拡散
第26話です。
どうもデュアルブートのWin側から何かされたか、ハードの問題のようです。しかしWinなんか余り立ち上げないのですけどね・・・
給油を受けた「みこもと」は艦隊に戻る「ステザム」と給油艦と別れ、一路帰途についた。余分な燃料をプレゼントされた機関長の大盤振る舞いにより、通常の巡航速度よりも2ノットも早い20ノットで航行したため、母港横須賀には予定より2日も早く到着した。しかし、母港に帰ったからと言って、乗り組み員はすぐに休めるわけでは無かった。甲板科は索具などのメンテ、航海機器のメンテに追われ、機関科は過負荷全速運転の後始末に追われていた。研究員も今回のミッションで発見された謎の生物と高粘度海水の分析、報告を行わなければならず、帰宅の時間を惜しんで船に寝泊まりするものすら居た。本来なら数日は休暇を与えられ、次のミッションが決まるまでの間に行う作業だったが、今回は帰航の航海中にすでに次のミッションが決まっていた。例の海域の再調査であった。特に核汚染が発生している事もあり、速やかにモニタリングを行う必要があった。
船長や吉村達幹部も各省庁、海保、自衛隊、米海軍などとの調整に追われ、船員や研究員と同じ運命にあった。しかし、さすがに2週間が過ぎると、忙しさも峠を越え、作業も外注作業が主体となり、また研究員は地上のスーパーコンピューターの支援が受けられる体勢が整い、分析作業が飛躍的に進んだ事もあり、定時で帰宅できる状況になりつつあった。そして、核汚染海域での調査のために、特殊洗浄装置と洗浄水処理装置が搭載される事になり、それの仮設工事が始まる事で、甲板作業と機関室での作業は終わりを迎えた。帰航以来2週間強に亘って不休の作業を続けた各員もようやく休暇を与えられ、それぞれの家族の待つ家に帰っていった。吉村達幹部は、それに遅れること3日、久々の休暇が与えられる事になった。
吉村は休暇を家族水入らずの旅行で過ごす事に決めていた。吉村の家族は妻恵美子と小学5年の長男健、小学3年の長女碧の一家4人であった。伊豆半島の南端に近い下田市T浜にある温泉リゾートY館に宿を取った吉村一家は、温泉と美味い地元産の魚料理を堪能した翌日、下田市内の海中水族館を訪れていた。ここには吉村の大学時代の同期が勤務しているはずだった。水族館に入場した吉村は大小の魚たちが泳ぐ大水槽に妻子を残し、入り口のレストランで落ち合う事にして、さらに奥のアシカプール裏側にある飼育棟へ足を向けた。飼育棟裏手の入り口をノックした吉村は応対に出た職員に「内村さんはいらっしゃいますか?」と聞いていた。
「はい、奥の事務室におりますが、どちら様でしょうか?」
「大学の同期で吉村と言います。お取り次ぎ願えますか。」
「それでしたら、そのまま事務室にお進み下さい。ご案内します。」
「申し訳ありません。」
事務室の扉を開け、案内に立った女性職員が「内村課長、お客様です。」
と声を掛けると、奥まった机で何かを読んでいた小柄な男が顔を上げた。
「おい、吉村じゃないか、珍しいな。どうしたんだ。」
「内村、久しぶりだな。家族旅行でこちらに来たんで、お前の顔が見たくなってな。」
「そうか、ここじゃお茶くらいしか無いが、5時以降ならかまわん。体空いてるんだろ。どうだ一杯。」
「いいね。ただし女房と子供付きだがな。」
「まぁ、それは仕方が無いさ。どこに泊まってるんだ。」
「T浜のY館だ。眺めが良いんで、そこにした。」
「貧乏学生だった頃とはエライ違いだな。」
「そういうお前こそ、管理職が板に付いてきたじゃないか。」
「何を言うか。今や潜水調査艇の大御所が。調査帰りなのか。」
「ああ、そうだ。今回はちょっと特殊だったんで内容は話せないがな。」
「なんだよ、一応、特殊法人は民間扱いだろ。そんなやばいミッションもやるのかよ。」
「民間って言っても給料は税金から出てるわけでな。お前の処はどうなんだ。大水槽の魚減ったみたいだったが。」
「ああ、最近では地元の漁師も老齢化が進んでな。魚を活かして持って来る技術を持った漁師がみんな廃業して、簡単には地元の魚を買い付けられなくなってる。それに水温のせいなのか、このところ不漁だしな。漁師連中干上がりそうだよ。」
「ここでも老齢化の弊害ですか・・・しかし、巷には失業した若い連中が溢れてるんだがなぁ。」
「いや、漁師ってのは、思うほど簡単な商売じゃなくてな。ただ、大水槽の魚が減ったのは買い付けの問題じゃなくてな。」
「どうしたんだ。」
「ここ2週間で2度ばかり、取水口から変なモノが入って来て、魚が死んだんだ。それを取り除くために、大水槽の水を落とさなければならなかったのが原因だ。」
「なんだ、そのへんなものってのは。」
「ゼリーに近い感じの塊なんだが、初め通常のフィルターだけで水を回していたら、大水槽に入り込んでな。そいつに近づいた魚が、電撃でも受けたようになって死ぬ。」
「おい、詳しく話してみろ。どうもイヤな予感がする。」
「いきなりなんだ。そのゼリー状の塊の話か?」
「そうだ。ひょっとすると俺の仕事と被るかも知れん。」
「おいおい、海洋調査機構の対象と被るだと。そりゃ大変だ。どこで見つけたんだ。」
「詳しくは言えないが、小笠原の東だ。」
「そんな遠くでか?ここから1000海里以上離れてるじゃないか。」
「ああ、そのくらい離れてる。相当に大変な事が起きてる。」
「そうなのか。一応サンプルは取ってある。持って行くか。」
「そうしたいのは山々だが、休暇で家族旅行の最中だ。すまんがこの住所へ送ってくれないか。お前の処には、防護容器あるのか?」
「そんなものあるわけがない。ここで一番危険な生物は人間を除けば、オコゼくらいなんだぞ。」
「判った。ちょっと電話貸せや。市外通話問題ないな。」
吉村は電話を借り、ある場所へ電話を掛けた。
「ああ、吉村です。すみませんが、この番号へ処置済み回線で掛けて戴けませんか。PBXは通るはずです。宜しく。」
折り返し掛かってきた電話を吉村が直接取った。
「吉村です。処置済みですね。ただ今、休暇で伊豆下田へ来てるんですが、例の生物の類似情報があります。要員を出していただけますか。サンプルは取っているそうです。ここには防護容器ありませんのでお願いします。場所は下田海中水族館、親会社はフジタ観光だと思います。詳細は飼育課長の内村さんから。それではお願いします。私は3日後、機構に戻る予定です。」
「おい、いったいどこへ掛けたんだ?なんかものものしい感じがしたが。」
「ああ、一応、政府の機関だ。多分、明日そこの人間が来る。サンプルを渡してくれ。上には政府から話を通しておく。」
「あのゼリーの塊はそんなに危険なものなのか?」
「まだ判らん。ただし、これまで発見された事の無いものであることも確かだ。」
「しかし政府が動くような代物だろ。」
「政府が動いてるのは別の意味でだ。心配するな。何かあったら俺の携帯に電話してくれ。」
そう言って吉村は自分の名刺を内村の前に置いた。
「内村、心配そうな顔をするな。今夜は久しぶりに一杯やろう。」
「ああ・・・だがなぁ・・・」
「大丈夫だ。場合に寄っちゃお前もプロジェクトに一枚噛んで貰う事になるかも知れんし。」
「判った。心配しても始まらん。お、もう5時近いな。管理棟のレストランで待っていてくれるか。俺のツケで良い。今電話しておく。」
「おい、ここのレストランくらいは払えるぞ。今や潜水調査艇の権威なんだからな。」
「お、言うね。それじゃ今夜はお前の奢りな。すまんな。」
「まてぃ・・・・・・・・」
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