給油
第25話です。
現在の処、ファイルは正常です。バックアップも問題ナシ。doc.ファイルだけの問題のようです。まだ訳がわかりません・・・・
6時間ほどで給油艦と会同した「みこもと」「ステザム」は直ちに給油行動を開始した。「ステザム」には補給ポストがあるため、通常の洋上補給、つまり給油艦と併走する形で給油が可能だ。しかし、「ステザム」の補給ポスト付近には、高線量の核汚染が存在するため、通常の補給活動は出来なかった。厳重な防護服に身を包んだ要員が、オイルマーカーで示された高線量部分を避けるようにテンションワイヤーを繰り出し、給油ホースは給油艦側から供給される形で補給が開始されたが、開始までの時間は通常の3倍近く掛かっていた。「みこもと」は補給ポストを持たないため、通称「縦曳き給油」つまり給油艦が「みこもと」を曳航する形で行われる。良く訓練された海軍なら、縦曳き給油と併走する通常の補給活動を平行して行う場合があるが、軍用給油艦からの補給など一切考慮していない「みこもと」相手では無理だった。「みこもと」は「ステザム」の給油が完了するまで1海里ほど離れた位置を同行し、その後給油を行う予定になっていた。給油は比較的低速(10ノット前後)で行うため、余裕のできた「みこもと」機関室では、2基の酷使された発電機を停止、不具合のチェックと、消耗品の交換作業に入っていた。機関科総出の作業であるため、給油艦から必要な燃料の量の問い合わせが来た時、直ちに計算が出来る手空き要員が居なかった事が齟齬を生んだ。機関長は1等機関士に整備作業から抜けてそれを計算するように命じた。ベテランの1等機関士は機関制御室に戻り、残燃料を確認して、日本領海までの最小必要量を計算し、それを船橋に伝えた。
船橋士官や吉村を始めとする研究員は、それなりに米海軍との付き合いがあり、慣れていたが機関科は普段、機関室で勤務するため、あまり交流は無かった事が遠因だったかもしれない。1等機関士は燃料の必要量を通常通りキロリットルで算出していた。そしてそれはそのまま給油艦に伝えられた。
「ステザム」の給油が終わり、速度を落とした給油艦に「みこもと」は後ろからゆっくり近づいて行った。サンドレットが投げられ、それに結ばれたホーサー(太索)が給油艦に固定されると、給油艦から給油ホースがホーサー伝いに延ばされ、チクサン継ぎ手で「みこもと」側のホースと繋ぎ合わされ、給油が開始された。給油に当たった機関員は、予定の量を超えても送り続けられる燃料にあまり疑問を抱かなかった。送る量は送る側が管理しており、受ける側は要求量以下である場合のチェックだけしかしていない。普通は若干多めに送る事が常であることも手伝い、機関員は最低量チェックを済ますと、コーヒーが入ったと呼ばれていた食堂へ入っていった。どうせ給油が終われば呼ばれて、ホースの分離と漏油対策をしなければならないのだ。
ゆっくりとコーヒーを飲んでいた機関員は、いつまでも呼ばれない事に疑問を持った。そして燃料タンクの点検孔を見て頭の上に?マークが浮かんだ。すでに給油量は要求量の倍を超えていた。しかし、それでも、量の管理は供給側というセオリーが染みついている機関員は、疑問には思ったがすぐに補給停止を要求しなかった。そして、給油完了の連絡があったとき、給油された量は要求量の4倍弱に達していた。給油艦側からホース内がエアブローされ、チクサン継ぎ手を切って、メクラで蓋をした給油艦側ホースを送り出したとき、機関長から連絡が入った。機関員は補給量について機関長に正確に伝えた。それを聞いた機関長は頭を抱えてしまった。補給艦は米国である。米国の液体単位はガロンなのだ。補給艦は暗黙として単位を付けずに提示された必要量をキロガロンとして受け取っていたのだ。「みこもと」の燃料消費が酷く経済的あったが故、キロリットルをキロガロンと受け取ってもおかしくない数字が提示されていた事も一因だった。通常、米軍は自国艦以外への補給は後日代金を請求するのが常だった。それで機関長は頭を抱えたのだ。あまり経済的に余裕のない海洋調査機構では、かなり厳密な予算に従って事業を行っている。今回のミッションは突発事態であったものの、すでに第7艦隊司令部には、必要経費の請求を行っており、それには燃料費も含まれていたのだ。それを必要量の4倍近く、それもMILスペックに合致した、通常ならば自動車の燃料として使えるようなレベルの燃料を事もあろうに、キロリットル単位で4倍弱補給してしまえば、後日請求される金額は予算からかけ離れたものになる事は間違いが無かった。始末書で済めば幸せと言うものだ。
しかし、その機関長の憂鬱も僅かな時間に過ぎなかった。給油を終わり、離されたホーサーをたぐり上げた甲板員が、ホーサーに括りつけられたモノを発見した。黒いビニール袋に2重に入れられたそれは、2ケース分の缶ビールだった。そして添えられたメッセージには、米海軍からのささやかなプレゼント、燃料とビールを受け取れ、と書かれていた。そして軍用端末からは、57任務群司令官の名前で、今回の給油は米海軍の徴用船としての給油であるとし、費用は全て米海軍に帰する、という正式メッセージが入っていた。第57任務群は、戦友である潜水艦乗員の命を事実上救った「みこもと」に対し、感謝の意を表したのだ。
彼らは「みこもと」から提示された給油量がキロリットルの単位であることを知っていたのだ。それを知らぬ顔でキロガロンとして供給したのは、彼ら一流のジョークだった。前甲板で頭を抱えてうずくまる機関長の姿は、ジョーブ中佐により携帯電話に録画され給油艦で流されていた。艦内のCCTV回線に流された機関長の姿を見て、給油艦の乗り組み員が抱腹絶倒したのは言うまでも無い。後日これを聞かされた機関長は複雑な表情を浮かべていたが、なんら行動は起こさなかった。ただ、倍を超える燃料が供給されていたにも関わらず、報告すらしなかった機関員が、素っ裸でビルジ(船底汚水)清掃をやっていたという噂はあるが、あくまでも噂でしかない。
ご意見ご感想をお待ちします。