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核汚染

仕事に来てみて驚いた。最近の衛星回線って凄いのね。自宅より早かった。^^;

では第21話をどうぞ。

中国籍と思われる潜水艦の圧懐から約30時間後、中国政府は救難ブイの信号から割り出したと思われる、自国海軍潜水艦の喪失を発表した。その中でかなり明確な表現で、「撃沈の可能性」に言及していた。これは日米両国、特に米国にとって大問題であった。発表された喪失位置は概ね正確で、それはすでに公表されている閉鎖水域の中心に近かったのである。この水域に米第7艦隊の多数の戦闘艦が蝟集していたのは隠しようのない事実であり、中国は潜水艦喪失の調査のため、この水域に水上艦艇群を派遣すると発表していた。

その頃「みこもと」は、第7艦隊から離れ、200海里以上海流を下った海域に到達していた。海水汚染のモニタリングのためである。核汚染発生直後、内容秘匿のため米海軍の衛星回線を通じて日本政府にも汚染発生が通知され、「みこもと」には、文部科学省から公式ルートを通じて、海域汚染のモニターを行う政府命令が下っていた。米国からの依頼によるミッションそのものは、一応の成功をもって終わっていたため、軍事的秘匿の理由以外、「みこもと」の行動を制限する理由はなかった。そのため、「みこもと」は第7艦隊との共同体勢を解いて、単独で核汚染モニタリングの調査に入っていた。

核汚染のモニタリング自体はすでに東北関東大震災での福島第一発電所災害対策として茨城県、千葉県沖合で実施していた手順を踏襲するだけであったため、問題は無かった。潜水艦の着底点周辺100海里はいまだに米海軍による閉鎖水域となっていたため、海流の下流方向に100海里進んだ点から、海流を下りながらモニターを実施していたが、この海域では目立った汚染はこれまで検知されていなかった。この海域での海流は沿岸流の黒潮などと違い、時速0.6ノット程度と遅いため、まだ汚染水が到達していないものと思われた。そのため、200海里以上離れた海域で汚染水の到達を待ち、その位置を維持していたのだった。

「しかし、大変な事になりましたねぇ・・・」

システム担当の長野は、手持ちぶさたに自動放射線モニターの数値を追っている主任の吉村に話しかけた。

「まぁなぁ、中国があそこまで強硬な態度に出るとは思わなかったからなぁ・・・」

中国の水上艦部隊の先鋒は3時間ほど前に第7艦隊の航空部隊と接触していた。

「しかし、米艦隊に『捜索をするからそこをどけ』などという通告をするとは思ってもいませんでしたからね。」

「米艦隊としちゃ、すでに目的は達したから、場所を空けるとは思うけれど、曳航している潜水艦を見られたくはないだろうから、航空機も含めて接近は許さないだろうからなぁ。」

「しかし、中国側はあの海域の特殊な状況を知りませんから、さらに被害が出るんじゃないかと・・・」

「彼らも国内事情が、節を曲げてでも情報の提供を乞う事を許さないだろうし、現場だけで秘密裏にってのも、乗り組んでいる人間の教育に問題があるから、難しいだろうなぁ・・・」

「しかし、あの沈んだ潜水艦、やっぱり例の『幽霊』にやられたんですかね。」

「前後の事情を考えれば、そうとしか思えないからね。ダメコンでは多分世界一の米海軍の最新鋭潜水艦があの状態なんだから、いくら複合素材を使わない金属製船体だからと言っても、ある程度のダメージは食らうだろ。それが生死に直結しない部分なら問題なかっただろうが、聴音データーだと推進器どころか原子炉の冷却動力さえ止まったようだから、どうにもならなかったんじゃないかな。それと潜水艦乗員の練度の問題もあるだろうしな。」

「中国海軍の潜水艦って練度低いんですか?」

「そりゃ、潜水艦の運用に支障が無い程度の練度は持っているだろうさ。しかし、あの国は日米英独仏露とか北欧諸国みたいに戦前から潜水艦を運用してきた国じゃ無いし、元々、下級乗員の程度が高い訳じゃ無い。今時の潜水艦は最新技術の塊みたいなもんだから、日本の自衛隊だって専門職として扱われるほどの知識を必要とするのが潜水艦乗りで、いくら通常運用が出来るからといって、突発事態、それも予想もしてない突発事態に対応しろ、と言う方が酷だよ。」

「なるほど。海洋調査機構随一の潜水調査艇乗りの能瀬さんですら、やられたんですから、当たり前か・・・」

「ま、そういう事だ。問題は政治が未来永劫、それを理解できない事だろうな。」

その時、観測室の電話が鳴った。吉村が電話を取った。

「はい、観測室。あ、船長。はい、船長室ですね。すぐに伺います。長野、船長から呼び出しだ。ちょっと行ってくる。」

「了解。」

吉村が船長室に顔を出すと、すでに一等航海士、二等航海士、機関長、運用長ボースンが顔を揃えていた。

「吉村主任、ご足労願って申し訳ありません。」

「いえ、で、何かあったのですか?」

「ええ、テーブルに、先ほど機構本部から受け取ったメールのコピーがありますから、目を通して下さい。他の諸君もお願いします。」

通信文にざっと目を通した吉村は、

「船長、これ、かなり深刻ですね・・・」

「ええ、それで船の幹部に集まってもらったわけなんで・・・」

通信文には米海軍が通告した立ち入り禁止海域についての情報が記載されていた。それによれば、東経156度から160度、北緯30度から34度の範囲を軍事的理由から一般船舶の立ち入りを制限するとされていた。現状に鑑みれば、中国海軍との戦闘行為を想定しているとしか受け取れなかった。「みこもと」の現在位置はこの閉鎖海域の南端に位置していた。

テーブル上のもう一枚の通信文には、「みこもと」の安全確保のため、自衛艦2隻が出港したこと、第7艦隊から駆逐艦が1隻随伴のために派遣される事、「みこもと」は所定の核汚染モニターが終了次第、すみやかに母港へ自衛艦と共に帰港すること、などが記載されていた。

「吉村さん、そういうわけですので、観測調査部員にも周知願いたいんですが。」

「判りました船長。この後すぐにミーティングを開きます。」

「お願いします。他の諸君も同様に願います。まだ戦闘が始まった訳ではありませんので、くれぐれも冷静に対応をお願いします。本船航路としては、この閉鎖海域を速やかに出るため、取りあえず南下、閉鎖海域の外側で72時間のモニタリングを行い、汚染検出の有無に拘わらず、航路を西へ向け、海域を迂回、小笠原西側近海を北上して帰港するコースを取ろうと思います。何か意見はありますか?」

「観測調査からは特にありません。」

「機関科からも特にありませんな。」

「それでは、この航路予定で進めます。第7艦隊の駆逐艦と会同するまで、現在位置を保持、その後南下、海域を出て72時間漂泊、放射線モニタリングを実施、その後進路270度で東経140度付近まで、そこから北上するコースを取ります。吉村さん、航走中でもモニタリングは可能ですか?」

「ええ、可能です。ただし、海流の詳細が判りませんので、拡散予測データーとしてはあまり意味が無くなりますが・・・」

「了解です。しかし、最悪、そのような形になることも了承願います。」

「判りました。出来る限り意味のあるデーターにするよう、海流データーの精密度を上げておきます。」

「機関長、燃料は大丈夫ですね。」

「取りあえず、閉鎖海域の迂回には十分です。もちろん帰港にも不足はないですが、出来るならどこかで多少補給はしたいと思います。」

「了解。それは小笠原近傍でもう一度判断しましょう。最悪海自艦からも都合は付けて貰えるかも知れませんし。」

「その他何もなければ解散。宜しく願います。」

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