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政治

第35話です。

相も変わらず、我が家の無線LANに攻撃をしてくる輩が居ます。やっとおぼろげですが、どこから攻撃が来ているのか判り始めて来ました。今、特定するための無線装置を作り始めています。無線LANの周波数ならおそらく5mくらいの誤差で特定できるはずです。

この長野の心配は的中した。与党国会議員が国政調査権を盾に「みこもと」の調査結果の開示を求めてきたのだ。

「ですから、お渡しできる資料はそれだけしかありません。」

「嘘です。もっとあるはずです。国会議員の国政調査権に基づく請求を拒否なさると刑事罰がありますよ。」

「なんと言われようと米海軍からの依頼で調査した結果は私どもから渡すわけには行きません。どうぞ米海軍にご請求願います。」

「私は米海軍ではなく、あなたに要求しているのです。今すぐ出しなさい。」

「あなた、頭大丈夫ですか?米海軍の依頼に基づいた調査資料の所有権は我々には無い、と言っているのです。所有権を持つ方に請求して戴けますか。私は所有権者ではないので、私に請求されても意味がありません。」

「失礼な!私は国会議員ですよ。あなた程度、いつでもクビにできるんですよ。資料を出さなければあなたはクビですよ。」

「やってみたらどうですかね。半官とは言え、立派な民間組織の構成員を国会議員の名をもって解雇できるというならやればいい。」

「後で悔しがっても知りませんよ。」

「ええ、国会議員ってのも、決して安泰な地位じゃないですからね。」

「脅すつもりですか?」

「どっちがでしょうね。申し訳ありませんが、このやりとりは全て録音されていますが?」

「あら、事前に通告のない録音は違法だと思いますが?」

「え?お渡しした承諾書に全て書かれているはずですが、お読みにならなかった?」

「くっ・・・」

「残念ですが、お渡しした資料以上のものはこちらからはお渡しできません。後は米海軍の許可を持参戴ければお渡し致します。ただし、私どもが所有する資料は全て一時資料で、処理は米海軍が行って居ます。デジタルデーターの処理はそちらでお願いする事になります。また資料には米国家安全保障省による保安処置が施されています。その解読もそちらでお願いする事になります。これ以上無ければ失礼致します。」

「ちょっと待ちなさい。あなた日本国民でしょう。日本の国会が求めるものを出さないなんて、非国民じゃないですか。」

「申し訳ありませんが、あなたに言われたくありません。私は帰化した日本人ではありませんので。それでは。」

吉村は食い下がろうとする中国名の国会議員を尻目に応接室を出た。同席した調査部長は顔色を七色に変えながら、「吉村君、おい吉村君!」と呼び止めているが無視した。

廊下に出た吉村を追いかけてきた調査部長は、怒気を孕んで吉村を詰問した。

「吉村君、いくら何でも国会議員に失礼じゃないか。」

「部長、また3年前の繰り返しをなさるおつもりですか?」

「いっ、いやそういうつもりではないが、もう少し言いようがあるんじゃないかね。」

「どんな言いようがあるのですか?データー自体、米海軍の所有物であることは部長もご存じのはずですが?」

「そっ、それはその通りだが、魚心あれば水心ってことわざもあることなんだから・・・」

「部長、米海軍と敵対して今後有効な海洋調査が行えるとお考えですか?それとも、調査機構の存在意義はもう無いとでも?」

「いっ、いやそこまで言うつもりはないが・・・・」

「であるならば、きちんと筋は通していただかないと。しかるべく許可を持ってくるのなら、別に資料を渡すのにやぶさかではありませんが、国会議員なら何でも可能と思われてはこちらが困ります。」

「いや、それはそうなんだが・・・・」

この調査部長は3年前、調査部次長職あった当時、「みずなぎ」開発に関わる米海洋研究所への情報提供に対して吉村追及の最右翼であった一人だった。しかし、「みずなぎ」が成功した事で手のひらを返したように態度を変え、最終的には「みずなぎ」開発の功績をもって、前部長が専任理事に就任して空席となった部長職を引き継いだのだ。3年前とはその時の事を言っていた。専任理事となった前部長は当時の次長の部長昇進を吉村に相談したのだ。「みずなぎ」開発の真の功労者が吉村であることは、機構内部のみならず学会や各探査会社などでも公然の事実だったからだ。それを追い落とすかのような主張を繰り広げた次長を部長に起用する事が今後の活動に影響するのなら、専務理事としては考えなくてはならない。そこで現場の責任を一手に引き受けている吉村に相談した。

「吉村君、忌憚のないところを聞かせてくれないかね。」

「理事、次長は別に悪意を持って私を誹謗したのでは無いでしょう。私がしたことは本来なら調査機構が独占できるものを、提供したわけですから、非難はされて当然です。私が困ったのは、いくら独占したとしても、特許の訴訟で負ければ『みずなぎ』は完成できないと言う点を理解戴けなかった事です。しかし、それは時間が解決すると思います。『みずなぎ』はすでに実績をあげています。失敗したわけでは無いのですから、次長も理解をしていただけると思います。」

「うむ。君がそう言うのなら問題はなかろう。いや、時間を取らせて済まなかった。」

といういきさつがあったのだ。もちろん、調査部長にはこのいきさつは知らされて居なかったが、そこはそれ組織内の事、様々な噂が流れ、それとなくではあったがこの部長もおぼろげに知る事になるのは当然の帰結だった。それ以降、さすがに吉村への妨害じみた事は無くなったが、権力へのへつらいは改善されていなかった。それが吉村の「3年前」という言葉の裏側だった。


しかし、この件はそれだけでは済まなかった。この議員はほどなく、米大使主催の昼食会に招待を受けた。防衛大臣共々招待を受けたこの議員の隣には米国家安全保障省のアジア担当次官が着席した。そして議員を挟んだ反対側にはFBIから大使館へ出向した秘書官、防衛大臣と続いた。この昼食会以降、この議員は目立つ事を極力避けるようになった。昼食会に出席した他の招待客によれば、両隣の着席者と何事か深刻な顔で話していたらしかった。

そんな日本でのコップの中の嵐をよそに、情勢は激動を始めていた。きっかけは、日本政府が軍事的緊張を緩和しようと、プリオン類似タンパクの存在と、その集合巨大生物の存在、整列による電撃などの事実を公表したところから始まる。これは米国に取り晴天の霹靂であった。現内閣が一部からお花畑脳と揶揄される理由の強固な裏付けでもある、この突然の発表は米政府と米海軍にとり、厄介な問題を引き起こしたのだ。つまり、例の海域での米海軍の活動が、その電撃を引き起こす巨大生物の存在によるものであることを暗示的に暴露することになった。ここから簡単に類推できるのはなんらかの米海軍の軍事活動が、この巨大生物により影響を受けた事であり、それでは一体、何が影響を受けたのだ、という疑問が浮かぶのは当然であった。日本政府が公表したのは「みずなぎ」の遭遇したケースだけであったが、その同海域で米軍の空母任務群が活動しているのなら、米国の軍事機密を漏らしたことと変わりは無かった。左翼であろうが右翼であろうが、政治の実務に関わる人間であるならば、政治的に秘匿すべき事、ましてやそれが複数の国に関わる事柄であるのならば、調整も為しにいきなりそれを暴露することが、利害関係を持つ国に取って場合によっては宣戦布告に等しい、という事は常識として理解している。この政権にはその常識が欠如していた。市民運動家上がりを大量に抱え込んだ政権党ではそれが普通の事で有るのかも知れないが、残念ながら世界は彼らの常識では動いていないのだ。

米国はこの発表に激怒したが、時すでに遅しであった。中国はこの発表にかなり過激に反応した。しかし、物的証拠を突きつけられている事から、この発表を得意の「でっち上げ」と非難するわけにも行かず、「みずなぎ」の記録した水深が350mを越えて居る事を逆手に取り、公表されたスペックに基づいて中国潜水艦はそのような水深での行動能力は無い、とし、米軍の攻撃による撃沈の可能性がこれにより高まった、と米国への非難を強めた。これに対して米国は日本の発表を不本意ながら極力利用し、事故である可能性が否定できなくなったと、中国に反論した。

実際問題、中国として事故であったかも知れないことは十分に理解していたが、すでに引っ込みが付かなくなっていた。艦隊を動かすためには、相当な額の金が必要なのだ。艦隊一つが動けば、その活動期間中の燃料、食糧、兵への手当など、防衛予算の何割、といったレベルで費用が発生しておかしくない。そして燃料、食糧などは事前に用意が必要であり、それはとりもなおさず、すでに相当の金額が支払われていることでもある。ここで未知の巨大生物による事故であったなどという事を認めるなら、米海軍の攻撃という錦の御旗であるがゆえの出費に対する責任問題が持ち上がるのだ。そういう事情から中国、特に解放軍海軍幹部は振り上げた拳を下ろせなくなっていた。そしてその帰結は軍事衝突だった。現時点での世界2大軍事大国間の軍事衝突という、恐ろしいシナリオの実現が刻一刻と近づいていた。

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