狂騒
第24話です。
破損したファイルは復元不可でした。どうもMSワードフォーマット(.doc)のファイルだけが飛んだようで、MacのRTFファイルは問題ありません。
手書き復元ファイルはRTFでセーブしました。バックアップも同じ。これで様子を見ます。もう一度飛んだら、復元する気力があるかどうか・・・・
「みこもと」船橋では、事態を飲み込めていない操舵手を突き飛ばすように船長が舵輪に飛びつき、左舷一杯まで舵輪を回した。普通の船で20ノットを超える速度でこんな操舵をすれば、最悪転覆してもおかしくなかった。しかし波浪貫通型双胴船形の「みこもと」は右舷側船体をぐっと沈めるだけで、操舵に追随した。ミサイル到来方向に船尾が向いたと思われる頃、船長は操舵手に舵輪を渡し、「方位を維持しろ」とだけ言い、エンジンテレグラフのストッパーをもぎ取るように外し、両舷とも一杯まで押し込んだ。一瞬の遅れの後、船は体が後ろに持って行かれるほどの加速を見せ、増速し始めた。すぐに船橋の電話が鳴り、耳に付けなくても聞こえる音量で機関長と思しき声が叫んでいた。船長は「ごちゃごちゃ言うな。回せ回せ!!!、目一杯回せ。」と電話に叫んだ。
船長が舵輪に飛びついた時を同じくして、吉村はコンソール上の警急ボタンを押し込んでいた。船内に「プゥア、プゥア」という警報音が流れ出した。続いて吉村は船内放送の「緊急」ボタンを押し込んだまま、警報音にかぶせて「全乗員は救命胴衣着用の上会議室へ集合」と繰り返し放送していた。会議室は船橋の2層下船首側にあり、ミサイルに背を向けて逃げている状態ではミサイルの直撃を受けても、被害は最小限で済むと思われる位置にあった。船はその間にも加速を続け、すでに公称最大速度の27ノットを超え、30ノットに迫ろうとしていたが、加速はまだ続いていた。緊急処置を終えた船長と吉村はすぐさまウイングに飛び出し、ミサイルの行方を見ようとした。そして彼らがウイングに飛び出した直後、「ステザム」の向こう側の空中に二つの火の花が咲いた。
その頃、機関室は狂乱状態にあった。いきなり過負荷全速状態へエンジンテレグラフをたたき込まれた結果、それまで4基ある発電機のうち、3基を運転して航行していたものが、4基目の発電機が起動し、暖気運転も無しでいきなり全速回転に入り、さらにそれに続いて燃料電池へ燃料を圧送する燃料ポンプが起動した瞬間から全力運転に入った。リミッターを外されて稼働し始めた機器からは無数のアラームが鳴り響き、機関長は半狂乱になっていた。それでも機関員が監視盤の運転状態を巡航から過負荷に切り替えた事で大半のアラームは消えたが、推進用電動機制御のインバーターが出す低電圧アラームは4基目の発電機が並列運転に入るまで続き、24ノットという高速でいきなり左舷一杯という大舵を取られた舵機は油圧機構のシールが破損したのか、舵が中立となってもアラームを響かせていた。一端は喧噪が収まったに見た機関室だったが、すぐにまた喧噪の渦に巻き込まれた。今度は発電機、燃料電池の温度警報だった。4基のうち、ずっと稼働していた2基は、すでに温度がレッドゾーンに入りかけていた。また燃料電池も、供給される燃料に改質触媒の作用が追いつかず、過熱し始めていた。これらの温度警報が、また機関室を満たすことになった。
こんな喧噪を知ってか知らずか、船橋では船長が微動だにせず、後方を双眼鏡で観察していた。次のミサイル発射を警戒していたのだ。「みこもと」の全速力退避を見て、「ステザム」も中国艦から距離を取る方向へダッシュを始めた。さすが軍用ガスタービン機関の力は「みこもと」などとは比較にならない加速を生み出し、あっという間に30ノットを超える速度に達していた。それでも「みこもと」はすでに30ノットを超え、竣工試験時にマークした過負荷最大速度を超えていた。1時間強、こんな状態で突っ走った後、「ステザム」から通信が入った。それによれば、偵察機による偵察で、中国艦が速度を落とし、針路を中国艦隊本隊に向けた事が知らされ、また、「ステザム」が「みこもと」と会同したいため、速度を落として欲しいとの要請も伝えられた。ジョーブ中佐からそれを聞いた船長は、それまで前方一杯に押し込まれていたエンジンテレグラフを巡航(低速)まで引き戻した。これにより、発電機エンジンの回転低下を聞いた機関長は安堵の余り、一時的に意識を手放したらしい。船橋でも状況は同じで、船長、吉村、ジョーブ中佐それぞれが、それぞれに突っ伏していた。
しばらく各人とも突っ伏していたが、後始末だけでもそうもしては居られなかった。船長は機関室と連絡を取り、状況の説明を行い、また機関室の状況を聞いていた。吉村は会議室に集まった全乗員に状況説明と、警戒態勢は続けるため、人員の割り振り等を行うために会議室へ降りていった。ジョーブ中佐は通信端末にとりつき、「ステザム」ではなく、艦隊司令部と通信を行っていた。30分ほどで「ステザム」と会同した「みこもと」は針路を90度近く変え、57任務群本隊との邂逅コースに乗った。「ステザム」からの要請だった。すでに艦隊から給油艦が分離してこちらに向かっていた。
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