タンパク
更新が遅くなりました。いまだインターネットの接続環境が安定しません。無線LANを止めて有線接続に切り替えようと考えていますが、各部屋への配線でどうしても借家の壁を貫通する必要があり、躊躇しています。
お金持ちが多い閉鎖コンドミニアムで街自体の治安は良くなりましたが、インターネットの世界では逆に治安が悪くなってます。先日はWEPのパスを割られてパス書き換えられてしまいました。今はSSIDを隠していますのでそこまでのアタックは無くなりましたが、WAPにすると家族のPC全てを無線が落ちる(停電は良くあります。)たびに面倒見無いといけませんので、これまた躊躇しています。
それでは33話です。
「かいえん」が持ち帰ったサンプルは直ちに船内に設けられた隔離施設で分析が行われた。サンプルは非常に高い線量を記録していた。「かいえん」も相当に汚染されていたが、仮設された洗浄装置により除染され、作業に支障が無いレベルにまで線量は低下していた。
隔離施設での分析により、プリオン類似タンパクがその折りたたみ構造の中に、複数の放射性核種を取り込み、その放射線による構造変化がタンパクを可視光線域で不透明とするため「黒い海水」が発生した事が判った。また、タンパク外殻部の受容体構造が変化し、それまで最大で2カ所であった他タンパク分子との結合点が8カ所に増え、このため放射性核種を構造内部に取り込んだもの同士の結合が放射性核種が多い処では飛躍的に増加し、黒い海水の塊を作る結果になった事が判った。
このような分析結果から、周辺海域の汚染状況がシミュレーションと合致しない原因は、このプリオン類似タンパクが拡散すべき放射性物質を取り込んで凝集したためと考えられ、それを折り込んだシミュレーションでは、現在の拡散状況に非常に近い結果が得られた。さらに、このような凝集を起こした後、放射性核種を取り込んだタンパクが減少するにつれ、一般のものとの結合が多くなり、凝集外殻部には放射性核種を持たないタンパクが集まり、最も遮蔽が難しいγ線でも、その内部に存在する起電機構がγ線エネルギーを吸収するため外部への放射線量が著しく減少する事が判明した。ただし、放射性核種を取り込んだタンパク自体の放出線量は取り込んだ核種の崩壊による放出線量と大差なく、黒い海水部分は非常に高い線量を示していた。
これらの分析結果を受け、「みこもと」は拡散下流域での潜水調査を行い、凝集核となる黒い海水を確認、さらにその近辺ではタンパクの再生産速度が上昇している事も確認された。このタンパクの再生産はプリオンと同様な機序で行われ、構造外殻に存在するアミノ酸受容体へ特定のアミノ酸が結合することで連鎖結合が始まり、ある点で長く伸びたアミノ酸結合が折りたたみを開始、タンパク分子が再生産される、という形である。これは利用できるアミノ酸の存在が多い場所では、相当に急速に再生産が行われる事を意味していた。そしてそのアミノ酸の供給源は、海洋中心部では海棲生物に由来し、沿岸部では陸上の人為、自然活動からのものに由来しているようであった。そして、現在の海域では、放射線により分解されたタンパク自身が供給源になっているらしく、線量の大きい潜水艦近傍の海水中からは、100海里ほど離れた海域の海水の約20倍ほどのアミノ酸が検出されていた。
しかし、分析中に発見された放射性物質を取り込んだタンパクの性質はこれらの発見を全て霞んでしまわせるほど、重要な示唆に満ちていた。なんと、このタンパクは放射性物質を取り込んで変成した結果、電気的刺激による整列が発生すると、双方向スイッチとして働くことが判ったのだ。これまで、タンパクが別のタンパクと結合する受容体は表面上に8カ所、正8面体それぞれの頂点の位置に確認されていたが、それが一つの正4面体だけになり、ただし各頂点は二重結合が可能になっていた。これは放射性物質で変性したタンパク同士で双方向の電流伝達が可能になった事を意味する。そして、一つの頂点へ二重結合したタンパクの状態により、他の結合点のタンパクの状態が変化するのである。これは明らかに演算素子としての動作であった。およそウイルスの半分ほどのサイズの生体演算素子と呼んでおかしくなかった。現状の潜水艦亀裂部周辺では、このような性質を持つタンパクが相互に
無数に二重結合しており、一種の演算装置として働いていておかしくなかった。おそらく、タンパクは現状の外部刺激の状態で最も効率的な増殖を行えるような素子の組み合わせを模索しているかも知れなかった。そしてそれは現状の増殖状況がそれを裏付けていると言えた。
「吉村さん、これはちょっと予想外の展開です。さすがに生体演算素子というようなものが出来上がるとは想像も出来ませんでした。」生物学の村木は明らかな困惑を表情に浮かべて吉村に報告をしていた。
「そうすると、村木の意見としてはすでに生体コンピューターが生成されていておかしくない、という事か。」
「ええ、そう考えた方が合理的です。今は潜水艦周辺のみですが、これがどこまで拡張されるか、増殖速度を考えた場合、ちょっと想像が付きません。」
「吉村さん、このタンパクの構造は、生体コンピューターというより動物の脳の構造に近いですよ。コンピューターに使われるスイッチング素子は、マトリックスの結節点としての機能しかないですが、このタンパクは脳の神経節のような働きをすると思います。」
「望月、すると何か、将来的には意志を持つ可能性が有ると言う事か?」
「ええ、そうなってもおかしくないでしょう。」
「しかし、だとすると、人間の神経細胞よりはるかに小さいこのタンパクが、人間の脳の数千倍、数万倍の容積で凝集する事になるぞ。神経節の量から言って、人間の脳の数億倍になっておかしくないぞ。」
「ええ、仮にこのタンパクが人間の脳と同様の働きをするとするなら、そのキャパシティーは人間の数億倍になるでしょう。」
「それは知的な面で人間を凌駕する存在と捉えて良いのか?」
「それは判りません。基本的にはどのようにプログラミングされるか、に寄るでしょう。鯨の脳は人間よりはるかに多い神経節を持ちますが、人間に知力の面で勝るとは思えません。このタンパクもその特異性から、鯨の脳のような発展をする可能性はあります。」
「とはいえ、それは知性を持つ、たとえ鯨並みとしても、そういう事になる。その上でその容量、これは思考速度なのか記憶容量なのか良くは判らないが、それが人の脳の数億倍であるなら、いつかは人を凌駕する事になるのではないか。そう考えるのがあくまでも普通の人の考えと思うが。」
「それは否定も肯定もできませんね。」
ご意見、ご感想お待ちします。
前書きに書いた理由で、更新のペースは落ちると思います。ご寛容下さい。