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潜水

引っ越しのためインターネット環境がありませんでした。更新が遅れましたことお詫びします。

やっとケーブルTVの引き込みが終わり、無線接続を立ち上げましたが、携帯端末によるインターフェア(WiFiアクセスを発見したAP全てに行う設定のため)が酷く、安定的に繋がるまで時間が掛かってしまいました。まだこの国にはスマートフォンは早いのかも・・・・

それでは第32話をどうぞ。

「みこもと」は「金魚改」を曳航しながら、速度7ノット程度で、「なつしま」が作成した100ベクレル線に沿って移動していた。「金魚改」の曳航深度は250m付近であった。

「吉村さん、ここまですでに30海里ほど曳いてきましたけれど、深くなるほど検出放射線量が少ないんですが?」モニターを見ながらシステム担当の長野が言った。

「うん、変だな。それでも何らかの原因で非常に局所的な沈み込みが起きてる可能性は否定できない。もう少し曳いてみよう。」

「了解。」

しかし、100ベクレル線辺縁部を100海里ほど曳航した後でも、深くなるほど検出放射線量が少なくなる現象は変化が無かった。

「志村さん、どうも理解に苦しむのですが、水深250mと水深10mで40ベクレル以上放射線量が減少しています。これについて何か知見はありませんでしょうか?」

「吉村さん、基本、私と北村さんは原子炉の機構設計、放射線防護設計が専門ですから、拡散についてそれほどの知見をもっているわけじゃありません。本来なら鈴木さんがそれを担うべきなんですが、あの方じゃ無理だと思いますし・・・」

「吉村さん、放射線防護という観点から見た場合、こういうことは、なんらかの吸着剤を使った時に起きます。例えば水槽に汚染水を入れて、底部に吸着剤を設置した場合、表面の放射線量が高く、底部に行くほど放射線量が下がる、という現象ですね。ただ、元々の汚染水に含まれる放射線核種の量は変わりませんので、吸着剤の線量が大きくなっているわけですが・・・」

「北村さん、ということは、この海域でその吸着を起こす何かがあるという事になりますが。」

「ええ、そうなりますね。本来でしたら、汚染海水を分析して放射性物質を特定する必要があるのですが・・・」

「取りあえず、搭載した質量分析機での分析は行っています。メーカーの方が乗り込んでますから、操作はできますのでね。」

「どんな結果が出てるんでしょう。」

「これは皆さんに報告していない理由なんですが、表層水、つまり一番線量の大きな部分では、検出されるのはセシウムと僅かなヨウ素だけです。ラドンなどはこの辺まで来ると測定誤差に埋もれているようです。ほとんど90%以上がセシウムですね。」

「ああ、それは当然ですか。U235の分裂生成物ですから、セシウムが一番多く検出されるのは当たり前ですね。」

「ええ、それで報告しなかったわけなんですが、今、ちょっと思いついて、長野に100ベクレルまでの海域に含まれるセシウム総量をシミュレートさせてみてます。もうすぐ結果が出ると思うのですが・・・志村さんと北村さんにお願いしたいのですが、潜水艦の原子炉が今までずっと臨界状態だったとして、どのくらいの放射性セシウムが出てくるのか、試算お願いできませんか?」

「これまでの情報では、すごく大雑把な計算しかできませんですけれど、構いませんか?ああ、吉村さんの意図するところは判っているつもりです。」

「それなら話は早い。早速お願いできますか?」

「判りました。

こうして長野のシミュレートと北村の概算結果を付き合わせて判ったのは、汚染海域に存在するセシウムの量が異常に少ない事だった。およそ1千倍近い開きがあったのだ。この結果は原子炉技術者に大変な驚きを持って受け取られた。

「吉村さん、シミュレーションの信頼性は確かなんですね。」

「ええ、おそらく北村さんの概算程度には信頼性はあると思います。」

「誤差を一桁としても、大変な開きですね。何らかの吸着作用が働いているとしか思えません。」

「沈没地点の海底は深海軟泥、炭酸カルシウム、つまりプランクトンの死骸が主成分です。海水は例のタンパクを除いて特異な組成ではありませんね。」

「とすれば、結論は一つではないでしょうか?例のタンパクが放射性物質を吸着している。」

「確かにこれまで発見されていないものであるのは確かですが、そんな能力までタンパク質が持てるのだろうか・・・」

「ともかくもサンプルが必要ですね。」

「その通りです。潜水調査を行いましょう。」


「みこもと」は潜水艦沈没点付近へ戻り、「かいえん」の潜水準備作業に入った。同深度での作業は「ドリイ」でも可能だったが、人間が乗らない事で小さく、安全係数を低く取ってある「ドリイ」の耐圧殻は「かいえん」と比べると薄く、放射線遮蔽の効果が低かった。高粘度海水中ではケーブルを引けないため、前回の調査でいくつかのメモリーにビット異常を起こした「ドリイ」を自律モードで潜水させる事は最悪喪失を覚悟しなければならなかった。「かいえん」は有人であるため、あまり線量の高い部分に近づくことは出来ないが、それでも50mmを越える特殊鋼耐圧殻は放射線遮蔽にそれなりの効果があった。

準備が終わった「かいえん」は艇長の長崎と助手の一の瀬により潜行を開始した。

「こちら『みこもと』、『かいえん』聞こえますか。」

「こちら『かいえん』感度良好。現在深度2500m、沈下速度0.9m毎分。海水粘度は前回潜入した時よりも高いようだ。艇内放射線量は0.7マイクロシーベルト。問題は無い。『みこもと』どうぞ。」

音声オペレーターを担当しているのは「みずなぎ」助手の津田だった。彼は「かいえん」の制御システムにも精通している。長野と志村、北村が見つめているモニターには艇外の映像にスーパーインポーズされた艇内外の放射線量が表示されている。それによれば、艇外の放射線量は艇内のそれの50倍程度に達していたが、状況から考えれば、かなり低い値であった。

「かいえん」は「ドリイ」が設置した音響トランスポンダを目標に潜水艦に接近して行ったが、長崎は前回の潜水とは様相が異なっていることに気づいた。潜水艦に接近するにつれ海水の透明度が落ちているのだ。すでにフラッドライトの先は数m程度の見通ししか無かった。

「『みこもと』こちら『かいえん』、なんか前回と様子が違うんだが・・・」

「『かいえん』、『みこもと』。どう様子が違うのですか。」

「『みこもと』、透明度が非常に悪い。前回はこんなに透明度が悪くなかったのだが。」

「『かいえん』、『ドリイ』が潜水したときはそれほど悪くなかったようでしたが?」

「『ドリイ』よりもライトが強いから、遠くまで見えるんで気がついた。」

「なるほど。それでどう透明度が悪いんですか?沈積泥が巻き上がってる感じですか?」

「いや、泥は巻き上がって無い。ライトが暗くなった感じだ。それでも近距離だと、いつもと同じだから、ライトは正常と思う。光が届きにくくなってる感じだ。」

「了解。潜水艦は見えましたか。」

「いや、まだだ。もう20mは切っていると思うが艦体はまだ確認できていない。」

「おかしいですね。20mなら見えても良いと思うのですが。」

「15m、まだ見えない。10m、見えた。なんだあれは!!」

「どうかしたか。長崎さん。」吉村がマイクを奪うようにして呼びかけた。

「吉村さん、艦体の亀裂部分が見えない。亀裂部分が真っ黒な海水で覆われている。」

そのとき放射線量警報装置がアラームを鳴らした。

「現在、艇内線量20ミリシーベルト、蓄積線量からここに居られるのは後10分程度と思われます。」

「判りました。黒い海水のサンプル採取だけ行って、至急その場を離れて下さい。」

「了解。サンプルはすでに採取済み、直ちにこの場を離脱します。」

「かいえん」は浮上シークエンスに入り、潜水艦の近くを離れた。浮上中に採取したサンプルを防護容器に収め、浮上後の汚染を極力防止する措置を取り、順調に浮上した。

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