置のモデルとなり得るものだった。電撃によるブラックアウトが発生しても、可能な限り停船せず、停船を余儀なくされる場合は、緊急ポンプ、消火用ポンプなどだが、これによる高圧放水を行う事でゼリー状物体の片舷側取り付きによる転覆事故は防げる事がはっきりしたのだ。「みこもと」はこの結果を直ちに調査機構に送り、各機関、船社に広報する対応を取った。今後、電撃によるブラックアウト防止のための対策を抜本対策として、現在航行中の船舶でも消火用装置を活用することで、例えブラックアウトしても応急的な対策が可能となった事は、この巨大生物への無用な恐怖を一掃させる効果が期待できた。
この広報は海運業界のパニックを抑制する事に大きな効果をもたらした。コンテナ船の転覆以来、北太平洋航路へ向かう船を一時的に待機させていた船会社は、対応策を各船に徹底させると、一斉に船を出港させた。北太平洋航路における貿易危機は当面の間回避されたのだ。センセーショナリズムを特ダネと勘違いしているマスコミにはあまり大きく扱われる事は無かったが、世界経済にとって、無視できない救いとなった事は事実だった。
時間は前後するが、「みこもと」は3ノットで航走しながら「金魚改」を投入した。以前の調査でも「金魚改」は巨大生物の密集域を通過しており、その時巨大生物の中に入り込んでしまったが、曳航索への抵抗はほとんど無く通り抜けてしまった。そのため甲板で作業する要員たちも別段の警戒はしていなかった。しかし、今回は違った。「金魚改」を投入して曳航索を繰り出し、所定の長さまで繰り出したところでストッパーをかけ、水の抵抗によるテンションが掛かるのを待ち、スリップを入れて曳航長さを固定する。しかし、今回は異なっていた。ブレーキストッパーを掛け、テンションが曳航索に掛かった瞬間、これまでとは比べものにならない抵抗がかかり、ケーブルドラムのブレーキが滑り出したのだ。速度を曳航時速度の7ノットにまで増速していた「みこもと」だったが、後部甲板の様子を見た当直中の二等航海士は即座に最微速まで速度を落とした。この判断が「金魚改」と曳航索、巻き上げ装置を救った。後部甲板で作業中だった担当の黒岩はインターカムで音響観測室に待機中の長野を呼び出した。
「長野さん、大至急ビデオカメラを生かして下さい。」
「ん?何かあったの?、ビデオカメラ生かしました・・・・って、何だこれ?」
「すみませんが、そのまま生かして置いて下さい。すぐそちらに向かいます。」
黒岩はそう言うと、曳航索のテンションを監視している甲板員に後を頼み、音響観測室へ走った。
「長野さん、どんな画像です?」
「う〜〜〜ん・・・なんか例の巨大生物を引っ張ってる格好になってるんだが・・・」
音響観測室の画像モニターには、丁度体の中央辺りに曳航索を引っかけた変異種の巨大生物が映っていた。「金魚改」は2mほどの全長の半分ほどを巨大生物に潜り込ませているようだった。「金魚改」は海中での自由度を増すため、曳航索は先端部には取り付けられていない。先端から1/3ほど下がった、曳航時に上側になる部分にリップを取り付け、そのリップに開けたアイから曳航索を引く形になっていた。これにより「みずなぎ」のサーボ装置を流用した可動潜舵の操作で姿勢を変え、深度を変更する事が出来る様に改造したのだ。曳航体の中央付近に接地された全周カメラは曳航索で引かれ、中程から折れ曲がったように見える巨大生物を捉えていた。カメラが前方を向いたとき、その数Cm先にELによって発光する巨大生物の表面が見えていた。
「これ、吉村さんを呼んだ方が良いですね。」
「そうだな。巨大生物の性質が変わってる。」
長野はモニター監視を黒岩に任せ、インターカムで吉村を呼び出した。
「吉村さん、音響観測室までご足労願えますか?」
「なんだ、なんかあったのか?」
「ええ、例の巨大生物の性質が変わったみたいです。」
「判った。すぐ行く。」
吉村が音響観測室に現れたとき、「金魚改」はすでにその全長を巨大生物の中へ没していた。
「長野、どうしたんだ?」
「吉村さん、巨大生物が硬くなってます。全周モニター見て下さい。」
「なんだと・・・うん、確かにそう見える・・・長野、村木君呼んでくれ。」
「了解」
音響観測室に現れた村木はモニターを見て固まっていた。それもそうだろう、僅か数ヶ月で体の構造を変化させるまで進化できる生物などこれまで存在しなかったのだから。そして、「金魚改」本体が黒灰色の筋状の部分まで進んだとき、「金魚改」への強烈な電撃が記録されると同時に、巨大生物全体が一瞬硬直したかのように動き、その後、まるで釣鈎に掛かった魚のような動き(体のサイズ相応な動きではあるが。)をした。スリップで固定していない「金魚改」曳航索はこれに耐えられず、ブレーキストッパーの摩擦力に抗って引き出されて行く。「金魚改」の曳航索取り付け部の機械的強度はすでに限界近かった。吉村は船長に停船を要請した。ゼリー状物体が船に上がってくる危険はあるが、ここで「金魚改」を失うわけには行かない。船長は吉村の要請を受けて、即座に停船し、ゼリー状物体が船に取り付く事を警戒して、左右両舷に消火ホースを操作する人員を配置した。
しかし船が止まっても、曳航索のテンションは消えなかった。巨大生物が船から離れるように動いているのだ。吉村はさらに後進を要請した。停船していた「みこもと」は即座に曳航索のテンションが減少する方向へ後進を開始した。そしてそれによりたるみの出来た索を巻き取って行く。そしておよそ30分後、」金魚改」は海面に姿を現した。しかし、それだけでは終わらなかった。
音響観測室では「金魚改」が海面に姿を現す前に一大事が出来していた。黒灰色の筋状の部分に接近した頃からCCDカメラのドット欠けが目立っていたが、「みこもと」が後進を開始した頃、それが一気に増加し、周縁部を除いてほぼ全てのCCDドットが機能を停止したのだ。
「長野、なんだこれ?なんでカメラがおかしくなったんだ?」
「判りません。吉村さん。こういう現象を起こすのは強い放射線を浴びた時しか無いとは思いますが。」
「ということは、カメラが放射線を浴びたって事か?」
「現象だけ見ればそういう可能性を指摘できます。」
「あの巨大生物は放射能を持つって事なのか。まずいな。」
その危惧は的中した。海面に現れた「金魚改」を甲板に引き上げる作業が始まり、丁度甲板高さまで吊り上げられた時だった。突然船内の警報が鳴り渡った。ブリッジから船内放送で「放射線警報。右舷甲板から退避」の指示が流される。観測管制室にある放射線量モニターには、「金魚改」がつり下げられている右舷後部甲板を中心に1mごとの被曝線量が表示されていたが、およそ右舷舷側から2mほどの距離につり下げられている「金魚改」至近の甲板上で700mシーベルトを超える事を示す赤で表示された範囲が舷側から1m以上内側にまで広がっていた。すでに後部甲板は防護服無しで立ち入るには危険なレベルに達していた。船長は遠隔操作でサイドクレーンを緊急リリースし、「金魚改」を海に落とす措置を取った。幸い、甲板は汚染されておらず、「金魚改」を海に落とすだけで甲板上の線量は通常レベルに戻り、「金魚改」を海面に引きずったまま、対処を検討する時間が持てた事は非常な僥倖だったと言える。
後部作業ベイには深海潜水艇用の除染装置が設置されている。そこで「金魚改」を後部ベイに回し、除染後調査を行う事とし、「金魚改」を海面に引きずったまま、曳航索を後部ベイに回す作業が行われ、「金魚改」は後部ベイから引き上げる作業に入った。ベイに引き上げられた「金魚改」は除染装置で除染され、十分に線量が低下したことを確認の上甲板に降ろされ、点検のために分解されることになった。
「金魚改」の放射線汚染は結果的に「みこもと」から無人観測手段を奪うことになった。確かに船体接地型のマルチビームサイドスキャンソナーや『ドリイ』も有るが、其れで出来る事には明らかな限界があった。吉村は有人観測機材の投入をためらっていた。巨大生物がこれまでの観測とはかけ離れた動きを見せているのだ。「みずなぎ」や「かいえん」の有人潜水艇を送り込んで無事に済む保証は無かった。しかし、それでもこのタンパク生物の謎を解明し、海洋の危機を回避するためには、いまだ十分な知見を得ていないのも確かだった。吉村は決断を迫られていた。
「吉村さんよぉ、俺たちを行かせてくれねぇか。何なら一筆書くぜ。」
「一の瀬さん、長崎さん、お気持ちは有り難いのですが、危険なことがはっきりしている処へ行って貰うわけには行かないのです。」
「危険たって、必ず死ぬと決まった危険じゃねぇし、事実『みずなぎ』は一度切り抜けてる。それでもダメなのかい。」
「あの巨大生物が以前のままなら、行って貰ったかも知れません。でも今のアレは予測が付かないのです。あまりにも大きく変異しすぎました。今度はいきなり艇が潰されるかも知れないのです。」
「それなら『かいえん』ならどうです?『かいえん』なら、最大1万3000mの深さの圧力を受けても潰れません。というか安全率を考えれば、瞬間的なら3万mクラスの圧力にも耐えられるでしょう。放射線にも強いのは実証済みですしね。」
「長崎さん、確かにそうですが、圧力と同時に電撃を受けることまでは、さすがの『かいえん』でも想定していません。」
「とはいえ、何らかの手段で調べねぇと、いつまで経っても『わからねぇ』ままだろうがよ。」
「それはそうなんですが・・・・」
「おい、吉村さんよ、こうしたらどうだ。俺と長崎が『かいえん』で降りる。『かいえん』がいきなり潰されることが無いのはあんたも認めるだろ。いきなり潰されることが無けりゃ、後は何が起きても浮上くらいは、俺と長崎ならなんとでもできるさ。どうだ長崎。」
「ええ、一の瀬さんとなら、相当なことが出来ますね。マニピュレーターで艇の改造くらいしかねませんからね。」
「いや、それはまずいですよ。もし事故があったら、艇長二人を一度に失う事になります。」
「ばかやろう、縁起でもねぇこと言うな。今は最大戦力を投入する時だろうが。」
「そうですよ。ORの面から考えて下さい。人的ファクターでの最大安全度は私と一の瀬さんが組む事で得られるはずです。装置ファクターでの最大安全度を持つのは『かいえん』です。この組み合わせが今『みこもと』で可能な最大の安全度を持つ事は自明でしょう。」
「判りました。一の瀬さんと長崎さんのペアで潜っていただきます。しかしその前に『ドリイ』を自律モードで送ります。最低限『ドリイ』が浮上できることを条件とさせて下さい。」
「判った。確かに『ドリイ』が浮上できないような状況では、あんたの言うとおり危険すぎる。よ〜し、田中に渇入れてくる。」
張り切る一の瀬に長崎は苦笑しながら、吉村の居室を出て行った。
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