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発見

第二話です。

更新は不定期になる事をお断りしておきます。

「津田君、この深度でも無線ブイは上げられる?」

「現在深度370mですから、いけます。水深450mまでは上げられますから。」

「艇長、どうも水中リンクが巧く繋がらないようなんで、無線ブイを上げようと思います。艇の機動が制限されますんであまり使いたくはないんですが、他に方法がありませんので。」

「状況的にそれしか手がなさそうだね。さいぜんの機動で生物との位置関係は安定したから、ここしばらくは問題無いと思う。」

「それじゃ上げます。津田君、衛星回線メイン、一部ロングレンジUWBのセッティングで上げて貰えますか。」

「了解。上げるのは良いですが、回収はどうします。多分、この深さだと相当時間が掛かると思うんですけど・・」

「津田、回収はせんよ。切り離して上に探させよう。ビーコンセットしておいてくれ。」

機動性の喪失時間を考えれば野瀬のアイディアは妥当だった。

「そういう事なら了解です。それでは、2Mbpsの衛星メイン、400MbpsのLRUWBをバックチャンネル、ビーコンは一応、VHFと衛星両方をセットしておきます。どちらもGPS位置情報を10秒間隔で送信。この設定で上げます。」

「うん、やってくれ。」

津田はキャビン最後部の操作員席コンソールからブイにデーターを打ち込み、シミュレーターで機能を確認すると、即座にブイをリリースした。直径25Cmに満たないブイはケブラー繊維で強化されたシリコンゴム被覆に覆われた光ファイバーケーブルを引きながら上昇していった。


「吉村さん、『みずなぎ』から、衛星で入ります。今ネゴシエーション中。大スクリーンに出します。おっと、UWBにも来てるぞ。バックチャンネルで何か送るつもりだな。」長野はサーバーモニターから目を離さずに言った。

「お、絵がでた。なんだ望月の顔だけか。見たくもねぇなぁ。」

「吉村さん、それ全部『みずなぎ』で聞こえてますよ。」長野は笑いをかみ殺しながら注意した。

「へいへい、聞こえてます。そっちも吉村さんの顔しかみえないですよ。

「ん、まぁ、そのだな、それはそれとしてだな、どんなもん見つけたんだ。」

「えーえー、それはそれとしてですね・・・まず、UWBも繋がってるみたいですから、バックチャンネルでこれまでの映像を送ります。この回線ではリアルタイム映像だけを送るつもりです。長野君はそこにいるんでしょ、リアルタイム映像は高解像度モードじゃ送れないんで、バックチャンネルに復元データを乗せます。録画映像は、そのまま高解像度モードで送ります。デコードの準備よろしく。それから、吉村さん多分、海棲生物の村木君と生態学のチャンさんも一緒に見た方が良いと思います。」

「ああ、二人とももう来てる。ちょっと顔だして見て。」

 画面に斜めに二人の顔が現れて消えた。

「望月さん、データー・デコード全部OKです。テンポラリーの容量ははテラバイトオーダーですから、解像度最高で送って大丈夫ですよ。」

「判った。それじゃこれから艇外のカメラに切り替える。距離は約50m、比較対象としてカメラの視野に水色板を入れる。距離は1m。それでは切り替えます。」

カメラが外部に切り替わった当初はスケールの認識ができない事で、あまり驚きは無かった。しかし、頭がそのスケールを理解し始めると、すでに一杯になっていた観測室のそこここから驚きの声が上がった。

「大きいですね。オビクラゲの類のように見えますが、良く見ると体節らしきものが見えます。旋毛虫類かゴカイの仲間かも知れませんが、なにせここまで透明に近いのは初めてですねぇ・・・」海棲生物の村木がまだスケールを理解できていない口調で言った。

「村木サン、それどころじゃないよ。このイキモノ、生態学的には悪夢です。一体どんなエネルギーで生きてる。簡単な計算すれば判るけど、体長50m超えてるのは確かだから、単純な食物からの炭素—酸素反応じゃ相当な量を食べないと体維持できないですよ。じゃ食べ物はナニ?そんなたくさん、栄養価の高い食べ物なかなか無いよ。」

在日7年目の台湾人であるチャンの日本語は流暢だった。

このチャンの疑問に答えるかのように、「みずなぎ」の望月が割り込んで来た。

「実はチャンさん、この生物、動作だけじゃなく、他のエネルギー消費もしてるんです。ひょっとしたら、それが答えになるかも知れません。これから、それをお見せしますよ。」

そう言うと、艇外のフラッドライトを全て消灯した。艇外カメラの露光調整が光量変化に追随できず、一瞬スクリーンが真っ暗になり、徐々に何かを映し出し始めた。


 それは、この世のものとは思えない光景だった。カメラの露光調整が正常になるにつれ、観測室の大スクリーンに現れたのは、まさにそう言う光景だった。

明滅し、乱舞する光のページェント。走り、止まり、そして一瞬の爆発。その体のゆったりとした動きからは想像もできない、美しく活動的な光の乱舞だった。これには観測室に詰めた全ての要員が目を釘付けにされた。そして、自分の頭の中でそれを実スケールに変換できた人間は、大きなショックをも受けた。

「こりゃ、またその、何というか・・・・・・・」

意味をなさない言葉を最初に発したのは吉村だった。

「これは化学反応での発光じゃないです。化学反応ではこんな速度じゃ伝搬できない。ELだと考える以外に無い。エレクトロルミネセンスを自然界の生物ができる・・・いや、もっと小さなスケールなら、発電能力を持つ魚類で可能かも知れないが、このスケールでは・・・・・望月さん、生体サンプル無理ですかねぇ。」村木が興奮気味に聞いた。

「生体サンプルですか・・・・艇長、近づけますかね、そこまで。」

「あんまりぞっとしないな。軟体動物だとは思うが、サイズを考えれば、その質量だけでもこの艇をぶっ飛ばせる。」

「艇長、こちら村木です。確か、海水物理計測用の青緑レーザーパックを積んでましたよね。それで生物の体の一部を照射したらどうでしょう。レーザーメスの要領で一部を切り取れませんかねぇ。」

「散乱が大きいから、レーザーメスの様には行かないと思うが、それなら10m程度の距離まで近づけば、小さな部分は熱膨張で剥離するかも知れんな。ただ、加熱されたサンプルになるかも知れんが良いのか。」

「無いよりましです。ごく局部的に照射できれば、加熱が進まないうち剥離が起きるかも知れませんし。」

「判った、ブイ切り離し後、機動できるようになったら試してみよう。津田、準備しておいてくれ。」

「あー、吉村です。それでは艇長、くれぐれも慎重に。ま、野瀬さんの事だから心配はしないけれど。本船研究員は画像データー転送終了次第、それぞれ分析にかかってくれ。ただし、今回のミッションは生物学的調査じゃないから、そのつもりで。分析はミッション目的との関連が第一だ。」


 画像転送は20分ほどで終了した。残る調査項目は打ち切って生体サンプル収集と、付近の海水物性だけを行って帰還することなどを打ち合わせた後、LANブイを切り離し、自由な機動性を取り戻した「みずなぎ」は、370mの海中をゆっくりとその生物に接近するマニューバーを開始した。

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